本記事は、原田曜平氏の著書『メガヒットのカギをにぎる! シン世代マーケティング』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています
TikTokは世界単一市場
Z世代御用達のTikTokについては、改めて語っておく必要があるでしょう。
TikTokとは、中国のバイトダンス社が2017年にリリースしたモバイル端末向けの短尺ビデオプラットフォーム(アプリ)です。日本では2018年頃から高校生・大学生を中心にブレイクし、2018年の新語・流行語大賞にノミネート。JC・JK流行語大賞2018ではアプリ部門で1位になりました。同年のApp Store(日本)では無料アプリのダウンロード数が第1位を記録しています。
TikTokは、さまざまなエンタメコンテツが流行するきっかけを作りました。
たとえば2020年4月には、シンガーソングライター・瑛人の楽曲『香水』がTikTokをきっかけにブレイクし、彼は紅白歌合戦に出場することになりました。ここで驚くべきなのは、『香水』はインディーズで配信リリース後、約1年間はまったく動きがなかったということ。曲をカバーした動画がTikTokに投稿されるようになり、人気に火がついたのです。そこにアーティスト側のプロモーション的な仕込みなどは一切ありませんでした。純粋にTikTokユーザーが発見したことが、ブレイクのきっかけだったのです。
2022年には、ティックトッカーのけんごさんが30秒ほどの動画で紹介した筒井康隆の小説『残像に口紅を』(刊行は1989年)が話題となり、なんと8万5,000部もの重版がかかりました。30年以上前に刊行された紙の書籍にこのような重版がかかるなど、昨今文芸書が売れないと嘆いている出版業界としては前代未聞です。このように、TikTokをきっかけにモノが売れることは「TikTok売れ」と呼ばれるようになりました。
先述したように、Z世代の大学生や高校生にしてみれば、自分と同世代の芸能人でもない普通の人が大スターになっています。一方でTVを中心に活躍する芸能人で、TikTokをうまく運用している人はまだ少ない。YouTubeやインスタグラムへの芸能人進出はかなり進みましたが、TikTokは攻略しきれていないのです。
TVに出まくっている芸能人よりも普通の高校生のほうが圧倒的にフォロワーが多い、というのが2022年現在のTikTokのリアルです。何度か共演させていただいたことがある安田大サーカスのクロちゃんやトレンディエンジェルの斎藤司さんはTikTokをやっていますが、真剣に悩んでいました。「僕らは知名度があるはずなのに、フォロワーが増えないんです……」と。
理由としては、やはりTikTokで受けるコンテンツとTVで受けるコンテンツは違うのがひとつ。もうひとつは、TikTokの「世界単一市場」という性質です。
当然のことながら、日本の芸能界は非常にドメスティックで、プレイヤーの多くは日本人。かつ、あらかじめ決められた番組フォーマットの枠内でしかパフォーマンスをすることができません。
しかしTikTok上には韓流スターも、ハリウッドセレブも、インドネシアの有力インフルエンサーも、平等に一緒くたになって同時に現れるグローバルな場です。そこでは、TVなど他メディアでの知名度を無化する形で、世界共通で「面白い」と思われる動画が再生数を伸ばしていく。制約もありません。「日本ではこういうものが受けている」とか「日本の社会では、あまりこういうものを出すべきではない……」といった狭い範囲でしか適用されないルールは、一切意味をなしませんし、通じない。TikTokは国別・文化圏別のルールが事実上存在しない、超グローバルなプラットフォームなのです。
Z世代はこのような世界にどっぷり浸かっています。暇さえあればTikTokを見ている彼らですから、感覚が自然にグローバルチューニングされているのは当然。すなわちZ世代を消費者として見た場合、海外で受けたものをそのまま持ってくれば売れます。下手な日本チューニング、ローカライズは必要ありません。
もちろん、ほかのSNSも世界単一市場です。が、たとえば、インスタであれば、フォローした人の情報しか入ってきません。要は、EXILEメンバーをフォローしていたらその情報しか入ってこないのでドメスティックにもなり得ますが、Tiktokの場合はランダムに人々の投稿が表示されるので、自分がフォローしていなくてもバズっているインドネシア人の投稿が表示される、ということがあるのです(Twitterにもこうしたランダム性はあるが、テキスト中心のSNSなので如何せん読めない。一方、Tiktokは動画中心のSNSなので国境と言語を超えることができています)。
世界ではZ世代が最大の人口ボリューム
日本では違いますが、実は世界を見回すとZ世代は最大の人口ボリューム層です。少子高齢化が深刻なのは日本を含む東アジアだけ。アメリカも、白人に限って言えば少子高齢化が進んでいますが、移民層の若者人口は多い。ヨーロッパの多くの先進国も、中東も、南米も同じ。東南アジアに至っては、各国の平均年令はなんと20代。彼らだけで8億人の市場があります。
つまり、こと日本に関して言えば、先述したようにこれからは団塊ジュニア世代が消費の中心を担う時代になっていきますが、世界的にはZ世代の時代。地球規模で言えば、21世紀はZ世代の世紀であると言い切れるでしょう。
ここで、「日本は違うのなら関係ないよね」という話にはなりません。今後、少子化によって労働力不足が絶対的に避けられなくなるであろう日本では、足りない労働力を担ってもらう移民に社会が対応していかなければなりませんし、新型コロナが収束してからはインバウンドを増大させなければ国の経済が危ぶまれます。その移民やインバウンドの中核をなすのは、誰あろう世界のZ世代です。
つまり、日本に日本人以外のZ世代がこれからどんどん増えていく。というか、増えなければ国が成り立たなくなる。そうなった時、世界のZ世代トレンドをいち早く取り込んだ企業は伸び、それができなかった企業は取り残されるのは確実です。
これに加え、日本の市場が人口減少で縮小していくのだから、市場を世界に拡大していかないといけません。中国アパレル通販「SHEIN(シーイン)」など既に日本のZ世代は海外通販から直接ものを買っています。だから日本からも海外に売れる時代になっています。
SHEINは日本ではまだ知名度は低いですが、220か国で展開しており2021年の5月17日に米国で最もダウンロードされたショッピングアプリとなったファッションブランドです。そのほか、BUYMA(バイマ)、アリエクスプレスが今注目されています。
BUYMAとは、国内外のバイヤーから世界中のブランド品をお得に購入できる通販サイトです。5,800以上のブランドの取り扱いがあり、世界109か国、6万人以上の日本人バイヤーが海外から直接買い付けをして商品を提供しています。現地価格で購入して売られているので安かったりします。海外ファッション通販では1位です。
アリエクスプレスは、2010年に開設された国際的な消費者へ向けた越境ECサイト。中国のアリババグループにより運営されています。
ひとつ、こんな話を。第92回アカデミー賞(2020年)で韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が非英語作品としては史上初の作品賞を受賞したり、韓国の男性グループBTSがアメリカでも大人気を博した理由がおわかりでしょうか? アメリカでアジア人の人口が増えているからです。隣人としてのアジア人が増えれば、白人もアジア人と接する機会が増えるので、アジア人を見慣れてくる。身近に感じる。それがアジアコンテンツの注目にもつながりました。
異文化を受け入れるにあたって「接する機会が多い」というのは非常に重要です。Z世代はLGBTQと接する機会が多いからこそ、彼らを自然に受け入れ、偏見をもちませんでした。同様に、TikTokでグローバルコンテンツに接する機会が多いからこそ、国籍や出自や国内知名度に左右されることなく、「とにかくおもしろいもの」をフェアに選び抜いているのです。
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