本記事は、原田曜平氏の著書『メガヒットのカギをにぎる! シン世代マーケティング』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています
欧米に限らない「多国籍消費」
3年分のランキングを外観して真っ先に言えるのは、表示世代特有の嗜好を想起させるヒットの多国籍化です。
2021年6位のマリトッツォはイタリア・ローマ発のスイーツ、8位のBTS(防弾少年団)は韓国発の男性アイドルグループ、29位のザージーパイは台湾発の超巨大唐揚げです。
BTSに代表されるよう、韓国エンタメはここ数年特に気を吐いています。
たとえばドラマシリーズでは2020年12位の『愛の不時着』。ランキングには入っていませんが、同年には同じく韓国ドラマの『梨泰院クラス』もヒットしましたし、2021年には『イカゲーム』、2022年には『未成年裁判』『気象庁の人々』も人気。いずれもグローバルでのヒットを受けて日本でもヒットした形で、これはZ世代で言うところの「世界単一市場」に他なりません。なお、これらの作品はすべてNetflixでブレイクしていますが、Netflix自体も2019年7位にランクインしています。
2021年9位のピッコマは縦読みマンガ、いわゆるウェブトゥーンを読めるアプリですが、これは韓国のIT大手カカオの日本法人であるカカオジャパン発のサービス。韓国ではウェブトゥーンが若年層に大人気で、これを原作としたドラマもたくさん作られています。件の『梨泰院クラス』もウェブトゥーン原作のドラマでした。
2020年20位のJO1は日本人男性による11人組アイドルグループですが、韓国のオーディション番組「PRODUCE 101」の日本版「PRODUCE 101 JAPAN」の合格者たちで結成されました。所属事務所は日本の吉本興業と韓国のCJ ENMによる合弁会社。彼らの打ち出しが、先行する韓流男性アイドルグループの成功を意識しているのは明らかです。
2021年12位の格安越境ECとは、Amazonや楽天の対抗馬的な存在として近年Z世代に人気の通販サービスのこと。若年女性からの支持率が高いサイトとしてはeBay Japanが運営する「Qoo10(キューテン)」が挙げられるでしょう。同サイトは韓国発のコスメや韓国のファッションアイテムを格安で販売しています。他にも前述した中国発のアパレルEC「SHEIN」、中国アリババグループが運営する「アリエクスプレス」なども存在感を増してきました。
ところで、お気付きになられたでしょうか。かつて海外発のヒット商品といえば、ほとんどが欧米発、中でもアメリカや北欧諸国のものが大半でした。しかし現在では、韓国をはじめとして非常に多くの非欧米圏発の商品やサービスが流行るようになっています。もちろん欧米発のヒット商品も一定数ありますが、非欧米圏の躍進が目覚ましいとは言えるでしょう。
団塊世代からバブル世代くらいまでは、とにかくアメリカと一部ヨーロッパ先進国への憧れが強く、トレンドあるいはエンタメ分野で日本より上位だという認識の国はアメリカとヨーロッパの一部だけでした。
しかし海外第一世代である団塊ジュニア世代以降は、アジアを中心とした旅行者が増えたため各国への理解と興味が進み、若者たちの視野が広くなっていきます。それがZ世代まで来ると、韓国は日本より上位。少なくともトレンドあるいはエンタメ分野では「日本より韓国のほうが先を行っている」という認識が大勢を占めるようになりました。そこには当然ながら、韓国が自国発のカルチャーを積極的に海外発信する体制を整えたという背景があります。
実は若者が「先を行っている」と感じている国は、韓国だけに限りません。インスタグラムやTikTokやNetflixや格安越境ECに日々触れる若年層は、商品の良し悪しを国の出自では判断しないからです。面白いと感じたり有用だと実感できたら、それが韓国発だろうが中国発だろうが、アメリカ発だろうがインドネシア発だろうが、関係なく支持します。その結果として、2022年現在は韓国が優勢にあるというだけ。
ですから、今後「先を行っている国」が韓国から別の国にプラスオンする可能性は十分にあります。かつてのアメリカがそうであったように。
今後はこの世界単一市場がますます促進されるでしょう。つまり日本のメーカーはZ世代を相手に商売をするなら、投入する市場が仮に日本国内だけであったとしても、「世界で受けるものは何か」というアンテナを立て続けていなければ売れる商品を企画することはできなくなります。
極端な話、日本という看板は捨てて「世界一、インスタ映えする商品を作ろう」くらい振り切った方向に走れる企業が生き残っていける。令和の時代、「多国籍」は非常に重要な切り口なのです。
世界の消費者からしても、アニメやクルマといった一部の産業を除けば、メイド・イン・ジャパン信仰は徐々に薄れていくでしょう。今まで日本発というだけで優位性を享受していた国内企業には厳しい戦いが待っています。
※画像をクリックするとAmazonに飛びます