この記事は2022年3月25日(金)配信されたメールマガジンの記事「岡三会田・田 アンダースロー『物価高への対応。追加の経済対策を検討へ!」を一部編集し、転載したものです。


物価高
(画像=PIXTA)

「おはよう寺ちゃん」での会田の経済分析(加筆修正あり)

問1

岸田総理は記者団に「日本経済再生のため物価高にしっかり対応しなければならない」と強調。追加経済対策について「来週にも指示を出して、検討を進めていきたい」と明言しました。財源は2022年度予算の予備費を充てる、当面のガソリンや食料品の価格高騰への対応策を4月中にまとめ、夏の参院選前の執行を目指すとのことです。物価高騰に対応するための追加経済対策についてはどんな点に注目していますか?

答1

2つの点に注目です。1つめは早さです。すでに、ガソリンや食料品の価格高騰が家計を苦しめています。対策は時間との勝負になります。2つめは大きさです。賃金の上昇がまだ弱い中での、物価の上昇になっています。この数十年の経済低迷で、家計はなかなか貯蓄ができないほどに、状態は悪化しています。家計の状態を回復させるためには、十分に大きい支援が必要になります。

問2

ガソリン価格が高騰している中、ガソリン税の一部を減税する「トリガー条項」の凍結解除について、自民、公明、国民民主の3党実務者の検討チームが初会合を開きました。国民民主側が改めて凍結解除を主張しましたが、この日は結論が出ませんでした。

現在、政府は原油価格の高騰対策として、レギュラーガソリン価格が1L/172円を上回る分について石油元売り会社に上限25円の補助金を支給しています。しかし、国民民主は不十分だとして、160円を超えた場合にガソリン税と軽油引取税を自動的に引き下げる「トリガー条項」の凍結解除を求めてきました。トリガー条項を適用すれば、国と地方合わせて財源に年間およそ1・6兆円の穴が開くとされます。政権幹部は「税に手をつけたら現場が混乱する。全国のガソリンスタンドの手間もかかる」と指摘しますが、この言い分についてはどう思われますか?

答2

成立した2022年度の政府予算では、一般予備費が0.5兆円と、コロナ対策予備費が5兆円あります。まずは機動的に予備費を使った対応になると思われます。予備費の額に対して、1.6兆円のコストは大きくないように見えます。邪魔しているのは、税収中立という財政運営の考え方です。

どこかを減税する時には、必ずどこかを増税して、税収中立にしなければいけないという考え方です。1.6兆円の増税ができないので、減税もできないと、税収中立の考え方が、機動的な財政運営を妨げています。この際、税収中立の古い考え方は打破すべきです。

問3

燃料費だけではなく、食料自給率の低さから大半を輸入に頼る小麦など食料品の価格も高騰しています。経済対策では家計負担を軽減するため補助金などの仕組みも検討するとしています。食料品への対応についてはどういったものが効果的だとお考えですか?

答3

当然ながら、消費税率の引き下げです。5%から10%への引き上げの時、この引き上げ分は、社会保障と教育の充実のために使われるといわれてきました。確かに、半分の2.5%程度はそのように使われてきました。残りの半分は、将来の社会保障費の増加に対する備えとなっていて、現在の支出には充てられていません。将来のことを考えることができないほどの事態に家計は陥っていますので、まずは現在の家計を救うため、2.5%の減税をすべきです。

問4

与党が岸田総理に要請した年金生活者らに一律5,000円を給付する案については物議を醸しました。年金受給額が減るタイミングに合わせて特別給付金で手当てする狙いでしたが、「現役世代とのバランスが取れていない」などと与野党から批判が噴出しました。

年金を受給している高齢者など、およそ2,600万人が対象でしたが、単純計算で支給金額およそ1,300億円に対して、振込手数料や通知にかかる事務経費がおよそ700億円。批判の高まりを受けて、差し戻す形で、再検討される方向であることについてはどう受け止めていますか?

答4

驚くほどの少ない額と、小さい給付の範囲です。国民の苦しい生活の実態、特に現役世代の負担が大きくなっていることに対して、配慮がまったく足りないと思います。再検討というより、イチから、経済対策の中身を練り直すべきです。

問5

年金生活者らからは「セコイ話」「馬鹿にしている」といった声があがっています。政府からは「単独ではなくパッケージで打ち出すべきだった」との声があり、自民・公明両党は全世代を対象にした給付を検討する方針です。金額を含めてどういった給付方法がいいのでしょうか?

答5

年金生活者に一律5,000円ではなく、すべての人にまた一律10万円給付すべきです。それに困窮世帯への給付を上乗せすべきです。家計に所得を回すためには、企業と政府の合わせた支出をする力が必要です。誰かの支出が誰かの所得になるからです。その合わせた支出をする力は、昨年の1月〜3月期にGDP比7%ありましたが、現在は4%まで減っています。額にして15兆円ほどです。一律10万円と困窮世帯への追加でちょうどその程度の額になります。また、5%の消費税率引き下げもちょうどその程度の額です。

問6

こうした中、円安が急速に進んでいます。6年ぶりの円安水準となった足元の1ドル=120円が続いた場合、輸出企業にとっては追い風となります。しかし、一方で内需系企業は輸入採算の悪化につながり、原油高など材料高も収益を下押しします。

日銀が景気刺激策を維持する中、アメリカの利上げペース加速は、日米の金融政策ギャップをさらに拡大させることになります。と、なると円安圧力はさらに強まり、輸入コストの上昇に拍車がかかることになります。円安対策はどういったことをすべきなのでしょうか?

答6

日本は、巨大な対外純資産を持っているので、円安が経済のマイナスになることは基本的にありません。問題は、円安で利益を上がる輸出企業と、コストの増加の負担が増える輸入企業や家計の間に差が生まれることです。

その差は、エネルギーコストの増加の負担への対処とともに、政府の経済対策で緩和すべきです。政府の経済対策が検討されているわけですから、円安は日本経済に追い風となり、円安に株式市場が上昇で反応したここ数日の動きは正しいと思います。

金利の差やマネーの拡大の差で推計するドル・円は125円程度ですので、現状は行き過ぎた円安ではないと考えます。

▽3月11日放送分のアーカイブ


会田 卓司
岡三証券 チーフエコノミスト
田 未来
岡三証券 エコノミスト

本レポートは、投資判断の参考となる情報提供のみを目的として作成されたものであり、個々の投資家の特定の投資目的、または要望を考慮しているものではありません。また、本レポート中の記載内容、数値、図表等は、本レポート作成時点のものであり、事前の連絡なしに変更される場合があります。なお、本レポートに記載されたいかなる内容も、将来の投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。投資に関する最終決定は投資家ご自身の判断と責任でなされるようお願いします。