この記事は2022年3月31日に青潮出版株式会社の株主手帳)で公開された「ハウスコム[3275・東1]新成長戦略で収益構造多層化とストック事業創出へ 事業規模活かし不動産DX投資にも注力」を一部編集し、転載したものです。
不動産賃貸仲介の大手として年間7万2,000件以上の仲介件数を誇るハウスコムが、新成長戦略を発表した。2025年3月期を最終年度とする3カ年計画では、営業利益を11.9億円、ROEを10.9%といずれも過去最高更新となるチャレンジングな目標を打ち出す。目標実現に向けた具体的な施策と今後の展開を社長に聞いた。
▽田村穂・社長
転居需要は緩やかに回復
大東建託の子会社として不動産賃貸仲介業からスタートしたハウスコムは、現在は賃貸仲介関連サービス、リフォーム事業など業域を拡大している。セグメント別売上比率は不動産賃貸仲介事業が約9割、施工関連事業が約1割となっている。
主力の不動産賃貸仲介事業は年間仲介件数が7万2,000件以上と業界大手の一角を占め、取り扱い物件数と集客力はトップクラスと評価されている。大東建託の物件は18%程度で、8割以上は地域の不動産会社や自主管理家主、大手管理会社の物件を対象としており、地場で太いパイプを築いている。
2022年3月期が最終年度となる前回中計を振り返ると、営業収益は142.1億円の計画に対し146.3億円の上振れで着地する見通しだ。一方、当期純利益は9.7億円の計画より下振れ4.8億円と予想。これは、店舗数は計画を前倒して実現しているもののコロナウイルスの感染拡大により地域別・期間別で賃貸物件への問い合わせにかつてない波があったことが影響した。
特に、店舗数の全体の41%を占める東京都と愛知県で転居需要が低下。当該地域での飲食店、サービス業の人口流入が減少したことに加え、外国人の新規契約件数減で全体の契約件数が落ちたことが要因となった。同社のコア収益が粗利率の高い手数料ビジネスであり、契約件数減少が利益低下に直結した。
一方で、製造業が好調だった北関東では契約件数が好調に推移したという。
「転居需要は緩やかに戻っています。転勤など、企業がここ2年人材の移動を我慢してきたことも、そろそろ限界のようです。以前よりはワクチン普及などでコロナの見通しも立ってきたこともあり、人が動き始めている。学生も、一時は東京には出ないという風潮がありましたが、再び都市部志向が戻ってきています」(田村穂社長)
需要が回復傾向にある中で、大手のスケールメリットを生かし不動産テックへのシステム投資も本格化させている。賃貸不動産業界においてシステム活用の重要性は増しており、システム投資が競争力に繋がりやすい。オンライン内見、契約の電子化など契約工程の削減で効率化を図る。
収益構造変革で過去最高業績目指す
同社は2025年3月期の業績過去最高の更新に向け、安定した収益を生み出す経営基盤づくりを進めているという。6年前からリフォームの内製化を行い、現在は売上の10%ほどを占めるまでに成長した。リフォーム事業は原価がかかるため、売上が伸びると全体の営業利益率は下がる。しかし同社は経営を多層化することで長期的成長ができる基盤強化を図っており、現段階では利益率を上げるというより1株当たりの純利益の伸長を主眼に置いているという。
そんな多層化する収益構造の1つであり今回の新成長戦略の骨子として注力しているのが、自主管理家主に対して賃貸関連サービスを一括で提供する「スマートシステム」だ。
「空室募集や家賃保証、孤独死保険や原状回復工事といった自主管理家主さんにとって煩雑な業務を請け負うことで、ストック収益を増やしていければと思います。さらに『スマートシステムPLUS』では清掃や法定点検等のビルメンテ業務等のWeb発注も可能です。物件を扱う中で今まで関係性を築いてきた自主管理家主さんに販売し、より関係を強固にしていければと思います」(同氏)
また、借主に対しては「スマ―トレント」を提供。物件は敷金礼金など借りる際の初期費用が高い。初期費用を分割して月々の家賃に乗せ、後払いにすることで引っ越しへのハードルを下げるサービスを展開する。また今まではあまり積極的に参入できていなかった外国人、法人に対しても専任スタッフが対応することで強化していく。
さらに不動産売買仲介も本格的にスタートさせるという。
「今まで地域の物件を扱ってきた中で、売買のお話もいくつもいただいたのですが、他の業者に紹介していました。売買は売上規模も大きく、今後は内製化していきたい。毎年新卒を100名以上採用していますが、売買に適性がある社員も出てきています。社員のキャリアパスを広げるためにも、売買事業拡大を目指します」(同氏)
フロー収益の既存事業でM&AやFC販売網広げ成長を加速
新成長戦略ではストック事業になるスマ―トレントなどの施策も実施されるが、フロー事業である既存不動産賃貸仲介事業に対する売上拡大に対しても店舗数の増加による販売網の拡大を図る。
「いままでは直営店のみを増やしてきましたが、環境変化が激しくスピード感が求められる現在、直営店だけの出店では時間がかります。今後はM&A、フランチャイズ、業務提携など地場の不動産業の業態に合わせて最適なパートナーシップをとりたいと考えています。当社の強みであるリアルな店舗と不動産テックを利用した事業展開において、店舗増に伴う事業エリア拡大が企業成長の加速に繋がります。システム投資の回収も、店舗数が増えると1店舗当たりの負担が減り有利になります」(同氏)
2021年3月には関西を中心に24店舗を有する宅都を子会社化。将来的には300店舗体制を目指す。また、ESGについても再生可能エネルギーへの切替えや厚労省の「くるみん認定」の取得など同業界でも先行している。今後も注力する意向だ。
2021年3月期 連結業績
売上高 | 122億9,900万円 | 前期比 5.5%減 |
---|---|---|
営業利益 | 3億5,100万円 | 同 65.4%減 |
経常利益 | 5億7,600万円 | 同 51.3%減 |
当期純利益 | 3億1,200万円 | 同 53.6%減 |
2022年3月期 連結業績予想
売上高 | 146億3,000万円 | 前期比 18.9%増 |
---|---|---|
営業利益 | 4億9,300万円 | 同 40.2%増 |
経常利益 | 6億5,600万円 | 同 13.9%増 |
当期純利益 | 4億8,600万円 | 同 55.7%増 |
*株主手帳4月号発売日時点