エスティック
鈴木 弘英社長

エスティックは、国内トップシェアのネジ締め機具メーカーだ。主力の電動ハンドナットランナを武器に、国内外でシェアを拡大している。業績はコロナ前の2020年3月期まで10期連続増収増益、売上高67億円、営業利益17億円と過去最高を記録。中期経営計画では海外市場拡大と新たなサプライヤー層の取り込みで、5年後売上高100億円を目標に掲げる。

鈴木 弘英社長
Profile◉鈴木 弘英(すずき・ひろひで)社長
1970年2月生まれ。2012年4月エスティック入社。15年1月ESTIC AMERICA, INC.出向 Vice President。17年6月、取締役就任営業本部長。20年6月、代表取締役社長就任(現任)。

特許技術で絶妙な締め付けを実現
手で持てるハンドナットランナ好調

エスティックは、1993年に太陽鉄工(現TAIYO)の事業部門だったナットランナ事業を分離独立して設立された。ナットランナとは、ボルトやナットを自動で締め付けする機具のことで、自動車の製造現場を中心に重機、建機、農機など様々な製品の組み立てに使われている。

取引先の約90%は自動車関連メーカーだ。創業以来、高精度なネジ締め技術にこだわり、自動車の安全性を重視した製品開発を続けている。設立時の主力製品は設備搭載型の「ナットランナ」だったが、現在はその技術を応用した「ハンドナットランナ」が売上の49%を占める。

「ハンドナットランナ」最大の特徴は、特許取得したパルス締付技術「ESTIC PULSE」により締め付け時の作業者負担を減らし、手作業で高精度な締め付けを実現した点にある。ナットランナが工場のラインなど機械に組み込んで使用するのに対し、ハンドナットランナは手持ち型のため、車内のエアーバッグや電装部品などの締付作業にも適する。また独自の機構で剛体から樹脂、アルミまで幅広い部位、材質の締め付けができ汎用性も高い。さらに作業履歴のデータを全て自動保存するトレーサビリティ機能も備えている。コードレスタイプや、微小トルク0・1N・m(ニュートンメートル)の締結に対応したマイクロタイプも揃え、価格はコントローラー、ケーブル、本体のセットで定価100万円程となる。

「当社独自のパルス技術と用途の広さが、日本及び海外のお客様にもご支持いただいて納入先が広がっています」(鈴木弘英社長)

主要納入先は、トヨタ、ホンダなど日系自動車メーカーを中心に、テスラやキャタピラーなど海外現地メーカーを含め700社以上に及ぶ。

電動化つかみ国内トップシェア奪取
海外展開も着実に進む

2021年3月期の連結業績は、売上高52億9,400万円、営業利益10億5,500万円。コロナの影響で前期比では減収減益となったが、コロナ以前の20年3月期までは10期連続増収増益を更新し続けていた。

好調の背景には、ハンドナットランナの汎用性の高さに加え、エアーから電動への切り替え需要が追い風となっている。従来ナットランナは空気圧駆動のエアーモーターが主流だったが、現在は消費電力削減と作業効率向上のため電動モーター駆動が主流だ。同社の国内売上シェアは、15年度の16%から5年間で35%まで拡大し国内トップシェアに躍り出た。

「電動モーターはエアーに比べて電気消費量が20分の1程削減できます。電動化は世界の脱炭素社会に向けてここ1、2年特にその潮流が顕著になっていて、100%電動製品を扱う当社のビジネスモデルがマッチしていると思います」(同氏)

一方、締付機器の海外市場規模は1,400~1,500億円と推計される。大手2強とされるドイツのボッシュ社とスウェーデンのアトラスコプコ社が約60%のシェアを占める中、エスティックは01年から中国、12年にタイ、14年には米国へと進出。パルス技術と現地でのきめ細やかなサービスで、シェアを獲得している。現在海外売上高比率は米州24%、中国17%、アジア9%、欧州4%となり、合わせると売上の50%を超える。

5年後の売上高100億円へ
海外市場拡大と新規獲得

同社の財務体質を見ると、営業利益率約20%、自己資本比率80%以上を維持し、創業から28期連続黒字を更新中だ。

高利益率を維持できる要因としては、ニッチな業界のため競合との値段の叩き合いに巻き込まれないという市場環境のほか、短納期やアフター専従部隊による迅速丁寧なサービスで製品の付加価値を高める営業活動による。また部品加工と組み立ての一部を外注するファブレスの生産体制も、固定費削減に貢献している。

「当社は、太陽鉄工が会社更生法を出したため独立したという背景があります。創業者の『絶対に潰れない会社』にするという想いがあり、利益確保や健全な財務体質を維持しています」(同氏)

22~24年3月期の中期経営計画では、まず3カ年で過去最高売上高及び利益を目指し、さらに5年後に売上高100億円を目標に掲げる。具体的な施策の一つは、海外市場拡大。海外の4拠点体制を、欧州の自動車メーカー参入も視野に入れ拠点展開を図る。

「国内で競合を崩してきたように、海外でも大手競合の牙城を崩しに行きたい」(同氏)

2つ目は、市場環境変化に対応した製品開発だ。自動車のEV化が進む中、大手電機メーカーなど新たなサプライヤー層が続々とオートモーティブ業界に参入している。こういった新規参入組の取り込みに、エスティックは現在力を入れている。

「ハンドナットランナは自動車のエンジンやトランスミッションだけでなく、近年家電など様々な分野でご使用いただいています。チャレンジングな試みですが、過去5年間の売上は29億円から67億円まできている。グローバルシェアの10%を獲ると考えると150億円になるため、(100億円は)十分達成可能な数字だと考えます」(同氏)

エスティック
(画像=株主手帳)
エスティック
(画像=株主手帳)

▲締め付け時の作業者負担を減らし、手作業で高精度に締め付けられるのが特徴のハンドナットランナ


2021年3月期 連結業績

売上高52億9,400万円前期比 21.8%減
営業利益10億5,500万円同 40.4%減
経常利益10億7,200万円同 38.8%減
当期純利益7億2,900万円同 38.9%減

2022年3月期 連結業績予想

売上高55億6,900万円前期比 12.7%増
営業利益10億8,500万円同 2.8%増
経常利益10億9,700万円同 2.3%増
当期純利益7億,6200万円同 4.4%増

※株主手帳3月号発売日時点

(提供=青潮出版株式会社