この記事は2022年4月18日に「The Finance」で公開された「【連載】金融機関にとってのサステナビリティへの対応」を一部編集し、転載したものです。


サステナブルな社会を構築するために、金融機関が果たすべき役割や目指す姿、取り組むべき方向性につて解説する。

目次

  1. 金融機関を取り巻くサステナビリティへの要求
  2. 金融機関が果たすべき役割
  3. SXに向けて金融機関がとるべき4つの観点

この記事のポイント

  • サステナビリティに関する社会的要請は日に日に強まり、金融機関においても業界を横断した取り組みが始まっている

  • 社会への影響力が強い金融機関には、自社のネットゼロと他社のネットゼロの両面から推進する役割が求められている

  • 金融機関が社会課題の解決と自社の収益を両立するためには、中長期かつ俯瞰した視点から、戦略・ビジネス・データプラットフォーム・組織人材の4つの観点で取り組み内容を検討する必要がある

金融機関を取り巻くサステナビリティへの要求

【連載】金融機関にとってのサステナビリティへの対応
(画像=PIXTA)

持続可能な社会を目指し、サステナビリティに関する行動規範、評価手法などの取り組みが進んでいることは皆さまご存じのことであろう。

業界横断的な取り組みとして、気候関連の情報開示などを検討しているTCFD(気候関連財務情報開タスクフォース)や、長期的に企業価値を高め持続的投資を可能にする新たな会計基準を検討しているIIRC(国際統合報告評議会)などの取り組みがその一例である。

金融業界でも様々なイニシアチブが立ち上がり、脱炭素化(ネットゼロ)に向けた動きが強まっている。2019年にアセットオーナーである保険会社や年金基金などを中心として設立されたNet-Zero Asset Owner Allianceを皮切りに、資産運用会社を中心として設立されたNet Zero Asset Managers、銀行が参加するNet Zero Banking Allianceや保険引受サイドのNeto Zero Insurance Allianceが設立されてきた。これら業界ごとに設立されてきたイニシアチブの枠を超え、金融業界が一体となるGlasgow Financial Alliance for Net Zero(GFANZ)に発展している。

また、日本においてもカーボンニュートラルの実現を目指すことが政策目標となるなか、ESG投資やグリーンボンド等の発行をより推進するために金融庁によるサステナブルファイナンス有識者会議が設置されている。

サステナブルな社会を構築するために、金融機関を取り巻く様々なレイヤーで取り組みが活発化している。

金融機関が果たすべき役割

金融業界を横断したイニシアチブであるGFANZは、参加金融機関自らのGHG排出量を2030年にネットゼロとすること、また2050年までに投融資ポートフォリオ全体のGHG排出量のネットゼロを実現することを目標としており、金融機関には、自らのネットゼロ、取引先のネットゼロの大きく二つの方向で役割を与えている。

自らのネットゼロでは、自社が直接/間接的に排出するGHG排出量の可視化および削減を目指すことが求められるが、これは通常の企業が成し得ようとしている行為と同様である。一方で金融機関ならではの役割として期待されているのが、取引先のネットゼロに向けた役割である。

具体的な方向性としてはいくつか考えられる。例えば、取引先のGHG排出量の可視化の実施や、グリーンボンドなどの脱炭素化を支援するESG関連の金融商品・サービスの提供、企業などに対する脱炭素移行に向けたGHG排出量削減ソリューションの提供など、さまざまな支援が考えられる。投融資のポートフォリオを変えることができうる金融機関だからこそ、一企業の取り組みのみならず社会全体としての脱炭素化を促進することができうる力を秘めている。

では、このような取り組みは、大手金融機関と地域金融機関とで出来ることに違いがあるのであろうか。金融機関が取引を行っている企業には、社会的な責務を強く要求されている大手企業や、グローバル規模の課題解決を視野に入れて経営を行っている企業などESGへの関心が高い企業もいれば、足元の業績に注力し日々経営を行っている中小・零細企業など様々な企業がいる。

取引企業の違いにより、大手金融機関では投融資のポートフォリオをネットゼロの方向にシフトしてもよいかもしれないが、中小・零細企業などとの取引が多い地域金融機関ではポートフォリオを変更するといった取り組みは難しいことも想定される。

では、地域金融機関は自社のネットゼロのみを目指せばよいかというと、それは異なる。地域金融機関は、地域経済を支える役割と地域全体のゼロカーボン化の両面を推進していくようなことを考えられるのではないだろうか。

例えば、地域金融機関がクリーンエネルギーに出資し、地域企業へ代替エネルギーを供給するとともに、地域内のエコシステムを構築することで、地域企業のゼロカーボン化および域内経済の活性化を実現するということも一つのアイディアであろう。

地域金融機関は、先に述べたESG関連金融サービスの提供、GHG排出量の可視化、GSG排出量削減コンサルティングサービス、などを組み合わせて考えていくことで、様々な仕掛けを行えうる立ち位置にいると思われる。

【連載】金融機関にとってのサステナビリティへの対応
(画像=The Finance)

SXに向けて金融機関がとるべき4つの観点

社会が変わろうとしているなか、その重要な役割を担う金融機関においては、金融機関自身の変化が必要である。金融機関が社会課題の解決を行いながら自社の収益を拡大していくためには、中長期的かつ俯瞰した視点でモノゴトを見ていくことが重要である。具体的に、経営戦略、ビジネス、データプラットフォーム、組織・人材の4つの観点から取り組む方向性を考えてみる。

戦略面では、自社の存在意義を考えるパーパス経営および将来からのバックキャストの観点が必要である旨を連載第一回「金融機関の経営戦略の考え方」にて寄稿した。経営計画の骨子とサステナビリティが分断されているなど、バズワードのみを取り込んだ状態となっていないだろうか。戦略を検討する際には、「なぜ自社が存在するのか」を問うパーパス型のミッションがESG対応も含めた形で設定されていることや、ESGを軸とした長期戦略がバックキャストで立案されていることを考えるべきであろう。

ビジネス面では、単なるESG商品の提供や、自社のみのネットゼロへの取り組み推進にとどまっていないであろうか。金融機関として、自社のみならず他社のネットゼロを推進するという役割に向けて、ESGを軸に事業変革に繋がるコンサルティングサービスを確立していること、自社がネットゼロを達成すること、顧客や地域がネットゼロになるような仕組みやビジネスを展開していること、などを考えていくべきであろう。

データプラットフォームという観点では、ビジネス判断を支えていくため、もしくは他社にインサイトを与えていくためにも、自社/顧客における財務・非財務情報を定性・定量の側面から集約し、ビジネスに使いこなせる状態を整えておくことも必要になってくる。中長期的にはデータを活用して変革を成し遂げていくために、目先のROIなどにて取り組みの是非を判断するだけでは期待値を超えられない。

最後に、組織・人材面である。新しいことを成し遂げるためには、変革を恐れずチャレンジする仕組みが整っており社員のエンゲージメントを高く保たれていることも必要なってくる。掛け声止まりや形式的、単発な施策などにとどまらず、中長期的に組織がサステナブルな社会に貢献していくことを常に組織内に発信・共有されることで企業のカルチャー醸成がなされていくことだろう。

最後に、デロイトでは、4つの観点を分解した形で金融機関がSXにおいて目指すべき8つの目標についても併せて定義しているので、もし良かったらチェックリストとしてご参考にして頂ければと思う。

【連載】金融機関にとってのサステナビリティへの対応
(画像=The Finance)

[寄稿]大内 圭介
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
銀行・証券ユニット
ディレクター

外資系コンサルティング会社を経て現職。金融機関向けに、ビジネス変革に向けた構想策定から実行支援まで手掛ける。経営管理や営業変革などのビジネス変革、データやAI、API、クラウドなどのシステム変革などを支援。
[寄稿]梅津 翔太
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
銀行・証券ユニット/モニター デロイト
ディレクター

外資系戦略コンサルティング会社を経て現職。金融業界を中心に、中期・長期経営計画策定、DX戦略策定・実行、新規事業立案、営業戦略立案、デジタル業務改革など、幅広いテーマのプロジェクトに従事。「デジタル起点の金融経営変革」(中央経済社)執筆