本記事は、渡瀬裕哉氏の著書『無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和』(ワニブックス)の中から一部を抜粋・編集しています。

スポーツ・ベッティング
(画像=PIXTA)

7兆円産業に? スポーツ・ベッティングの可能性を考える

現代は、様々なスポーツの楽しみ方があります。読者の皆さんも、自分でプレーしたり観戦しに行ったりと、スポーツに触れることがあるでしょう。

文部科学省が実施している「スポーツ活動に関する全国調査」では、ウォーキングやジョギングから野球、サッカーなど全国的に人気の高いスポーツ、地域イベントなどのスポーツボランティアへの参加まで、国民がどのようにスポーツを楽しんでいるかをデータとして目にすることができます。

色々なスポーツの中でも、サッカーは平成3年(1991)にプロリーグのJリーグが設立されてから、熱心なファンが盛り上げてきました。

日本サッカーリーグが発足したのは、昭和40年(1965)年2月19日と半世紀前のことです。当初、アマチュア競技の全国リーグとして実業団チームが参加し、1968年のメキシコオリンピックで銅メダルを獲得したことを機に国内でも人気スポーツとなりました。

1980年代後半にプロリーグ化の動きが起こり、現在のJリーグへとつながっていきます。

Jリーグの設立趣旨には、日本のスポーツ文化としてのサッカーを振興・普及させることや、各地域に根付くホームタウン制を基本に、ホームタウンの環境整備やサッカーを通じた地元住民への貢献が謳われています。

さらに、平成10年(1998)5月に公布された「スポーツ振興投票の実施等に関する法律」にもとづいて、スポーツくじができました。

中でも、自分の予想をもとに勝利するチームを選んでポケットマネーを賭けるtotoは、試合結果などのデータを一覧できるウェブサイトもあり、人気を博しています。

こうしたスポーツの勝敗結果予想に対する賭け事は、スポーツ・ベッティングと呼ばれます。

サッカーや野球に共通するのは、チームや選手のファンの人たちと交流して地道にお客さんを増やしていく経営スタイルです。

これは海外でも日本国内でも同じです。そこに新しい楽しみ方として、スポーツ・ベッティングを解禁している国は結構多いのです。

特に、現在主流となっているのは、パソコンやスマートフォンを使って、オンライン上で完結する方法です。仲介する企業はブックメーカーと呼ばれ、各社がオンラインサービスを競っています。

中には株式が上場されている仲介企業もあります。運営のための法律も整備された、合法サービスです。

サッカーだけではなく色々なスポーツがサービスの対象で、勝敗、スコア、得点者、優勝チームなど、スポーツに含まれる色々な要素に対して、利用者はオッズを見て賭けることができるようになっています。

当然、勝てる可能性の高い強いチームは倍率が低くなり、弱いチームほど倍率は高くなります。高倍率のチームに賭ければ、損をする可能性も高いけれども当たれば賭けたお金が何倍にもなって返ってきます。

みんな自分のお金を実際に賭けているので、チームのことや試合の流れを真剣に考えて、情報を集め分析します。

つまり、そのスポーツやチームに関して詳しくないと予想が外れてしまうので、そのスポーツに対する関心が高まることから、スポーツ・ベッティングがスポーツ振興の目的も兼ねて解禁されているのです。

スポーツ・ベッティングが盛んなのがイギリスです。元は競馬のレース予想から始まり、1961年にブックメーカーに関する法律が整備されました。

イギリス人が一般にスポーツで賭ける金額は、1か月に2000円ほどと言われており、日常的に家庭の中で「ちょっとうちのチームに賭けておくか」といったふうに、気軽な楽しみとなっています。

イギリスで伝説的な大穴となったのが、2016年に起きたサッカーのプレミアリーグ優勝予想です。イギリス最弱と言われたチームが、並みいる強豪クラブを相手に大健闘して、ついに優勝してしまったのです。

優勝チームはイギリス中部をホームとするスモールクラブ、レスター・シティで、2016年の出来事は「レスターの奇跡」と呼ばれ、ホームのレスターは街を挙げて熱狂しました。何しろ、レスターは常にプレミアリーグの残留争いにいたクラブだったのです。

このときのオッズは、なんと5001倍。1000円賭けたら500万円です。「ちょっとうちのチームに……」で2000円賭けていたら1000万円です。

だからといって、読者の皆さんにを勧めているのではなく、スポーツ・ベッティングには現代だからこその社会的な意義や経済への貢献もあるのです[※1]。

現在、ブックメーカーのサービス対象は、スポーツの試合以外にも広がっています。アメリカ大統領選挙の結果予想や、イギリス総選挙の議席数といった分野もあります。

ブックメーカーが提供するサービスで自由に競争をすることで、より楽しい賭け対象を考えているのです。

たとえば、アメリカ大統領選挙の結果予想だけでなく、「新しい大統領が最初に外遊する国はどこか?」という予想となると、まるっきり政治分析の世界です。色々な賭けを考えて、たくさんのサービスを提示し、色々な人が参加することで産業が拡大・活性化します。

2020年10月、メディア事業を手掛ける株式会社サイバーエージェントが、日本でスポーツ・ベッティングを解禁した場合の国内市場規模を試算し、発表しました。

それによると、日本国内は最大七兆円規模の市場になると推計されています[※2]。

2020年に始まった新型コロナウイルス感染症は、人の流れや経済活動を政府によって規制する手法で感染拡大を抑制しようとしました。

人々が一か所に集まる大きなイベントには政府によって色々な制限が設けられ、スポーツ観戦も規制対象となりました。

これまでは、スタジアムに大勢の人を入れ、観戦者はみんなで応援して一体感ともども楽しんできました。

そして、イベントを実施する側はチケット販売や会場でのグッズ販売で開催資金を回収してきました。人が集まるので、広告主を入れて広告費を得たりもしました。そうした従来のビジネスモデルが危機的状況となったのです。

ところが、インターネットの普及によって、直接会場へ足を運ばなくてもオンラインで観戦できる環境が発達したことで、少し状況は変わってきています。

スポーツ・ベッティングをしながら、SNSで友達とつながりながら、オンラインを通じてスポーツ観戦に熱狂し、情報や分析を交換して楽しむことができるのです。

観客動員数が減少して経営が苦しいチームでも、スポーツ・ベッティングを通じた売上げの一部がチーム経営の財源となれば、チームも選手のために従来通りお金をかけることもできますし、より良いトレーニング環境を用意することや海外から強い選手を連れてきてプレーさせることもできます。

日本でレベルの高いスポーツ事業ができるということは、日本の選手も世界で通用する水準に育てることができるのです。コロナ禍のようなパンデミック発生時にもオンラインからの収益は事業を存続させることにつながります。

世界の市場も見据えた、開放的なスポーツ産業に発展していく可能性を妨げているのが、現行の法律です。現在、法律によって賭け事が認められた公営競技は、競馬、競輪、競艇、オートレースの四事業です。

スポーツ・ベッティングとは少し違いますが、宝くじも公営です。運営しているのは法律で認められた特殊法人や地方公共団体で、地方公共団体が実施するものは収益の一部が地方自治体の財政資金となります。

地方公共団体以外の運営法人は、役所の天下り団体でもあります。先に紹介したtotoも同様です。

一方、スポーツ・ベッティングを運営するブックメーカーは民間事業者です。現在、日本の法律では上記の四事業以外に民間での賭博サービスを認めていません。

海外のブックメーカーを日本人が利用することについては、以前にイギリスを拠点とするオンラインカジノサイトのうち日本語でのサービスを提供していた企業が問題となったことがあります。

このときは、利用客を逮捕したものの、不起訴となりました。

民間事業者が賭場を運営するという点では、平成28年(2016)に成立した統合型リゾート(IR)整備推進法という法律があります。「カジノ法案」と通称されたりもしますが、要は観光の振興が目的です。

シンガポールやマカオのように、宿泊施設、国際会議場、劇場や映画館、飲食店のような商業施設、スポーツ施設が集まった複合型リゾートの中にカジノが含まれている内容です。

なぜ、民間事業者でも賭場を運営してよいのかというと、室内施設であることや、事業者による公正な実施、偶然で勝負が決まるといった細かな要件を定めたうえで、自治体が申請し政府が認定する手続きとなっているからです。

なのでIRは運営事業者が特定の条件のもとで四事業から一部広がる程度なのです。

スポーツ・ベッティングは偶然で勝敗が決まるものではありません。各々のチームでプレーする人たちは、いってみれば専門家です。専門家が技術を争い、を削って最終的な結果が生まれます。

賭ける側もよく見て、分析をして賭けます。そこでIRとは少し違う基準が必要なのです。規制を考えるのではなく、むしろきちんとした産業として育てていくことは日本のスポーツの活性化にもつながります。スポーツ事業が活性化すると色々な関連産業も振興するようになります。

実際に、新型コロナの自粛で公営競技は、動員人数が大きく落ち込んでいるにも関わらず、オンラインサービスの利用により売上高は大きく伸びていることが指摘されています[※3]。

民間事業の参入を規制しているということは、その産業をまるごとひとつ潰しているのと同じです。

規制は悪徳事業者の横行を防ぐだけに留めて、社会の利益になる事業として育て産業を発展させることで、国民はサービスを楽しむことができますし、経済活況の恩恵を受けることもできます。

もちろん、政府にも税収が入ります。サービスを利用することで、これまで関心のなかったスポーツの分野にも、どんどん興味を持つ人が増えるかも知れません。

オンライン・ベッティングの普及は、オンラインで色々なことをするという、コロナ禍の中で生まれた新しい文化のうちのひとつに、スポーツも加えることになるのです。

今までの堅苦しい規制をなしにして、ブックメーカーを解禁することも日本経済復活の方向性のひとつになり得るのです。



無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和
渡瀬 裕哉
1981年東京都生まれ。国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。 創業メンバーとして立ち上げたIT企業が一部上場企業にM&Aされてグループ会社取締役として従事。著書に『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか―アメリカから世界に拡散する格差と分断の構図』(すばる舎)『税金下げろ、規制をなくせ 日本経済復活の処方箋』(光文社新書)などがある。

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