本記事は、渡瀬裕哉氏の著書『無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和』(ワニブックス)の中から一部を抜粋・編集しています。

仮想通貨,暗号資産,ビットコイン
(画像=PIXTA)

世界金融がひっくり返る日──ビットコインなどの暗号通貨

現代は世界中の経済がつながり、24時間休むことなく、常にどこかで取引が行われています。経済と金融は不可分のもので、金融は人の身体にたとえれば血液のようなものです。

今と同様の近代的な金融機関、銀行が日本に最初にできたのは、明治6年(1873)6月11日のことでした。これが第一国立銀行です。

後の第一勧業銀行、現在のみずほ銀行です。国立銀行といっても、政府が運営するのではなく民間からの出資で作られた銀行です。国の法律によって建てられた銀行なので、「国立銀行」という名前が付きました。

2021年のNHK大河ドラマ「青天を衝け」の主人公、渋沢栄一は、大蔵省で国立銀行を設立するための条例づくりの中心となりました。国立銀行のモデルとなったのは、アメリカのナショナル・バンクです。

政府の中には、イングランド銀行のような中央銀行を作ろうという人もいて意見が対立しましたが、最後には国立銀行を設置する法律を作ろうということになったのです。

第一国立銀行は、条例にもとづいて1番目にできた銀行だから、第一国立銀行です。この後も設置順に番号を冠した名前が割り振られます。

こうした銀行をナンバー銀行といい、現在でも77銀行など、その名残を残す銀行もあります。国立銀行は明治12年(1879)年12月までの6年半で、第153国立銀行まで設立されました。

渋沢栄一は、「日本近代資本主義の父」と言われます。

銀行などの金融関係だけでなく、日本の近代産業発展のため、ありとあらゆる分野の企業を作ることに尽力しています。

洋紙の製造、紡績、保険、海運、鉄道、織物、砂糖、ビール、ガラス、セメント、造船、化学肥料、ガス、電気などなど、多くの会社の設立を支援・指導し、経営を助けます。日本の経済、産業構造を支えてきた人なのです。

おおよそ500の会社設立に協力し、社会貢献としては600ぐらいの社会事業に参画したと言われています。日本赤十字社や聖路加病院、東京慈恵会のほか、明治天皇の済世勅語にもとづいて創設された恩賜財団済生会などにも関わりました[※1]。

渋沢栄一は、事業を起こしたい人たちの相談をたくさん受けるような、今で言うと「ハブ」のような存在だったのです。

同時に、官に頼らない自主独立の商工業の発展や、著書『論語と』にあるように、お金を稼ぐにしても根本的なところには仁義や道徳がなければ長続きしないことを説いて、実業界の道徳、社会的地位の向上を目指しました。

『論語と算盤』の考え方は、現代にも通じます。現代はCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)という言葉が一般的に使われていますが、海外から入ってきた考え方ではなく、明治以来の日本で近代資本主義の発展を民間で指導した渋沢はそうしたことを説いていました。

長続きするビジネスは、共通して信用を大切にしています。信用をないがしろにして、お金をただ増やすだけの拝金主義になったビジネスは短命です。

人間同士の信頼関係や結びつきを社会関係資本と言い、これを土台に持つ商売は永続してお金を生み出します。この考え方に近い仕組みが、最近では金融の世界に新しい動きを生み出しています。

現在使われているお金は、法定通貨というものです。

日本ならみなさんが普段使っている「円」で、2024年に紙幣の図柄が40年ぶりに変更されることになりましたが、先に紹介した渋沢栄一は現在の福澤諭吉に代わって1万円札の図柄に採用されました。

法定通貨は、各国の政府が法律によって支払い手段として定めているお金のことです。紙幣を発行しているのは中央銀行の日本銀行、紙幣の単位未満の金額に使われる硬貨は政府が発行しています。

国が正式な通貨だと法律で定めて、中央銀行が発行しているものだから安心して使ってくださいね、という政府が信用を保証しているお金のことです。

ところが最近は、世界各国で定めている法定通貨とは別に、新しいお金の世界ができ上がってきました。

仮想通貨、あるいは暗号通貨(暗号資産)と呼ばれるお金です。代表的なものがビットコインで、最大の特徴は政府や中央銀行のような、現物を発行し信用を与える中央の管理者が不在なことです。

ビットコインの仕組みを簡単に説明すると、AさんからBさんにお金を渡す(取引)に対して、第三者による認証を電子的に行います。

第三者というのは、このビットコインのネットワークに参加しているコンピュータで、取引が正しい要件を満たしているか、過去の取引との照合などの作業を行い、承認を行うことで国の信用がなくてもお金の取引ができる仕組みになっています。

2010年2月には、ビットコインを法定通貨に交換できる取引所が初めて作られ、5月にはビットコインを使った現実の決済が初めて行われました。現在は、日本円やアメリカドル、人民元といった各国の法定通貨との競合が起きつつある状態です。

各国の政府や金融当局から見ると、ビットコインは少し厄介な存在です。法定通貨は、発行量を政府が調節できます。

景気が過熱しているときには発行量を抑えたり、逆にデフレ不況になっているときには第二次安倍内閣から続いているような金融緩和で通貨の量を増やしたり、経済政策の手段のひとつとなっています。

ビットコインのような、完結したシステムをみんなで支える仕組みは、政府の都合でお金の流通自体の規制や廃止ができないため、政府から見れば制御不能な存在に見えるのです。

経済や金融がすでに一定水準以上に発展した先進国にとっては、そのように見えるものでも、新興国や発展途上国ではまったく異なる見え方をします。

後発の国々には、自国の通貨が非常に弱く、経済や金融が不安定なところが多く存在しています。

そうした国では、自国の通貨と外国の通貨が並行して流通していたり、あるいは自国が発行する通貨ではなく米ドルや人民元を公式に使ったりします。外国の通貨の方が安定しているからですが、自国の経済が他国の金融政策に左右されてしまうので、具合が悪いのです。

すると、ビットコインのような、特定の機関によって直接支配されていない通貨を自国で使えるように認めることは、政府にとってひとつの選択肢になります。

また、日本人にはピンとこないことがもうひとつあります。日本で普通の生活をしていると、大抵の人は自分の銀行口座を持っています。

時には小さな子供でも、親が子の名義で口座を作って、お年玉などを貯めておいてあげることもあるでしょう。発展途上国は、この前提自体が成り立たないことがあるのです。

世界銀行が2011年に行った調査では、1日2ドル未満で暮らす成人の75%以上が正規の金融機関を利用していないという結果があります[※2]。

世界148か国、およそ15万人を対象に行われた調査で、途上国で銀行口座を保有する人は男性で46%、女性は37%です。街中でATMを作ろうものなら、その瞬間に壊されて強奪されるような治安状況もあります。

そういう国にとっては、現実のお金よりもビットコインの方が便利なのです。

また、自分の国に雇用がなかったり収入が得られなかったりして、他国に家族が出稼ぎに行っているケースも多々あります。母国に残してきた家族に稼いだお金を送るとき、海外送金には滞在国の政府や銀行の目が光っています。

テロや犯罪の資金源にならないようにするためです。そして当然、母国にいる家族側も送金を受け取るための銀行口座を持っている必要がありますし、送金にも時間や高い手数料がかかります。

ビットコインはオープンなシステムです。最近は取引所の運営者に利用者の身元確認を義務付けるなどの規制が入り始めましたが、スマホさえ持てれば国境をまたいで家族に送金することも簡単にできるのです。

そういう意味でいくと、暗号通貨は先進国ではなく、それ以外の国で一気に広がる可能性が出てきたのです。

2021年6月、中央アメリカに位置するエルサルバドル共和国の議会がビットコインを法定通貨にする法案を成立させ、ブケレ大統領が発表して大きな話題となりました。

これまでのエルサルバドルの法定通貨はアメリカドルで、ビットコインは任意で併用できることになったのです。

国と国の境目は、物理的な国境以外にも、こうした通貨の違いによる国境があります。

そうした垣根を取り払って、簡単にお金のやりとりができるうえに、自国の通貨よりも安定していると思う人たちも大勢いるわけです。

ビットコインに代表される暗号通貨は、日本でたとえれば戦国時代に織田信長が行った楽市楽座のような仕組みです。

公権力の介入なしに、誰もがそこでお金をやりとりをしたり、商売をすることができる場と決済のルール、その維持の仕組みなのだということです[※3]。

これがデジタルを通じて世界中に広がっているので、お金に国境がなくなったことで新しい資本主義が形作られていく可能性があります。

エルサルバドルの決定は、国の作ったルールや規制ではなく、いってみれば平場のルールで運用されているところに国家経済を接続したもので、非常に画期的です。このため、エルサルバドルの決定に他の途上国や新興国が追随するか、大変な注目を集めているのです。

ビットコインは、まだまだ始まったばかりで、法定通貨との交換レートの値動きも非常に激しいものです。

しかし、給与などの収入を得ることや色々な生活費がビットコインで完結するようになった場合、途上国や新興国のような他の先進国に通貨の支配権を握られていた世界をひっくり返すことができる可能性があります。

今までの資本主義のルールそのものを大きく変えること、ビジネスが大きく変わることも考えられるのです。



無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和
渡瀬 裕哉
1981年東京都生まれ。国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。 創業メンバーとして立ち上げたIT企業が一部上場企業にM&Aされてグループ会社取締役として従事。著書に『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか―アメリカから世界に拡散する格差と分断の構図』(すばる舎)『税金下げろ、規制をなくせ 日本経済復活の処方箋』(光文社新書)などがある。

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