相続対策の手段として、よく行われているのが「暦年贈与」だ。その暦年贈与に、税制改正のメスが入る可能性が高まってきた。まだ確定したわけではないが、今後の「駆け込み贈与」は慎重に判断する必要があるだろう。

そこで今回は、暦年贈与とは何かを改めて解説した上で、なぜ暦年贈与にメスが入る可能性が高まってきたのか、今度どうなりそうなのか、などを見ていこう。

暦年贈与とは ?

「駆け込み贈与」は慎重に 暦年贈与にメスが入る ?
(画像=mapo / stock.adobe.com)

贈与税には、1月1日から12月31日までの1年間 (暦年) に贈与された財産の合計額に応じて課税される「暦年課税」と、2,500万円まで贈与税を納めずに贈与を受けることができ、贈与者が亡くなった時に相続税として納税 (精算) する「相続時精算課税制度」がある。ただし、これらは併用することができない。

暦年贈与とは、暦年課税で贈与をすることだ。暦年課税には、年間110万円までの非課税枠 (基礎控除額) がある。一般的に「暦年贈与」は、この基礎控除額の範囲内で非課税にて毎年贈与することを指すことが多い。

例えば将来被相続人となる親から、将来相続人となる子どもへ年間110万円の暦年贈与を10年間続けた場合、計算上は110万円×10年=1,100万円を無税で移転できる。子どもが2人いて、それぞれに暦年贈与すれば資産移転のスピードは2倍だ。

相続時精算課税制度に比べて制度がわかりやすいこともあり、暦年贈与は「ポピュラーな相続対策」といえるだろう。

なお、親が勝手に子どもの銀行口座を作ってそこに贈与していたり、毎年同時期かつ同額の贈与を行っていたりした場合は非課税が認められず、税金がかかることがある。詳細は、税理士などの専門家に確認していただきたい。

なぜ暦年贈与にメスが入る可能性が高まってきたのか

なぜ、暦年贈与にメスが入る可能性が高まってきたのだろうか。そのカギは、令和2年12月10日に自由民主党と公明党が発表した「令和3年度税制改正大綱」にある。そこには、「相続税と贈与税を一体的に捉えた課税の構築に向けて、本格的な検討を始める」旨が明記された。

日本の税制では、相続が発生した場合に被相続人から相続開始前3年以内に暦年課税の贈与によって取得した財産があるときには、相続税の課税価格にその贈与額を加算する。

相続開始前3年以内の暦年贈与は「贈与が発生しなかった」と見なされ、持ち戻しが行われる。死期を悟った人が、暦年贈与を活用して相続税を圧縮することはできないということだ。言い換えれば、被相続人から「相続開始前3年以内」ではない時期に受け取った暦年贈与は、持ち戻しの対象にならない。

よって、長い時間をかけて計画的に基礎控除額の範囲内で暦年贈与を行えば、多くの資産を無税で移転でき、相続税を大きく圧縮できることになる。これは公平 (中立的) ではないので、令和3年度税制改正大綱にて「中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める」と明記されたわけだ。

暦年課税の今後の動向は ?

では、今後はどのようになりそうなのだろうか。現時点では改正されることは確定していないが、令和3年度税制改正大綱で「検討を進める」と明記された以上、メスが入る可能性は高いと見るのが妥当だろう。

今後の動向を占う際のヒントとなるのが、諸外国との比較だ。

令和3年度税制改正大綱でも、「諸外国は税負担が一定となり、同時に意図的な税負担の回避も防止されるような工夫が講じられている」と述べている。

令和2年11月13日に行われた内閣府令和2年度 第4回税制調査会の資料でも、米国、ドイツ、フランスなどを比較対象に挙げて、日本の暦年課税が「資産移転の時期に中立的ではない」ことを指摘している。

同資料によると、米国は贈与税と遺産税 (相続税) は統合されている。日本と同様に、一定期間内の贈与を持ち戻す仕組みがあるのはドイツとフランスで、それぞれ適用期間は10年、15年とのことだ。

これらを踏まえると、近い将来ドイツやフランスと同程度の適用期間に延ばすといった「暦年課税の強化」が決まる可能性は大いにある。もしかしたら、多少の混乱を覚悟した上で一気に「暦年課税の廃止」に踏み切るかもしれない。

「駆け込み贈与」は慎重に

ここまで、暦年贈与とは何かを改めて解説した上で、なぜ暦年贈与にメスが入る可能性が高まってきたのか、今度どうなりそうなのか、などを解説してきた。現時点で確定しているわけではないが、暦年贈与 (暦年課税) にメスが入る可能性は高いといえるだろう。

どのように改正されるかがわからないため、駆け込みで贈与による相続対策を行っても、それが水泡に帰し、相続財産扱いになってしまう可能性がある。税理士などの専門家と連携しながら税制改正の流れを確認しつつ、焦らず慎重に判断してほしい。

(提供:大和ネクスト銀行


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