この記事は2021年12月24日に日本実業出版社から発売された「武器としての戦略フレームワーク」の一部を抜粋して編集、転載したものです。


日本実業出版社
(画像=PIXTA)

目次

  1. 企業の進化と危機はどのように訪れるのか
    1. 第1段階:リーダーシップの危機
    2. 第2段階:自主性の危機
    3. 第3段階:コントロールの危機
    4. 第4段階:形式主義の危機
    5. 第5段階:協働による成長
  2. 組織変革のためのモデル

ビジネスの現場で用いられるフレームワークは「並列化」や「階層化」など、5つの思考パターンに大別することができる。その用途は意思決定や問題解決に限らず、目的に合わせた多種多様なものが存在する。

ここでは、時系列化思考(要素を時間の流れで分解して考える)に従い、企業組織の発展や変革の分析に使えるフレームワークを手塚貞治さんの著書「武器としての戦略フレームワーク」から紹介する。

手塚貞治
株式会社日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門プリンシパル。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。NTTを経て現職。専門は成長企業に対する経営戦略、事業計画策定、IPO支援、IR支援、ワークショップ支援など。

企業の進化と危機はどのように訪れるのか

企業組織の発展段階を分析するためのフレームワークとしては、経営学者のラリー・E・グレイナーが提唱した「5段階企業成長モデル」が有名だ。下図では、企業の誕生から成長していく姿が5つの段階で示されている。

武器としての戦略フレームワーク
(画像=日本実業出版社)

それぞれの段階での成長スタイルがあること、そして、その成長スタイルが高じると危機が訪れることを定式化した。各段階を簡単に説明しよう。

第1段階:リーダーシップの危機

起業の時期。創業者が自分1人のリーダーシップで組織を引っ張っていく段階だ。0から1を実現するには、創業者は開発から営業、管理まで何から何まで自分でやることが必要だ。

しかし、一定のキャパシティを超えると、1人で回すことには限界がくる。これが「リーダーシップの危機」と呼ばれる時期だ。1人でやることにこだわると、創業者自身がボトルネックになって個人商店となり、成長は止まる。

第2段階:自主性の危機

リーダーシップの危機を乗り越えるには「社員に仕事を割り振る」ということが必要。トップが社員に指示・命令をすることによって仕事をさせて成長する段階に入る。社員はトップの手足として、意のままに動くことが最も効率的である状態だ。

しかし、これもいつかは頭打ちになる。社員が指示待ち人間ばかりになり、トップが指示・命令できる範囲で成長は止まる。これが「自主性の危機」だ。

第3段階:コントロールの危機

自主性の危機を乗り越えるには、権限委譲が必要になる。マネジャー層に権限を委譲し、それぞれが自分で考えて動くようになってもらうことで、新たな成長軌道に乗ることができる。

しかし、それが進んで遠心力が働きだすと、今度は独走を始める人が現れる。各部門がバラバラ、部門間連携ができなくなる。これが「コントロールの危機」だ。こうした各部門の個別の動きが会社全体の全体最適を妨げるため、これがまた成長の壁になる。

第4段階:形式主義の危機

「コントロールの危機」を解消するのが、本社サイドによる調整だ。管理本部や経営企画部のような統制部門が全社最適の立場でコントロールを行なう。具体的には、規程類や稟議制度・業績評価制度などの各種制度を整備し、ルールによる企業運営を進めることによって企業統治を実現することになる。

しかし、これが進みすぎると「大企業病」になる。手続きが煩雑化、硬直化して官僚主義的に。これが「形式主義の危機」だ。

第5段階:協働による成長

これを乗り越えるのが、協働による成長だ。社員1人ひとりが自律性を持って仕事に取り組み、主体的に協働しながら成長している段階。昨今は「ティール組織」や「ホラクラシー組織」といった自律分散型組織が注目されているが、グレイナーはそれを先取りしていた。

グレイナーが最初に5段階企業成長モデルを提唱したのは1970年代で、先見の明があったといえる。彼の提唱から半世紀が経ったいまでも、組織の成長を分析するフレームワークとして納得できる普遍性を有する。

組織変革のためのモデル

組織変革のためのモデルについても紹介しよう。これにも時系列的なプロセスがあり、その流れで実行すべきだ。ハーバード・ビジネススクール教授でコンサルタントでもあるジョン・P・コッターは、企業変革プロセスとして、下の表に示したように「8段階がある」と提唱している。

武器としての戦略フレームワーク
(画像=日本実業出版社)

「危機意識を醸成」「ビジョンを提示」「従業員を動かす」というのは、特に目新しいものではない。ここまでならどの会社でもやることだ。意外と重要なのが、第6段階の「短期的な成果を実現する」というところ。「ビジョンを提示するぞ!」まではやるが、具体的な成果が見えてこないと、盛り上がった改革意識が冷めてしまい、社内の抵抗勢力が息を吹き返して改革は頓挫する。

大切なのは、小さいことでもいいので「具体的な成果をだす」ということ。そうすれば「動けば変わる」ということを社内にアピールすることができる。これが、第7段階にあるように、変革を加速させるドライブになる。

「短期間で実現できそうな施策を、意図的に当初の戦略に盛り込んでおく」というのも、テクニカルな組織変革の成功術としてはとても重要なのだ。

武器としての戦略フレームワーク
武器としての戦略フレームワーク
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