本記事は、原田曜平氏の著書『メガヒットのカギをにぎる! シン世代マーケティング』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています

足し算貴族は夫婦合算で年収1,500万円以上

パワーカップル世帯の動向
(画像=PIXTA)

「失われた30年」で日本経済が疲弊した結果、日本人の消費意欲が落ちている……とはいえ、使う人は使っています。つまり二極化。ゆえに上を見上げれば、経済的に余裕のある人たちはしっかりいます。

ただ、その大半は「富裕層」とか「資産家」と呼ばれる人たちではありません。彼らはごくごく少数の人たちなので、一般的な消費者グループとしてこの図の中にマッピングする必要はないと判断して入れませんでした。

国税庁の「令和2年分民間給与実態統計調査」をベースに個人年収1,000万円超の割合は4.6%(男性7.1%、女性1.1%)でした。

一方、厚生労働省の「2019年国民生活基礎調査の概況」によると、世帯年収で1,000万円を超えている割合は12.1%。日本は個人年収で1,000万円を超えるのは年々大変になっている一方、それよりも世帯で1,000万円を超える方がしやすくなっているのです。

もう少し現実的な高収入世帯、「大企業の正社員同士の夫婦で、世帯収入が1,500万円以上ある子持ち世帯」をイメージしてください。たとえば夫800万円、妻700万円です。

年収800万円、700万円は日本人の平均給与より高い水準ではありますが、それ単体ではことさら高給取りとまでは言えません。しかし夫婦の収入を合算することで、まあまあリッチな世帯収入にはなれます。ひとりひとりの収入を積み上げることでリッチになる、これが「足し算貴族」です。

足し算貴族が生まれた背景にあるのは、先ほどから再三申し上げている、団塊ジュニア世代に端を発する女性の高学歴化があります。高い能力を発揮する女性を(少しずつではありますが)企業が重用し、良い待遇を与える。女性管理職がようやくこの世代から現れたことも、そのことを象徴しています。

要は児童のいる家庭の平均所得が2009年以降ずっと上がってきていることがわかります。後述しますが、日本人の給料はこの30年増えていないと言われているので、要はひとりひとりの収入が上がっている世帯が増えているわけではなく、足し算貴族が増えている、ということです。

共働きで高い世帯年収を確保している夫婦のことを昨今では「パワーカップル」と呼びます。三菱総合研究所の定義では、「夫の年収が600万円以上、妻の年収が400万円以上」、ニッセイ基礎研究所の定義では「夫婦ともに年収700万円以上の収入があり、世帯収入1,400万円以上」。

足し算貴族が増えていることを示すのが、新築マンションの価格です。2022年1月に発表された東京カンテイの調査結果によると、新築マンションの平均価格が平均年収の何倍かを示す「年収倍率」は、2020年の全国平均で8.41倍。東京都はなんと13.4倍で、過去15年間で最高となりました。「平均年収596万円に対してマンション価格が7,989万円」とのことです。

ちなみに、日本人の会社員の平均給与は433万円。男女別で男性は532万円、女性は293万円ですが(国税庁『民間給与実態統計調査』、2020年)、これは1990年と同じ水準、つまり日本人の平均年収はこの30年上がっていません。

なのに、なぜこんなことになるのか。夫婦の合算で高年収となる共働き世帯、つまり足し算貴族が増えたからです。同社によれば、首都圏のマンション購入者の7割が共働き世帯で、世帯年収1,200万から1,300万円の人が7,000万〜8,000万円程度の物件を買うことが多いそう。

では、共働き夫婦の合算収入が1,500万円だとして、一流企業に務める年収1,500万の夫と専業主婦妻―こちらも世帯収入1,500万円―とは、一体何が違うのでしょうか。

夫のシングルインカムで1,500万円の収入がある場合、妻の個人消費はあまり見込めないでしょう。夫が妻に小遣いをあげているにしても、妻としてはやはり自分で稼いだ金ではないゆえに大胆な使い方はしにくい。夫は夫で小遣い制を敷かれている人が多いでしょうから、これまた自由奔放に使うのは難しい。結果、1,500万円は夫婦合議のもと家族消費が主として支出されることになります。

一方、足し算貴族のように、夫と妻がそれぞれ相応の額を稼いでいる場合はどうなるでしょうか。夫婦ともに個人の趣味消費が増えるでしょう。財布を別々にしている夫婦が多いはずですから、気分的にも使いやすい。つまりファミリー消費一辺倒ではなくなるということです。これは覚えておくべき傾向だと思います。

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(画像=『メガヒットのカギをにぎる! シン世代マーケティング』より)

足し算貴族が求めるのは、わが子が将来有利になる教育

もちろん足し算貴族とて、ファミリー消費はファミリー消費として相当のボリュームが見込めます。なにせWワーキングプアやハッピー&アンハッピーサブに比べて、ベースとなる収入が多いのですから、個人消費が増えたところでファミリー消費分は十分に残る。そしてやはり、ここでも使われるのは子供の教育です。

足し算貴族の彼らもアンハッピーサブの母親と同じく競争社会に揉まれて生き残った、いわば勝ち組。自分たちのように「勝つ」べく子供への教育投資を惜しまないのは当然です。

ただ教育とは言っても、芸術に触れたり創造性を育むといった意味での教育ではなく、もっと実利的な、「就職に有利」「社会人になっても経済的に困らない」といった性質のもの。たとえば資格講座です。

資格と言っても、低収入を余儀なくされる介護士や保育士ではなく、弁護士になるための司法試験や公認会計士といった、高収入が約束されている士業系のもの。今後はこれらを従来のように大学生以上向けではなく、高校生、なんなら中学生向けに用意しても十分にニーズを喚起できるのではないでしょうか。

これは、あながち非現実的な話ではありません。なぜなら2022年4月から日本では成人年齢が18歳に引き下げられたため、要件さえ満たしていれば18歳から弁護士や公認会計士として働けるようになるからです。

「大学なんて行かなくていいから、中学生のうちから弁護士の勉強をして、高校1年とか2年で受かっちゃえば、誰よりも優位に立てる」。就職氷河期の地獄を味わった団塊ジュニア世代の親たちが、いかにも考えそうなことではありませんか。「いい大学を出たって見返りなんかないぞ」というわけです。

このような志向は足し算貴族だけでなく、ハッピー&アンハッピーサブにもありますが、足し算貴族にしかない志向としてあるのが、海外長期留学です。これはある程度の財力がなければ実現できません。

実はここ数年の日本では、海外への本格的な長期留学が減りました。新型コロナの影響を受ける前からの傾向です。理由は、親の懐が厳しくなったことと、若者の内向き志向。一方で、就活時の履歴書に書くためだけの、実のない短期留学が異常に増えました。たった2、3週間程度ハワイの大学に留学し、嬉々として「ほとんど海で泳いでました!」などと語る大学生の多いこと。あるいは、英語が学びたいと言っていたある大学生が、「韓流が好きなので韓国に留学しました」と言ってのける。〝英語〞が学びたいと言っていたのに!? 彼らZ世代の親は新人類世代やバブル世代です。

しかし団塊ジュニア世代は自分達が「海外第一世代」ですから、上世代に比べればもう少し海外で受けられる刺激や意義を知っています。意味のない短期留学ではなく、どうせ行くならちゃんとした長期留学をして欲しいと願うでしょう。

団塊ジュニア世代の子供たちは2022年現在、10代がボリュームゾーンで、ポスト団塊ジュニア世代は小学生以下がボリュームゾーン。資格取得にしろ海外長期留学にしろ、まさにこれから数年〜10年の間に訪れる需要です。

なお、このグループの男女は総じて男女同権意識が上の世代よりも強く、男も家事・育児参加をという時代のプレッシャーも受けているので、男性が積極的に育児に参加する、いわゆるイクメンが少なくありません。子育てへの積極コミットは、子供に上質な教育を受けさせたいという並々ならぬ熱意にもつながってきますが、マーケティング的に言えば「母親だけでなく父親にも育児グッズを訴求できる」ことを意味します。この点は留意しておきましょう。

メガヒットのカギをにぎる! シン世代マーケティング
原田曜平(はらだ・ようへい)
1977年東京都生まれ。広告業界で各種マーケティング業務を経験した後、2022年4月より芝浦工業大学・教授に就任。その他、信州大学・特任教授、玉川大学・非常勤講師。BSテレビ東京番組審議会委員。マーケティングアナリスト。専門は日本や世界の若者の消費・メディア行動研究及びマーケティング全般(調査、インサイト開発、商品・パッケージ開発、広告制作等)。2013年「さとり世代」、2014年「マイルドヤンキー」、2021年「Z世代」がユーキャン新語・流行語大賞にノミネート。「伊達マスク」という言葉の生みの親でもあり、様々な流行語を作り出している。主な著書に『寡欲都市TOKYO 若者の地方移住と新しい地方創生』(角川新書)、『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)、『アフターコロナのニュービジネス大全』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。その他テレビ出演多数。

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