本記事は、原田曜平氏の著書『メガヒットのカギをにぎる! シン世代マーケティング』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています

好景気のぬるま湯で育った

消費者物価
(画像=PIXTA)

ここでは新人類世代(1961〜65年生まれ)とバブル世代(1966〜70年生まれ)を合わせて考察します。

2つの世代に共通する特徴を一言で言うなら、ズバリ「消費欲が高い」です。理由は、いずれの世代も20代の若い頃に景気が右肩上がりだったバブルを経験しているから。新人類世代が入社したのは1980年代半ば、バブル世代が入社したのは1980年代末から1990年代初頭にかけて。一般的にバブルの崩壊(消費市場に明らかな影響が出た時期)は1994年頃とされていますので、会社の給与・待遇面でしっかり好景気の恩恵を被っているわけです。

そのことを念頭に置いて、彼らの特徴をさらっていきましょう。

まず「新人類」とは、経済人類学者・栗本慎一郎による造語で、それまでの日本人とはまったく異なる価値観や行動規範を持っている若者を、やや呆れたニュアンスで形容したものでした。楽しいことを最上の価値と捉え、団塊世代に特有だった組織の上下関係を嫌い、自由でありたいと願う。それが時に「仕事にやる気がない」「組織に身を捧げる覚悟がない」などとされ、無気力的な若者の代名詞として揶揄されたりもしました。

そのすぐ下のバブル世代は、その名の通りバブル景気にどっぷり浸かった世代です。好景気だったので就職は超売り手市場。ちょっと失礼な言い方をするなら、たいした学歴や能力がなくても大手企業・有名企業に入れた人もいました。ただ彼らの一部は数十年後、つまり今ですが、「使えない人材」として企業のお荷物となります。

以下、何人かのバブル世代のマーケターの方がバブル世代(つまり自分たちのこと)を冷静に自己分析してくれたので、以下に主だった特徴を列記しましょう。バブル世代の特徴とはいえ、おおかた新人類世代にも当てはまります。

・超売り手市場の時期に就職し、年功序列の中、安全にぬくぬく生きてきた。中間管理職まではスムーズに出世した人が多い。

・能天気で前向き。基本イケイケで世の中を悲観的に見ていない。自分は幸せだと信じている。

・自己肯定感が高く、自分たちの価値観がもっとも正しいと思っている。他世代の価値観を心の底では認めていない。

・人とのリアルな交流を好み、総じてコミュニケーション能力が高い。

・まだまだ基本は男尊女卑。職場やプライベートでは「男が偉い、男が働く、男がお金を出す」が染み付いている。女性も同じ。一方で男女平等論は好きなので、めんどくさい、ややこしい。

・見た目重視、見栄っ張り、ミーハー。

・おおらかな時代に育っているので社会に揉まれておらず、時代順応的な人が多い。消費は旺盛だが、消費に徹しただけで実は時代に影響を与えていないのでは?

マーケターの自己分析だけに結構辛口ですね。でも本質を言い当てていると思います。要するに、ぬるま湯のような「いい時代」ですくすくと何も考えないで生きてこられたので、子供のように万能感が強く、ひたすらポジティブでお調子者、流行に乗るのが大好きでジャブジャブお金を使ってきた人たち、というわけです。

能天気で前向き、強い万能感

「能天気で前向き」で思い出すことがあります。数年前、この世代の人たち何人かにインタビューをした際、皆口を揃えてこう言っていました。

「これから日本は良くなる」「またバブルがこないかなあ」

根拠はありません。当時、そう自信を持って言える材料も特にありませんでした。でも、彼らは自信満々にそれを信じ、どういうふうに良くなっていくかをとうとうと語っていたのです。実際、ここ数年で日本が「良くなった」かどうかと言えば……説明するまでもありませんよね。

私自身、新入社員の頃にはバブル世代の上司に翻弄されました。その上司は確かにアイデアマンではありましたが、「あれもやろう、これもやろう」と話を広げすぎてしまい、言ったら言いっぱなし。本気で全部やったら10年くらいかかるようなことを、半年後に納期が迫っているのに平気で言い散らす。お調子者でイケイケ、実にバブル世代っぽい。そんな上司に悩まされた団塊ジュニア世代やポスト団塊ジュニア世代は多いのではないでしょうか。

実際、この世代と団塊ジュニア世代は相性が悪いとよく言われます。団塊ジュニア世代は超偏差値教育、超競争社会、超就職氷河期をくぐり抜けてきた苦労人なので、ぬるま湯育ちの新人類世代・バブル世代と価値観が合うわけはありません。たった数歳しか離れていないのに、非常に深い断絶があるのです。

しかも彼らの万能感は、結婚して子供を儲けてから、さらに困った事態を引き起こしました。モンスターペアレント化です。彼らは「自分が絶対に正しい」という主張を曲げないので、自分の子供たちが通う学校の方針で何か気に入らないことがあれば、すぐに突撃して文句を言う。

実は彼らが反発しているのは、学校に象徴される「自分たちを縛る旧態依然とした権力(のようなもの)」なのですが、その気質は彼らが10代の頃からすでに萌芽 (ほうが)がありました。1980年代前後に社会問題化した校内暴力です。校内暴力の当事者だったのはこの世代。もちろんすべての若者が校内暴力を働いていたわけではありませんが、「当時の若者たちの気分」を代弁していたことは間違いないでしょう。彼らは旧世代的な価値観を押し付けようとする年長世代、主に団塊世代の管理教育に大いに反発した過去があるのです。

なお、大人に反抗する若者の象徴としてカリスマ的な人気があったアーティスト、尾崎豊が「盗んだバイクで走り出す」と歌った『15の夜』は1983年の作。尾崎自身も1965年生まれの新人類世代でした。

「買いたいと思って買わなかったことがない」

新人類世代・バブル世代は、他世代に比べると抜きん出て「貯蓄より消費」志向が強い人たちです。

実は日本人は昔から、世界的に見ると異常とも言える現金主義者。借金や投資などを嫌い、とにかく貯蓄する人が多いことで知られています。

ところが、新人類世代やバブル世代の貯蓄額は―彼らが長らくもらっている高い給料からすると―意外なほど少ない。金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯]」(令和2年)によると、50代二人以上世帯で金融資産保有額が100万円未満が約2割、「ゼロ」の世帯がなんと13.3%もあります。

老後2,000万円問題(老後30年間で年金以外に2,000万円が必要という話。2019年に金融庁が発表したことに端を発する)が取り沙汰される中では、甚だ心もとない貯蓄額ですが、若い頃から貯めないでどんどん使ってきてしまった結果です。

4-1
(画像=『メガヒットのカギをにぎる! シン世代マーケティング』より)

金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯]」(令和2年)から、年代別の貯蓄額を見ると、50代の単身世帯の貯蓄額の中央値が30万円で、貯蓄ゼロ家庭がなんと41%もあり、ぶっちぎりでほかの年代より多いことがわかります。

4-2
(画像=『メガヒットのカギをにぎる! シン世代マーケティング』より)

つまり、金使いの荒い新人類、バブル世代の中でも、主に未婚者、離別・死別者の老後がかなり心配であることが見込まれます。この世代あたりから特に男性の生涯未婚率が急激に上がってきていますし、日本における離婚の割合は長らく3割という高水準が続いています。

ではなぜ、そんなに使う癖がついているのか? それは、彼らが新入社員の頃から「いい思い」をしまくったからです。

私の先輩でSさんというバブル世代ど真ん中の男性営業マンがいます。超大手企業をクライアントとして担当し、元ラグビー部の体育会系。私は新人時代、彼からバブル時の景気のいい話をさんざん聞きました。

たとえば、当時は3,000円以内であれば領収書なしでも会社から経費が下りたそうです。つまり同期が10人集れば3万円が下り、それで飲み会ができた(もちろんやってはいけないことです)。また、ボーナスは入社1年目から年に6回(!)も出ていたそうですが、彼は貯金しないで全部使い切っていました。

そんなSさんの名言があります。

「俺は消費で我慢したことがない。買いたいと思って買わなかったことがないんだよ、原田」

笑ってしまいますよね。でも、そういう時代だったのです。

女の欲望ラボ代表で女性生活アナリストの山本貴代さん(1988年博報堂入社のバブル世代)によれば、この世代は若い時に先輩からおごられた経験がほかの世代より多く、財布を開けない女子も多かったとのこと。「いい消費を知っている、いいものを経験している世代」(山本さん)なのです。

この自信は万能感につながり、彼ら特有のアイデンティティを形成しました。ファストファッションに身を包み、ろくに外食をせず(経済的にすることができず)、燃費の良い軽自動車を選ぶ今の20代を見て、彼らは言います。

「今の若い子たちはかわいそうね」

その言葉の裏には、「私たち〝だけ〞が本物を知っている」という、強烈な万能感が鎮座しているわけです。

彼らは若いうちから高級ワインを飲み、高級ブランドに袖を通すことで、その体験が舌に、体に、そして記憶にしっかりと染み付きました。三つ子の魂百まで。その感覚は何十年経っても消えることはありません。だから、その後いかに日本経済が停滞しようとも、「あの時の消費」が忘れられない。無根拠に「日本はこれから良くなる」などと言ってしまうのは、「そうなって欲しい」という彼ら自身の強い願望の表れなのです。

メガヒットのカギをにぎる! シン世代マーケティング
原田曜平(はらだ・ようへい)
1977年東京都生まれ。広告業界で各種マーケティング業務を経験した後、2022年4月より芝浦工業大学・教授に就任。その他、信州大学・特任教授、玉川大学・非常勤講師。BSテレビ東京番組審議会委員。マーケティングアナリスト。専門は日本や世界の若者の消費・メディア行動研究及びマーケティング全般(調査、インサイト開発、商品・パッケージ開発、広告制作等)。2013年「さとり世代」、2014年「マイルドヤンキー」、2021年「Z世代」がユーキャン新語・流行語大賞にノミネート。「伊達マスク」という言葉の生みの親でもあり、様々な流行語を作り出している。主な著書に『寡欲都市TOKYO 若者の地方移住と新しい地方創生』(角川新書)、『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)、『アフターコロナのニュービジネス大全』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。その他テレビ出演多数。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)