本記事は、渡瀬裕哉氏の著書『無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和』(ワニブックス)の中から一部を抜粋・編集しています。

女性,男性
(画像=PIXTA)

高度人材活用──外国人人材の誤解を解く

国際的なビジネスや投資の環境が整うと、日本には色々な目的で外国人がやって来ます。日本で活躍する外国人といえば、すぐに思いつくのはテレビに出演しているタレントさんや芸人さん、野球やサッカーなどのスポーツで活躍する外国人選手でしょうか。

日本の国技である相撲の世界でも外国人力士の活躍は目覚ましく、近年ではモンゴル人力士をはじめ外国人力士から番付最高位の横綱も輩出されるようになっていますが、実は50年ほど前までは外国人力士というのは本当に珍しかったのです。

昭和47年(1972)7月16日、大相撲名古屋場所で初めて外国人力士として幕内優勝したのがです。旧名をジェシー・クハウルアというハワイ出身の力士で、後に日本国籍を取得して部屋を開き、後進を育成しました。

筆者が子供の頃に活躍した力士でよく覚えているのは、関です。曙もハワイ出身で、スカウトされて東関部屋に入門、初めて外国人力士として横綱となりました。とても体の大きな力士で、歴代の横綱の中でもっとも巨漢です。

強烈な突っ張りで突っ込んでいく曙関に、体の小さな日本人力士がどう戦うのか、子供心に毎回面白く観た記憶があります。

それ以来、多くの外国人力士の活躍や、その強さがファンを喜ばせるとともに、日本人力士も彼らに刺激を受けてますます相撲が面白くなっていくという、純粋に力と技で勝負する世界ならではの盛り上がりとなっています。

外国人にも相撲ファンは多く、伝統を守りながら日本人だけではなく多くの国の人たちが参加し、一緒になって盛り上げてきた相撲の歴史は、日本人の柔軟な姿勢を示している競技だと言えるのかも知れません。

実力勝負の世界で外国の優れた人材を受け入れることは、相撲の世界だけではなくビジネスや学問研究の世界にも広がっています。

近年、専門的な技術や知識を持つ外国籍の人々は高度人材と呼ばれ、政府の出入国在留管理でも受け入れを促進する施策を行っています。

外国から優秀な人たちに来てもらい、日本に定着してもらって新しい産業を作ったり学問研究を行ったりしてもらおうということです。

自由主義の国は、国民に居住や移転の自由を保障し、各国間での自由な往来があります。各国の国境管理は、各国が独立と主権にもとづいて自由に規律することを認められている国際法上の原則です。

日本にやって来る外国人、外国へ行く日本人ともに、本国と渡航先の国の決まりに従ってお互いの国を行き来しています。

日本で出入国管理業務を行っているのは、法務省の外局である出入国在留管理庁です。

高度人材の判定には、一定の基準に従ったポイント制が利用されています。

学歴や職歴、年収などでポイントが付与され、一定のポイントを越えると通常よりも在留期間を長くしたり永住許可の要件を緩和したりといった優遇措置を設けています。

そうは言っても、これは出入国管理行政上の基準であって、外国から優秀な人材に来てもらおうという呼び込みにはなりません。

ポイントの高い人に来てほしいと思っても、それだけでは人材は集まってこないし、人間が母国を離れて移動する動機は別のところにあります。

現在でも、経済状況や事業のしやすい環境かどうか、規制や複雑で重い税制が壁になっている問題は指摘されていますが、何よりもまず日本に来た後の生きやすさです。

これは日本にやって来る外国の人たちの身になって考えてみると分かります。たとえば、私たちがまったくの異国の地に住んだとしましょう。

食文化や生活習慣の違いはすぐに思いつくことですが、何よりも一番不安なのは、病気になったときのことです。

現地で病気になり、現地の医療機関を受診しなければならなくなったとき、現地の医者に現地の言語で自分の病状を説明することはなかなか難しいものです。

英語が通じればまだしも、それも難しい環境であったら、仮に給料が高くても現地に住みたいと思うかどうか。

日本の今の医療環境は、外国人にとってこうした状況にあります。外国の医科大学や医学部を卒業した人が日本の医師免許を取得するための制度はもちろんあります。

順天堂大学のように「国際医療人養成プログラム」を設け、日本国内の医療ニーズに対応できる外国人医師の日本の医師免許取得支援や、逆に国際的な共同研究に対応できる日本人医師の育成を行っている教育機関もあります[※1]。

厚生労働省が行っている審査では日本語能力も審査要件となっており、日本の医師免許を取る外国人は、日本人を診療するものだという前提です。

そうした取り組み以外にも、できることがあります。日本の医療が高い水準にあることは外国でも知られている事実ですが、それと受診者の不安は別です。

現地の医師しかおらず現地語しか通じないことを、自身の身に引きつけて考えれば分かります。規制緩和のひとつの要件として、外国人の医師が外国の人に向けて医療サービスを提供するなど細かな工夫の余地があるのです。

工夫を阻害しているのが業界を守るための規制である場合は特に、細かなことひとつひとつに目配りして環境を整えることなしに、優れた人材は日本に入って来ないのです。

その前提として、なぜ外国人の人材を受け入れなくてはいけないのかと思う人もいるでしょう。外国人人材の受け入れに対する日本人の一般的なイメージは、少し時代遅れなところがあります。

「外国人を受け入れ=単純労働者として受け入れ」というイメージです。給料の高い仕事には日本人が就き、言葉の問題がある(であろう)外国人は単純労働者という固定観念です。いわゆるホワイトカラーとブルーカラーのイメージです。

今は異なるスタイルが主流となっています。たとえば、アメリカのシリコンバレーでは、本当に付加価値の高い商品やサービスを作っている人たちは、実は外国の人材です。

ところが優れた技術者がいるからといって、それだけでサービスや産業が成り立つわけではありません。

そこで彼らを支えるホワイトカラーの人たちが必要となるのです。具体的には、法務や広報などの分野で、国や地域によってローカルな慣習や運用のある部分です。

シリコンバレーでは、この部分をアメリカ人が担います。

誤解を恐れずに分かりやすく言えば、高度人材を活用するのはのようなものです。魚を上手に獲ってきてくれるような鵜を雇い、環境を整えて働いてもらう。その手綱を握るのが有権者である国民です。

高度人材に高い給料を払ったとしても、良いサービスを作り、全世界に通用するビジネスを起こしてもらうのですから、彼らを支える良い環境やサービスを国民が提供し、ビジネスが生み出す富や雇用を享受するという、ある種の割り切りもあります。

その一方で、シリコンバレーの例に見るように、日本国民にしかできない仕事というのもあるのです。

これは同時に、日本国内でも雇用やビジネスの慣習に変化をもたらすことが考えられます。年功序列や年次で評価する給与体系から、仕事に応じた正当な給料が払われるジョブ型雇用への変化です。

求められている分野で必要とされるサービスが提供できるのかが重要であって、その組織に何年いるのかに関係なく若手の優秀な人材には、どんどん仕事に見合う給料を支払っていくのは当たり前のことなのです。

従来の企業では、会社が何十年もかけて社員を育てることが行われてきました。ジョブ型雇用に対して、メンバーシップ雇用と呼ばれることもあります。

ビジネス環境や経済状況の変化が激しい現代は、より個々人の利益を求めて社員が離職することも当たり前となり、従来型の社員育成は企業にとって投資リスクです。

その点、ジョブ型雇用は明確な職務内容や責任範囲に対応した人を雇い、仕事に応じた給料を支払う契約関係です。

日本で外国人人材の話題となる場合、よく取り上げられるのは高齢化にともなう生産年齢人口の減少です。生産年齢人口は、OECDの定義では15歳から64歳の人口とされています。産業や社会保障を支える労働力の中心となる年齢層のことです。

労働力が足りないから外国人移民を入れるという文脈で言われることが多いのですが、これも単純労働者を輸入しようという延長にある考え方です。

これまで単純労働者が担ってきた仕事は、機械化やIT化で補うことが可能な時代となっています。他方、世界に通用するような非常に付加価値の高い仕事ができる人も限られています。

誰もがスティーブ・ジョブズになれるわけではないのですから、ジョブ型雇用で本当に才能のある人に頑張ってもらって、周囲の普通の人たちは彼らの仕事の成果をみんなでシェアするのが合理的です。

そうした付加価値の高い仕事をしてもらえる人に、どうやって日本で働いてもらうのか。そういう人たちをどのようにうまく活用していくのか。これは、新しいビジネスなのです。

このビジネスは、受け入れる国の治安や法制度がどれくらい優れているのかに深く関係しています。日本は治安も良く、近代的な法制度が歴史背景をもって確立しています。

日本人はこの新たなビジネスで非常に有利な環境をすでに持っているのです。

高度人材の受け入れを行うと、日本人が外国人に負けてしまうような不安を感じる人もいることは確かです。

でも、ちょっと考えてみてください。優秀な人材に働きやすい環境で活躍してもらうことは、相撲やサッカーで外国人の力士や選手が活躍するスタイルと同じです。

そうした環境で日本人も刺激を受け、一緒に産業やビジネスを盛り上げていくことで、日本人もまた国際社会と伍して戦う力を養い、ビジネス全体が元気になるのです。

国が乗っ取られると怖がる人たちもいますが、そんな心配はありません。日本の有権者数はおよそ1億人です。

投票率で見ても4~5000万人が投票権を行使しています。ごく範囲を限定された高度人材の受け入れで、その数が引っくり返せるものではありません。

外国人に国を乗っ取られるのではないかという恐怖に支配されるよりも、どうやって優秀な外国人人材を活用していくのか、より有効な制度をどのように作っていくのかをみんなで考える方が、頭の使い方としても正しいし、前向きで健全です。

そして、大勢の日本人もビジネスでどんどん成功していきましょう。



無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和
渡瀬 裕哉
1981年東京都生まれ。国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。 創業メンバーとして立ち上げたIT企業が一部上場企業にM&Aされてグループ会社取締役として従事。著書に『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか―アメリカから世界に拡散する格差と分断の構図』(すばる舎)『税金下げろ、規制をなくせ 日本経済復活の処方箋』(光文社新書)などがある。

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