本記事は、原田曜平氏の著書『メガヒットのカギをにぎる! シン世代マーケティング』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています

なぜ、おじさんたちの常識はズレてしまうのか?

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(画像=PIXTA)

オリンピック関連で中年以上のおじいさんたちが、懲りもせず女性蔑視などの老害発言を連発してバッシングを浴びている現象も、「三つ子の魂百まで」で説明がつきます。彼らは、自分が若い頃に普通だった常識が価値観として染み付いており、更新できていないのです。

たとえば彼らが若い頃は、女性の容姿をいじったり、「早く結婚したら?」「ぜひ子供をたくさん作って欲しい」などと発言したりしても、大きな問題にはなりませんでした(本当は当時だって女性は嫌だったと思いますが、我慢していたのでしょう)。その〝常識〞を令和の時代にも振りかざすから、大問題になるのです。

老害発言をした彼らは、世間から手厳しいバッシングを受けても、実は本質的なところで何が悪いのかおそらくわかっていないように見えます。ほとんどの人が「よくわかんないけど怒らせちゃったから、とりあえず謝っておこう」と謝罪会見を開きます。

そして彼らあるいはその側近は「酔っ払った勢いで言ってしまった」などと弁解したりしていますが、酔っ払ったところで元々思っていないことを発言したりはしませんよね。問題はそこではなく、一度固まった価値観や物の考え方は、容易には変わらないということなのです。その証拠に、一体何度同じような失言をしているのだ、と毎回驚く政治家など本当にたくさん頭に浮かびます。

その「昔に固めた自分の常識と現代の常識」のズレが、個人が恥をかく程度ならいいのですが、ことマーケティングとなると企業に大損害を与えたり、ともすれば経営を傾けることにもなりかねません。

私は先日、関西地区で放映されているある討論番組に出演したのですが、私以外の論客はちょっと過激な右派の方ばかりでした。日本を愛することは素敵なことだと思いますが、盲目的に日本を賛美し、中国や韓国を下に見る感情的な人たちでした。

番組中、日本人ひとりあたりのGDPが韓国に抜かれた、という話題になりました。すると彼らは一様に腹を立て、「それを報じるメディアが愚かだ」「カネだけで判断するのは卑しい」と言い始めたのですが、完全に論点がズレています。GDPが抜かれたのは事実(ファクト)なのですから、まずはその事実を受け入れ、その上で何故そうなってしまったのかを議論することこそ本当に日本のためになるのではないでしょうか。

そのタイミングで意見を求められた私は、こんな主旨のコメントをしました。「韓国より日本のほうが優れてることはまだまだたくさんあります。ただ少なくとも若い子たち、Z世代の特に女性は、多くの人が〝日本より韓国の方が進んでいる国、優れてる国〞だと思っていますよ。何故なら若い女性はトレンド感度が高く、最近は少なくとも『トレンド』という観点で言えば韓国の方が進んでいるケースが大変多いからです。若者がそういう認識であるという事実に、おじさんたちは目を向けなければいけません」

すると、ある右派論客の方が気色ばんで言いました。

「じゃあ、なんで韓国の若者は日本に憧れてるんですか?」

この発言に、おじさんたちがいかにズレているかのすべてが集約されていました。

まず、2022年現在、韓国の若者は日本に昔ほど憧れなくなっています。私は韓国での現地調査や若者ヒアリングを数年来重ねているので、それは断言できます。憧れが強かったのはせいぜい〝10年前〞までの話。つまり、右派論客の彼は10年前から認識がアップデートされていないのです。というより、そもそも10年前も今も、おそらく韓国で調査などを行ったこともなく、ただ盲目的・感情的に「アジアの中で日本が一番すごい」と思い込み、気持ち良くなっているだけだと思います。

大変残念ながら、この程度の不勉強なテレビのコメンテーターは本当にたくさんいます。偏っている方がエンターテイメントとして面白いということで起用されているのかもしれませんが、だったらジャーナリスト面はすべきではないでしょう。こういう人が、彼に限らず企業で決裁権を持っている偉い人に年代的にとても多いのです。

ここ数年、韓国・中国・台湾の若者に日本という国の印象を聞くと、返ってくる答えは大概「私たちのママの時代には憧れがありましたよね」です。アジアで日本が文化的に注目されたのは、90年代後半から2000年代初頭にかけて。私の調査では、アジア全域で多くの人が知っていた日本のスターは、安室奈美恵さんが最後です。

そんな彼ら、彼女らはもう40代。日本好きの台湾の若者のことを指す「哈日族(ハーリーぞく)」が取り沙汰されたのも、15年、20年前の話です。

中国が日本に憧れていたのも、1980年代生まれの人までが主流。80年代生まれは「80后(バーリンホウ)世代」と呼ばれますが、彼らには確かに日本への憧れがかなり強く残っていました。ただ、彼らも2022年現在はアラフォー。現在10代や20代の中国人は、日本の若者と同様に韓国や欧米のトレンドの影響が大きくなってきています。

つまり、おじさんたちの頭からは「日本を好きだったのは、各国のどの世代か」という思考が抜けているために、間違ってしまう。「20年前のアジアの若者が日本に憧れていた」という過去の事実を、現在形で「アジアの若者は日本に憧れている」と誤認識してしまう。でも、世代論の概念さえ頭にあれば、仮に今現在のトレンドに疎かったとしても、決してこんな間違いはしないはずです。

おじさんたちは〝未来予測〟どころか、現在のリアルすら見えていないのかもしれません。

ですから、まずは現在を正しく認識することから始めましょう。その認識に役立つのも、やはり世代論です。各世代が取り巻かれている現在の状況や抱いている思想、消費傾向を正確に把握しさえすれば、その彼らが未来的にどういう行動を取るか、何に消費するかはある程度読めるようになるはずです。

もちろん、これからの未来に新型コロナのような誰も予想し得ない疫病や災害が発生したり、個人では予想しえない戦争が勃発したり、AIをはじめとしたテクノロジーが人々の生活を大きく変えたりという可能性は大いにあるでしょう。我々は予言者ではないので、事象そのものを予測することはできません。

ただ、仮に疫病が発生しても、戦争が勃発しても、すごい技術が発明されても、それらに対して「Z世代だったら、こういう気持ちになるだろう」「団塊ジュニア世代だったら、こういう行動を取るだろう」という予想は立てやすくなります。世代別に彼らをきちんと分析、理解さえしていれば。

メガヒットのカギをにぎる! シン世代マーケティング
原田曜平(はらだ・ようへい)
1977年東京都生まれ。広告業界で各種マーケティング業務を経験した後、2022年4月より芝浦工業大学・教授に就任。その他、信州大学・特任教授、玉川大学・非常勤講師。BSテレビ東京番組審議会委員。マーケティングアナリスト。専門は日本や世界の若者の消費・メディア行動研究及びマーケティング全般(調査、インサイト開発、商品・パッケージ開発、広告制作等)。2013年「さとり世代」、2014年「マイルドヤンキー」、2021年「Z世代」がユーキャン新語・流行語大賞にノミネート。「伊達マスク」という言葉の生みの親でもあり、様々な流行語を作り出している。主な著書に『寡欲都市TOKYO 若者の地方移住と新しい地方創生』(角川新書)、『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)、『アフターコロナのニュービジネス大全』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。その他テレビ出演多数。

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