この記事は2022年4月29日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「物価高で切り詰められる消費支出、教育格差拡大の懸念も」を一部編集し、転載したものです。


物価高で切り詰められる消費支出、教育格差拡大の懸念も
(画像=PIXTA)

前回解説したとおり、ガソリン・電気代や食料品などの価格上昇により、低所得世帯を中心に家計の負担感が高まる見通しだ。懸念されるのが消費行動への影響である。今回は、コモディティーのスーパーサイクル(さまざまな商品の価格が長期間上昇した局面)と呼ばれた2008年の状況を振り返りながら、物価高を受けて家計の支出行動がどのように変化するかを考察したい。

2008年のインフレ局面では、消費者物価指数(CPI)の年平均でエネルギー価格は前年比9%の大幅上昇となった。同年の名目ベースの家計支出を見ると、こうしたエネルギー価格高騰を受けて電気代やガソリン代などの支出が増加している(図表1)。一方、エネルギー関連の支出増が家計を圧迫した結果、「身の回り用品」や「交際費」、「被服及び履物」をはじめとした支出が減少し、全体の消費支出もマイナスとなっている。

物価高で切り詰められる消費支出、教育格差拡大の懸念も
(画像=きんざいOnline)

こうした事例を踏まえれば、今般の物価上昇局面においても不要不急の消費が抑制され、個人消費全体を押し下げる可能性は高い。特に生活必需品の支出増の影響が大きい低所得世帯においては、生活必需品以外の支出を中心に家計を切り詰める行動が見込まれる。

2008年の家計支出の変化を収入階級別に見ると、低所得世帯では幅広い品目の支出が抑制されており、なかでも高所得世帯との差が大きいのが「教育費」である(図表2)。高所得世帯が前年比2.2%の上昇だったのに対し、低所得世帯は同マイナス8.2%と下落していた。これは、低所得世帯の教育費減少を通じて教育格差が一層広がるリスクがあることを示唆している。

物価高で切り詰められる消費支出、教育格差拡大の懸念も
(画像=きんざいOnline)

低所得者への逆進的な負担が大きい物価上昇は、「分配と成長」を掲げる岸田文雄政権にとって大きな逆風だ。さらに物価上昇で教育格差が広がるとなれば、岸田政権の「人への投資」を重視する方針にも逆行する。十分な教育機会が失われることは、学生の人生にも大きな影響を与えるのはもちろんだが、人的資本の蓄積を妨げ、中長期的な日本経済の成長力をも下押しするリスクがある。

みずほリサーチ&テクノロジーズ 上席主任エコノミスト/酒井 才介
週刊金融財政事情 2022年5月3日号