本記事は、大西みつる氏の著書『はじめて部下を持った人のための 超リーダー力』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています

×自分の仕事中心でメンバーの動きを把握していない ○メンバーの行動をしっかりと見る、観る

距離感,上司,部下
(画像=jessie/PIXTA)

私たちはどのようにメンバーにアプローチし、効果的な人材育成の行動を行っていけばよいのでしょうか。これは、はじめて部下を持った方の悩みでもあります。

職場で人材育成の実践を行う際には、部下の人材イメージに対して先入観を持たず、相手の個性と能力の発揚を図り、「良いところをチョイスし、伸ばす」ことが基軸となります。

部下育成を行うとき、ベースとなるのは次の3つのポイントです。

(1)メンバー1人ひとりを尊重する

人は本来、夢や希望を抱いてその実現のために思考し、創造する、自由で個性的な存在です。自らの信念に基づき、主体性を持って行動する存在なのです。お互いに個人の違いを認め合い、尊重することが大切です。

(2)平等に関わり、個別に対応する

1人ひとりがお互いを認め合い、誠意を尽くした人間関係を構築することが大切です。例えば、6人の部下と接していても、それぞれ個性がありますので、均等には育ちません。部下とは平等な関係を築きつつ、状況と個性と能力の違いを観察し、その部下に最適なアドバイスを個別に行うことが大切です。

(3)部下の成長と成功を支援する

「部下の育成」は本来、上司が行わなくてはいけない一番大切な仕事です。ところが、部下の成長には個人差があります。一番重要なのは、上司が部下ときちんと向き合うことです。「ダメな部下を育てるのは時間の無駄だ」とあきらめることは、上司の大切な仕事を放棄することに他なりません。部下が思うように育たなくても、相手にばかり求めず、与え続けること、向き合うことが重要です。

上から目線、上からの押し付けだけで業務を進めさせるのではなく、部下の目線に立った上で本質的な質問を行い、気づかせ、部下の自発性を引き出していくのです。

一方的に上司が指示命令した場合、成果が出なくても、部下は仕事の結果について深く考えません。「言われたとおりにやっただけ」で終わってしまいます。

上司が双方向のコミュニケーションを図り、部下の意見、考えを聴いた上で、部下が具体的な行動に出るようになれば、「自分で考え、自分で仕事を工夫する部下」に成長するのです。

人材育成はリーダーの観察力が命となる

リーダーの手腕がチームの成果を左右します。したがって、その役割も多岐にわたります。メンバー1人ひとりの強みと弱みをしっかりと見通そうとする「観察力」が求められます。ここを見誤ってしまうと、あとあとまで尾を引いてしまいます。

では、リーダーはメンバーの何を見なければならないのでしょうか。

まず1つ目は、「目に見える成果の部分」です。すなわちビジネスパフォーマンスに対する評価をきちんと行うことが大切です。

2つ目は、「そこに至るまでの経緯や努力の部分」です。努力の部分を見逃してしまったり、気づいていなかったりするようでは、リーダーとして不十分と言えるでしょう。

メンバーと出会ってから現在に至るまで、果たしてどれくらい成長したかというところまで、包容力を持ってしっかりと見守り続けているかどうかが大切です。

しかし、努力というものは、人の見ていないところでひそかに行っているものでもあり、ついつい見落としてしまいがちです。あるいは、時間に追われていたりすると、結果だけを見て、隠れた努力の部分はどうしてもおざなりになってしまいがちです。

周囲のメンバーから情報を収集するなど、常にアンテナを張っておくことも必要ではないでしょうか。

また、リーダーがメンバー個々の性格や志向、あるいは本音や魅力を見極めるためには、時にはお互いに心を許し合える場面作りも大事ではないでしょうか。

リーダーのコミュニケーションスタイルは、仕事の成果を引き出すためだけのものではありません。

常日頃からオープンなコミュニケーションを心がけ、若手メンバーから相談をもちかけられるような関係性を築いていくことで、メンバーのモチベーションを高めることが可能になります。

メンバーが多数いる場合に「観察」を個々に行うことは非常に難しいですが、リーダー自らが現場に出向き、メンバーからすると、「見られている」という意識を形成することで、モチベーションに影響を与えることが可能でしょう。

マザーテレサの言葉ですが、「愛の反対は無関心」。

メンバーの行動をよく見るというのは、愛情の証でもあるのです。

POINT
部下育成は観察からはじめて、良いところをチョイスし、それを伸ばすことから始めてみよう。

×部下に教えることを中心に行う ○部下に教えるよりも考えさせ、行動させてみる

私は、はじめてリーダーになった方に向けた研修では、「人を育てられる人になろう」とお伝えしています。「経営は人なり」という言葉通り、人を中心においた経営を行う会社は持続的な成長を可能にします

ですが、近年、会社を取り巻く環境が厳しいことや、人を中心にした経営の意識や行動が薄れたことで、伝統ある会社や大企業においても、人が活き活きと働けない様相を呈しています。そういった企業は若手層からも見放されていきます。

人を育てるという表現は、上から目線で仕事のやり方や会社の流儀を教えるという意味では決してありません。教えるという行為よりも、1人ひとりが「考え抜いて、行動してみて、経験で学ぶ」ということが大切です。

次の図を見てください。社会環境の変化が激しく、ビジネスの現場は変化のスピードが非常に速く、その中で私たちは成果を上げていかねばなりません。

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(画像=『はじめて部下を持った人のための 超リーダー力』より)

行き過ぎた成果主義は、社員を疲弊させ、モチベーションを失わせ、最悪の場合はメンタル不調や離職に繋がります。はじめて部下を持ったリーダーは内側の短期志向、成果重視、減点主義の人材育成、迅速重視のサイクルに陥ることが多いことを、リーダー育成の現場で強く感じています。

ご本人たちは決して悪いわけではありませんが、ナチュラルに内側のサイクルで日常業務を行います。短時間で仕事を効果的、効率的に進めようとすればするほど、内側のサイクルに陥ってしまうのです。自分がリーダーとして、今、どのように仕事と仕事の成果を捉えているか、しっかりと自己内省をしてみてください。

そして、自分は、リーダーとして、「人を育てられる人になる」と決めてください

仕事の成果を求める以上に、人を育てること、人を中心に据えてメンバー1人ひとりの個性や能力を引き出し、やる気を引き出すことで、メンバーの挑戦心と行動力を高めることができます。失敗も経験の1つであり、失敗を成功と成果に結びつけられる骨太の人材が成長することで、会社は強くなるのです。

では具体的に、若手の意欲や能力をどのように高めていけばよいのでしょうか。

若手層の人材育成について考えてみましょう。

若手社員はどのように先輩や上司と接してよいかがわからず、ある一定の心理的な距離感を保ちながら、形式的かつ表面的なコミュニケーションに終始しているケースが散見されます。

形式的なコミュニケーションだと、会社特有の「ものの見方、考え方」「仕事の仕方、大事にすること」など、会社の基軸となる経営理念の継承が上手くいかないことが考えられます。

若手社員が自身の成長を考えたとき、自分のチカラが出せずに「成長」している実感が得られないと悩むケースが起きています。

若手層の育成を阻害する問題事象として、次の8つがあります。

(1)できるはずの自分と現状とのギャップを感じている
(2)上司、先輩から怒られるばかりでモチベーションが上がらない
(3)学生時代のような自由さがなく、毎日の仕事で自分の時間が取れない
(4)「報・連・相」のタイミングが掴めず、トラブルになるケースがある
(5)仕事でいっぱいいっぱいでも、なかなか人に弱音が言えない
(6)相手の様子を見る。自分からは動き出さない
(7)年上やシニア層が多く、世代を超えたチームワークは苦手
(8)正解を探し求めるのは得意だが、最適解を自分の意思で判別することが苦手

若手の育成を可能にしていくためには、いかに成長意欲を引き出すかというモチベーション・マネジメントと、成長意欲を刺激するような「仕事の付与」を工夫することが必要になります。

「今の若い人は……」と言う前に、彼ら、彼女らが育ってきた時代背景も考慮せねばなりません。基本的な欲求が「成長したい、自己実現したい」ということがモチベーションの要因になっているのだと考えられます。

若手社員のモチベーション・マネジメントとしては、仕事上の達成感を得られるように工夫することが重要でしょう。「できないことができるようになる」「上司や先輩からほめられる」「仕事を任される」などの経験が達成感に繋がります。

ペップトークを活用して、成長意欲を引き出す

スポーツ指導の現場では、「ペップトーク」という、試合前に監督やコーチが選手を励ますために行っている、短い激励のコミュニケーションスキルがあります。

「頑張れ!」だけでは選手は頑張れませんし、すでに選手は全力で取り組んでいます。言葉かけの巧みな指導者ほど、選手に勇気を与え、プレーに対する動機づけを促し、チームを勝利に導いていくのです。

スポーツもビジネスも何も変わりません。リーダーの言葉は部下に多大な影響力があるということです。

◉ぺップトーク事例

・お互い頑張ろう!
・良いアイデアだね!
・難しい案件だけど、挑戦してみよう!
・失敗から学ぶことはたくさんあるよ!
・仕事は楽しまないとやる気は出ないよ!
・上手くいかない状態こそ、自分たちを成長させてくれるから
・いつも○○をしてくれてありがとう!

こんな一言をかけてもらえたら、そしてかけてあげられたら、どんなに素敵でしょうか。ぜひ、ご自身の仕事の現場で「ペップトーク」を活用してみてください

POINT
成果至上主義は人を疲弊させる。人づくりを怠れば、必ず会社の成長は止まる。

はじめて部下を持った人のための 超リーダー力
大西みつる(おおにし・みつる)
株式会社デザインリーダーシップ代表取締役CEO、立命館大学経営学部客員教授。1961年大阪府生まれ。立命館大学経済学部に入学し、硬式野球部に所属。卒業後、本田技研工業(株)に入社。ホンダ鈴鹿硬式野球部でプレーした後、戦略マネージャーとして都市対抗野球大会優勝に導く。その後監督を経験しチーム作りに大苦戦。社業に専念してからは、日米双方で人材開発や管理職のリーダーシップ開発に取り組む。自らの体験からリーダーシップ開発の重要性を強く感じ、働きながら筑波大学大学院ビジネス科学研究科で経営とリーダーシップを学ぶ(経営学修士)。2009年、企業のリーダー育成トレーニングと企業変革を支援する株式会社ヒューマンクエストを設立。大手民間企業を中心に年間延べ4,500人以上のリーダーと向き合う日々を送っている。2022年、副業メンバーと共に自分価値の拡充を図るサードプレイスラーニングを行う株式会社デザインリーダーシップを立ち上げ、「自分にリーダーシップを!」のビジョンに向けて活動中。著書に『ビジネス×アスリート・トレーニング式 最高の自分のつくり方』(日本能率協会マネジメントセンター)、『結果を出す人は「修正力」がすごい!』(三笠書房)等。

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