『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学」』より一部抜粋
(本記事は、桑原 晃弥氏の著書『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学」』=KADOKAWA、2021年12月2日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
分散投資はベストなリスク回避策ではない
バフェットはベン・グレアムの教えを受け、グレアム理論の正当な継承者といえますが、一方でグレアム理論を忠実に実践するだけでは今日のような成功は得られなかったとも考えています。グレアムの会社に入社した時のバフェットの所持金は1万ドルでしたが、そのことをこう振り返っています。「私の所持金は一万ドルでした。もしグレアムのアドバイスに従っていたら、今でもきっと一万ドルぐらいしか持っていないでしょう」(『ウォーレン・バフェット 自分を信じるものが勝つ!』)
バフェットの所持金が1万ドルのままにならなかった理由は二つあります。
理由の一つは、グレアムが決算書の数字ばかりに注目していたのに対し、バフェットは企業の持つブランド力や優れた経営陣といった帳簿には記載されない資産に注目して、資産はなくとも長期にわたる成長が見込まれる企業に投資したことです。
理由の二つ目は、グレアムの極端ともいえる分散投資に対して、バフェットは優れた企業にはあえて多額の投資を辞さなかったことです。こう話しています。「チャーリーもわたしも、自信はあります。自分のお金だけを動かすときは、ひとつの案に純資産の75パーセントを注ぎ込んだことが何度もありました」(『バフェットの株主総会』)
「分散投資でリスクを減らす」という考え方はグレアムに限らず、金融界でしばしばいわれるキャッチコピーです。昨今は預貯金の金利がまったく期待できないため変わってきていますが、預貯金の金利がそれなりにあった時代には、たとえば自分の資産の3分の1を預貯金に、3分の1を国債などの債券に、そして残りの3分の1を株式投資などに分散するといった方法も喧伝されていました。
資産を何か一つで運用するのではなく、リスクのないものと多少リスクがあるものに分散するというのは投資に限らず、資産運用の鉄則の一つです。
ましてや株式投資となるとそれなりのリスクもあるため、投資先を分散した方がリスクを抑えられるというのは極めて常識的な考え方といえます。しかし、バフェットもマンガーもそんなことは気にも留めていません。マンガーは「分散投資は、何も知らない投資家がすることです」と切り捨て、バフェットはこう言い切っています。
「わたしたちは好物を大食いしてしまうたちなのです」(『バフェットの株主総会』)
バフェットはリスクを抑えるために、①能力の輪から出ることなく理解できる企業に投資する、②過度の借金をしない、③安全域を確保する─といったことは忠実に守っていますが、分散投資に関しては特に気に留める様子がありませんし、投資におけるリスクをゼロにできるとも考えていません。
2004年、韓国企業への投資を行った際にこう話しています。「投資するときには、一定のリスクを負わなければならない。未来はいつだって不確実だ」(『スノーボール(下)』)
当時も今も韓国には北朝鮮というリスク要因があります。あまり現実的ではなくなってきましたが、もし北朝鮮が韓国に侵攻すれば、朝鮮半島ばかりか中国や日本なども戦争に巻き込まれる恐れもあります。そうしたリスクを踏まえたうえでバフェットが投資したのは、鋼鉄やセメント、小麦粉、電機など、いずれも10年後も買われるはずの製品をつくっている企業ばかりでした。韓国国内で高いシェアを持ち、中国や日本にも輸出している、恐らくこれから先何年も競争力を保つであろう企業に、バフェットは投資しました。
未来は不確実で、予測不可能です。しかし、どんな状況になっても確実に買われるであろう、そんな企業への投資なら、リスクは大幅に軽減できるというのがバフェットの考え方です。
リスクがある中でも成長し続ける企業という観点では、イスラエルに本拠を置く超硬工具メーカーのイスカル・メタルワーキングも同様でした。会長のアイタン・ウェルトハイマーから手紙をもらったバフェットは2006年、同社を40億ドルで買収しています。
同社の主力工場はイスラエルのガラリアにあります。普通はそれだけで敬遠したくなるはずですが、バフェットは意に介しませんでした。こう言い切っています。
「世界はどこも危険にあふれています。アメリカも平時のイスラエルと同じぐらいに危険です」(『ウォーレン・バフェット 華麗なる流儀』)
リスクがあることは事実です。しかし、同社は世界が必要とする製品を製造し、世界60か国で業務を展開しています。しかも経営陣は熱心でとても有能でした。
どんな状況でも、良いビジネスは良いビジネスであり続けるのです。バフェットは、リスクと事業のポテンシャルを測る優れた天秤を持っています。そしてその天秤は、たゆまぬ企業研究と実践の賜物なのです。
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(提供:Wealth Road)