本記事は、渡瀬裕哉氏の著書『無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和』(ワニブックス)の中から一部を抜粋・編集しています。

ふるさと納税
(画像=PIXTA)

ふるさと納税の問題点? 自立した自治体が日本を強くする

世界各地には、歴史や言い伝え、風習などがもとになった祭りがあります。日本でも全国各地で1年を通じて大小様々な祭りが行われ、祭りひとつひとつに地元に根付いた由来があります。

各地の祭りは、主に地元の人たちの間だけで長く続けられてきたものもあれば、100万人単位の見物客を集めるような大きなものもあります。

日本の三大祭りと言われているのが京都八坂神社の祇園祭、大阪天満宮の天神祭、東京神田明神の神田祭ですが、令和元年(2019)の全国夏祭りで集客ランキング上位には青森ねぶた祭や秋田まつり、山形花笠まつりなど東北の祭りや、徳島県の阿波おどりなどが並びます。

数百年から千年を越える歴史を持つ祭りが日本各地にたくさんあり、祭りに合わせて旅行を計画する人も多いでしょう。こうした祭りには観光産業の側面があるのです。

地域の特色を活かして観光を振興するイベントも、全国に多くあります。基本的には実際に現地に行って参加し、その土地の人と交流したり、地場産の美味しいものを食べたりして、特産品をお土産に持って帰るという人の流れができます。

政府が観光を振興する施策を行うこともあります。

実際に現地に行かなくても、地域経済に貢献できる制度もあります。「ふるさと納税」です。長野県で導入された寄付条例がもとになり、平成20年(2008)から始まりました。首相(2021年現在)が総務大臣だった頃に推進されていたものです。

都市圏と地方の地域間格差や、地方の過疎化の問題は長年の課題とされています。地方の税収が少なくなり、財源不足に悩む地方自治体には税収の大きい都市部から分配する仕組みもあるのですが、あまり大きく行うと逆に都市圏の納税者には不利益になってしまいます。

そこで地方自治体に対して他の地域の住民が寄付を行い、寄付者の年収に応じた上限まで住民税や所得税から控除を受けられる制度が作られました。

現在は多くの人たちが、このふるさと納税を利用しています。制度が始まった平成20年の実績が81億円、以後順調に利用者が増えていき、10年後の平成30年(2018)には5000億円を超えるようになりました。ふるさと納税の仲介サイトも次々と立ち上がっています。

自社ポイントの還元もある楽天や、auのようなよく知られているIT企業をはじめ、旅行会社や百貨店が運営するサイト、独自の返礼品を用意しているサイトなど、サービスも充実して使い勝手も良くなり、短期間で広く浸透することに成功した制度です。

当初、ふるさと納税は、自分の出身地にしか払えないような制度が議論されていました。それでは利用する人もいないのでは? ということで、誰でもどこの自治体に寄付してもよいことになったのです。

自治体ではより地域の魅力を活かした返礼品を考え、仲介サイトには食品や飲料品から工芸品、家電に雑貨に観葉植物などなど、多くの返礼品が掲載されています。インターネットのショッピングサイトのような作りなので、ちょっとしたお取り寄せグルメの感覚で利用する人も多いようです。

税という側面から見ると、利用者は直接的に自分の納める住民税、税金を何に使いたいのかを指定できるので、税を市場化したという意味で画期的な制度だったと考えられます。

ただし現在は、返礼品にアマゾンギフト券を配ってしまう自治体も出てきてしまい、各地の魅力のアピールや日本全体の観光振興といった元々の制度の趣旨から外れているのではないか、という批判もあります。

ふるさと納税には、もう1つ税制上の問題もあります。

自分がどこかの自治体を選んで納税すると、自分が住んでいる場所へ納める住民税がその分減る仕組みになっています。

では、どのくらい減るのかというと、自治体によって変わります。地方交付税によるがあるからです(*1)。

地方交付税を受けている自治体の場合、減った税収分の75%が補填され、実際に減る税収は25%です。

地方の人たちがふるさと納税をすると、自分の住民税は控除されて、納税先の特産品が手元に届きます。そして納税者の住む自治体には失った税収の75%が政府から補填されるという、利用者と利用者の住んでいる地域にとってお得な話になります。

一方、地方交付税を受けずに自律的な財政運営を行っている東京都の自治体の場合、東京都民がふるさと納税制度を使っても、補填はありません。

東京の人が同じ制度を使うと、住民税の控除と特産品を手にできますが自治体の税収は補填されることなく失われるので、個人(住民)だけが得をしたことになるのです。

これでは、納税者としての感覚を都市部と地方の双方で育てることは難しくなってしまいます。ふるさと納税によって、税収が減って悲鳴を上げている東京都市部の自治体も出てきています。

でも、ちょっと冷静になって考えてみてほしいのです。ふるさと納税に負けてしまう程度の住民サービスしか提供できない自治体に問題があるのではないかと。

自分の住んでいる自治体に税金を払うぐらいだったら、地方に税金を納めて和牛をもらった方がいいやと思われている、「その程度の住民サービスなのですか?」ということです。

ふるさと納税に対して文句を言っている東京都の自治体は、住民の行政に対する信頼感や、納税者とのコミュニケーションに問題があることを見直してみた方がより建設的です。

地元との関係が薄くなりがちなサラリーマン世帯にとっては、強制的に徴収される感覚はあっても納税者としての恩恵が感じられにくいものだからです。

実際には様々な日常の行政サービスを受けていたとしても、それが「地方から和牛を頂くことに負ける」、その意味を行政側も一度真剣に考えてみるとよいのです。

必要なのは、納税者とのコミュニケーションです。

納めた税金がどのように使われているのか、無駄にしない努力がどのようにされているのか、改善点は何か、そうしたコミュニケーションがなされていれば、政府からの補填を受けない自立した財政環境にある東京都にとっては、ふるさと納税は大きな問題にならないはずです。

自分たちが住む地方自治体の政策のあり方を見直すという意味で、ふるさと納税には意味があります。

この制度をうまく活かして、自分たちの地元がもっとマトモにならなければいけないという意識改革を行うことができるからです。支援したいと思う自治体に、自ら選んで納税できるのは意義のあることです。

同時に、その選択をするときにされるのは返礼品の内容ではなくて、自身が住む自治体の税の使い方なのです。

東京都民は自分の住んでいる自治体があまりにも税の無駄遣いをしているようなら、ふるさと納税を通じて全国各地の名産品を楽しみながら地元行政の改革を促す方法もあり得るかも知れません。

ところで、住民の大勢がふるさと納税で他所の自治体に税を納めてしまっても、政府から補填を受けることのできる自治体にも問題はあります。地方交付税頼みの財政は、その依存性に批判も多い仕組みです。

地方交付税は、対象となる地方自治体が最低限使う金額に対して、税収が足りないと政府が補填する仕組みです。

地方自治体は都道府県と市町村の二層構成になっていて、都道府県は47、市町村は1719に及びます。

このうち、地方交付税を受けず自力で財政運営を行っている自治体は、令和2年(2020)度時点でわずか76団体です。これらは「不交付団体」という呼び方もされます。

交付を受けている各自治体が最低限使う金額とはいったい何でしょうか。算定根拠となる複雑な数式があり、何十年もの間に計算根拠の微修正がなされています。

筆者が以前仕事で調べたときには、何十とある数式のたったひとつの算出根拠(単位費用)を調べただけなのに、何百ページもある専門の歴史書を参照せざるを得ませんでした。

しかも、その本は国立国会図書館に行かなければ読めない絶版書になっています。

要するに、算出根拠が誰にも直ぐに分からないような状態で、地方交付税は分配され続けているのです。

一見、数式にもとづいて合理的に算出されているように見えるだけで、根拠は非常にいい加減です。

納税者が納めた税金が適正に使われるためには、こうした複雑すぎて誰も開けようとしないブラックボックス化したものも、見直して改めることが必要です。

ふるさと納税によって全国各地の自治体は地域の特性を生かした収税が可能になったのですから、政府の地方交付税に依存するよりも地方自治体の自立を促していくような制度に変えていかなければいけないのです。

全国の自治体が自立し、各々がきちんとした行政運営を行うことは、日本の民主主義の土台の強化になります。

制度が適正に、より良く運用されることで地方自治体が自立し、地方が元気になります。国としてのまとまりを持ちながら自立した地方自治体が全国各地にあるからこそ、日本は強くなれるのです。


*1:区のおしらせ「せたがや」令和2年10月3日号「ふるさと納税特集号」
https://www.city.setagaya.lg.jp/static/oshirase20201003/pdf/p02.pdf


無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和
渡瀬 裕哉
1981年東京都生まれ。国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。 創業メンバーとして立ち上げたIT企業が一部上場企業にM&Aされてグループ会社取締役として従事。著書に『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか―アメリカから世界に拡散する格差と分断の構図』(すばる舎)『税金下げろ、規制をなくせ 日本経済復活の処方箋』(光文社新書)などがある。

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