本記事は、菅谷信雄氏の著書『あなたの経営力10倍アップの極意 大激変の時代を勝ち抜く最強の経営の羅針盤』(セルバ出版)の中から一部を抜粋・編集しています

倒産してから後悔しても遅い

罠
(画像=ELUTAS/PIXTA)

私のところには様々な商材が持ち込まれます。他社と差別化された商品、サービスやこの世にまだ知られていない新しい商材、ビジネス・モデル等の話を聴きます。

起業家の多くは一芸に秀でています。しかし、一芸に秀でているからといって事業に成功するとは限りません。事業成功には、様々な能力が要求されます。逆に私は一芸に秀でていませんが、マネジメント力、リーダーシップ力、先見力、マーケティング力、営業力、コーディネイト能力、人脈力、プレゼンテーション力等様々な能力を磨いてきました。

そこで私は顧問として多数の中小・ベンチャー企業経営者のアドバイスをしてきました。しかし、彼らは顧問の私の耳を傾けようとしません。彼らは彼らなりにプライドがあるわけです。

結局私のアドバイスが当たることが多く、最悪の場合は倒産に追い込まれる企業も出てきました。倒産企業の社長は、「菅谷さんのアドバイスに耳を傾ければよかった」と後悔します。人間でいえば、死んでから後悔しても遅いわけです。

逆に私のアドバイスに素直に耳を傾けている経営者は成功しています。

ここでは、これまでの経験をまとめて8つの罠として書きました。

1つ目の罠 よい商品・サービスが必ずしも売れるとは限らない

8つの罠のうち、一番多いのが1つ目の罠です。これが約半分占めます。

10年後の企業の生存率は、6.3%と言われています。これは出所によって異なるので、正確なデータかどうかはわかりません。しかし、個人事業主や休眠中の企業も含めるとあながち大げさな数字ではないと考えます。

以前の顧問先のA社でこんな例がありました。

A社は、讃岐うどんよりおいしく安いうどんのチェーン展開をする目的で起業しました。私も出資しました。顧問として私は、都内に集中出店して、認知度を上げるようにアドバイスしました。1店目は秋葉原に開店し、順調なスタートでした。

ところが2店目は埼玉県岩槻市の交通不便な立地。私は猛反対しました。そこに通うだけで、時間が取られてしまうし、集中出店の相乗効果が得られません。

結局、その店は赤字のため、閉店を余儀なくされました。閉店費用は1,000万円でした。

一方、その社長は、突然本業とは全く関係ないフード事業に次々と手を出していきました。私は猛反対したのですが、暴走し、どれも彼の感性と思いつきで始めました。マーケティング戦略が全く欠如していました。結局、すべて中途半端に終わり、会社は事業破綻しました。

ただし、手形は発行していないので、倒産とはなっていません。その社長は行方不明となりました。こちらも事実上の倒産ですが、倒産会社としてカウントされているかどうか不明です。

このように、現在の経営は手形決済の比率が圧倒的に減ったので、事実上倒産企業でも倒産企業としてカウントされていない企業も多数あると思います。

A社の事例では、自分の商品やサービスには、それなりに自信をもっていました。

しかし、どうやったら売れるのかというマーケティング戦略がなかったのです。

2つ目の罠 計画と比べ、売上は半減、経費は倍増

1番目の罠で述べたように、よい商品が必ずしも売れるわけではありません。

その結果、事業計画と比べ、売上は半減します。

一方、経費は予想以上に販促コストがかさみ、出張費用等事業計画時と比べ、予想外の費用が発生します。その結果、資本金を直ぐに食いつぶすようになります。

3つ目の罠 中小・ベンチャー企業経営者の最重要事項は資金繰りの確保

1つ目の罠の次に多いのが3つ目の罠です。

1つ目の罠で解説したようにマーケティング戦略がないため、売上が計画通り上がりません。その結果、運転資金がなくなり、資金繰りでにっちもさっちもいかなくなり、事実上の倒産となります。

つまり2つ目の罠で述べたように、人件費、家賃、光熱費、交通費、通信費等の固定費は売上が半分になってもかかるわけで、いずれ資本金を食いつぶしてしまいます。

この段階では、金融機関からの資金調達は困難と言えます。当然、増資も株主の理解を得ることは困難と言えます。その結果、事業破綻していきます。

1つ目の罠と3つ目の罠で倒産の大半を占めます。

4つ目の罠 取引先の与信管理を甘く見ない

企業間の取引では、商品納入と同時に商品代金が入金できるケースはまれです。そこで売掛金が発生します。入金時期は、月末締め切り翌月末か翌々月末が一般的です。

売掛金の額が多くなるに従ってリスクが大きくなります。これを与信リスクといいます。相手が中小企業で売掛金が100万円以上になる場合には、一部前金を要求することも重要です。

5つ目の罠 現場を軽視すると命取りになる!

5つ目の罠について、私の失敗例を紹介します。

世界最小の総合商社マーキュリー物産のキャッチコピーを掲げ、3事業部制でスタートしました。「家庭用生ごみ処理機」を卸販売する環境事業部、耐震防災事業部、そして、NTTBフレッツ営業を取り扱う情報通信事業部の3事業部で発足しました。

各事業部には事業部長を任命し、私が統括しました。しかし、情報通信事業部まで手が回らなかったので、私の右腕として信頼していたK部長に全面的に任せました。

その結果、現場に行かず、上がってきた書類には目を通すだけでした。中には架空の書類があり、そのつけが後日大きく影響していきます。

たまに現場に行けば、書類の問題点を見抜くことができたわけです。結局K部長を信頼しすぎて、事業は破綻へと追い込まれていきました。

6つ目の罠 あなたの強みが弱みに変わる!

私の長所は失敗を恐れず、前に突き進んで行くことです。しかし、この長所が時として脇の甘さに通じることになります。5つ目の罠、「現場を軽視すると命取りになる」など、まさに私の脇の甘さが露呈したことになります。

7つ目の罠 マネジメント力の不足

マネジメントとは、人、モノ、金の最適化のことです。マーキュリー物産のような中小企業にはなかなかよい人材を確保することは難しいです。したがって、従業員の長所、短所をしっかりと把握しながら管理する力が求められます。

次にモノとは商品やサービスのことですが、これにいかに付加価値をつけて売っていくかが重要となります。これもマネジメント力の1つとなります。

そして、乏しい資金の中で、いかに資金繰りを円滑にしていくのか、この能力も重要です。

8つ目の罠 健康管理を怠ると、会社経営の重大危機に結びつく!

中小・ベンチャー企業の社長は本当に一生懸命仕事をします。若い経営者が多いせいか健康に無頓着な経営者が多いです。

しかし、中小企業の経営は社長の力量でほぼ100%近く決まります。社長が倒れたら会社は回っていかなくなります。その重要性をいつも口を酸っぱくしてアドバイスしているのですが、なかなか伝わらないようです。

コロナ禍で、私の知っている経営者3名がコロナウィルスに感染して、入院しました。3名とも重症でしたが、改めて健康の大切さを感じたようです。

あなたの経営力10倍アップの極意 大激変の時代を勝ち抜く最強の経営の羅針盤
菅谷信雄(すがや・のぶお)
昭和24年生まれ。高校2年生の時に、「世界を股に掛けるビジネスマンになる」ことを決意。その夢を実現するために一橋大学商学部マーケティング専攻、卒業して三井物産に入社。31歳のとき、カナダ三井物産駐在により、「世界を股に掛けるビジネスマンになる」という夢は実現。カナダから帰国後の38歳のときに企業内起業家として東証一部上場企業の㈱もしもしホットラインをゼロから立ち上げる。10年後、その経験を活かし、1997年5月同社を早期退職。退職後、世界最小の総合商社、有限会社マーキュリー物産(資本金1,000万円)を創業。その後25年間で18社に数千万円を投資。うち1社が上場。現在も、シニア事業家として現役続行中。「生涯現役社会」構築の一環として、シニアとシングルマザー、ファーザーが協生するシェアハウス「ユートピア館」を本年末に完成予定。将来はFC化も検討。事業承継することで1万棟建設を構想中。

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