デジタルトランスフォーメーションと勘違いしがちな「IT化」
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社会のいたるところでデジタル技術の浸透が見られる中、各企業に対しては、競争力の維持向上のためにDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が求められている。多くの経営者は、自社に関してDXの必要性を感じつつも取り組みに着手できずにいることが少なくない。本稿では、そうした企業に向けてDXの本質とIT化との違いやDX実現に向けた取り組み方を解説していく。

目次

  1. DXについて正しく理解する
    1. DXとは何か
    2. DXが目指すものとは
    3. DXとIT化の違い
  2. DX推進の背景
    1. 2025年の崖とは
    2. DXへの取り組みが必須とされる理由
  3. DX取り組みのメリット
    1. 生産性の向上
    2. BCP(事業継続計画)の強化
    3. 市場ニーズへの柔軟な対応
    4. ビジネスモデルの変革による新たな市場開拓
  4. DX取り組みへの課題
    1. 本質的なDXに関する理解不足
    2. 経営視点の欠如
    3. 既存システムの肥大化・複雑化
    4. 実施費用の不足
    5. デジタル人材不足
  5. DX実現に向けて取り組む方法
    1. DX実現における3つの柱
    2. 既存ITシステムの再構築
    3. 段階的なクラウド化を視野にした体制づくり
    4. 資金の確保
  6. まずはDXの本質と必要性の理解から

DXについて正しく理解する

初めにDXを正しく理解するための情報を紹介していこう。

DXとは何か

DXとは英語の「Digital Transformation」の略語で、デジタル技術による変革・変容を意味する。経済産業省のガイドラインによる定義では、以下の通りだ。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

出典:経済産業省

デジタル技術による変革とは、デジタル技術を活用して自社のビジネス環境を「良い」方向に変容させていくことである。デジタル化が急激に進む社会の中で市場ニーズに対応しつつ、常に付加価値のある商品やサービスを提供していける経営体力を持つことを目指しているのだ。

DXは、単にITの仕組みやツールを導入することではない。一過性のソリューションやアジャイル開発の取り入れといった手法だけの問題ではないことを理解する必要がある。DXはデジタル技術の導入ではなく「変えること」「変わること」が目的だ。特に企業のDXでは、デジタル化によって恒常的な企業利益を得られることが重要なポイントといえる。

DXが目指すものとは

DXが目指すのは、ビジネス変革を迅速に実現できるデジタル企業として存在することだ。この場合のデジタル企業とは、IT技術とその浸透によるビジネスや社会の変化を前提として新しい事業展開を実施できる企業を指す。つまり自社ビジネスに十分なデジタル能力を有し、新しいビジネスの価値を創造し続けられる企業だ。

デジタル技術そのものやデジタル技術から触発されるアイデアを用いて、これまでにない製品・サービスの提供、ビジネスモデルの創出を行う。その過程においては、生産性の向上・効率化・コスト削減・業務にかかる時間の短縮など、企業の抱える既存の課題を解決していくことが必要だ。最終的には、企業に関わる人の働き方、社会の暮らしをも改善する。

DXとIT化の違い

DXはIT化とどこが違うのだろうか。IT化とは、IT技術の活用のこと。具体的には、業務手段をITツールに置き換えたり業務プロセスを変えずにITツールによって効率化を図ったりすることなどがIT化である。DXでは、製品・サービスやビジネスモデルの変革を目指し企業そのもののあり方にも変容をもたらす。つまりIT化の先にDXがありIT化はDXを実現するための手段なのだ。

  • IT化:「作業時間を短縮する」「作成過程を自動化する」といった部分的な変更や変化
  • DX:事業の全体構造のあり方を抜本的に変えるドラスティックな変容や変革

DXの推進にあたっては、ペーパーレス化など一部の業務変更ではないことを理解しておかないと小手先の「変革」に終わってしまう。