年金は老後の主な収入源であるが、税金や社会保険料が源泉徴収されることで手取りが減少することをご存じだろうか。ねんきん定期便やねんきんネットで将来の受給額の目安を知ることは可能だが、老後のマネープランを立てるうえでは手取りで考えることが重要だ。そのため、年金にかかる税金や確定申告の知識は欠かせない。
今回は、年金にかかる税金の種類や課税の仕組み、控除などについて解説する。
年金にかかる税金
国民年金、厚生年金、公務員の共済年金など、一定の年齢を迎えてから受け取れる年金(老齢年金)には、所得税(復興特別所得税を含む)と住民税がかかる。ただし、課税対象となるのは年金額が以下の場合だ。
- 65歳未満…108万円以上
- 65歳以上…158万円以上
これらの税金は、原則として年金支払時に源泉徴収(住民税の場合は特別徴収という)される。ただし、徴収されるのは年金額(徴収前)が以下の場合のため、なかには税金が差し引かれずそのまま支払われる人もいるだろう。
受給者年齢 | 所得税の源泉徴収対象 | 住民税の特別徴収対象 |
---|---|---|
65歳未満 | 月額9万円以上 | - |
65歳以上 | 月額13万5,000円以上 | 月額18万円以上 |
源泉徴収税額の計算式
年金に対する所得税の源泉徴収税額は、以下のように計算される。
・源泉徴収税額=(年金支給額-社会保険料-各種控除)×5.105%
「社会保険料」は、年金から天引きされている社会保険料の額で、「各種控除」には公的年金等控除や基礎控除、配偶者控除などがある。具体的には、以下のとおりだ。
- 公的年金等控除
- 基礎控除
- 扶養控除
- 配偶者(特別)控除
- 寡婦・ひとり親控除
- 障害者控除
なお上記計算式で用いる公的年金等控除および基礎控除の金額には、注意したい。なぜなら所得税法において本来の公的年金等控除は、年金受給者の年齢および受給額に応じた速算表を用いるからだ。また基礎控除は、一律48万円であるが年金からの源泉徴収額の計算においては、これら2つの控除を合わせた額が以下の式で算出される。
・1ヵ月分の年金支払額×25%+6万5,000円(最低額)
なお、算出された金額が65歳未満の場合は9万円、65歳以上の場合は13万5,000円に満たなければ源泉徴収されなくなる。また上記所得控除のうち公的年金等控除、基礎控除以外の控除を受けるには、年金事務所へ「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」を提出しておく必要があるため、該当する人は注意してほしい。
税金以外に年金から差し引かれるもの
年金月額が18万円以上の人は、原則として年金支払い時に「介護保険料」と「国民健康保険料 (または後期高齢者医療保険料)」が差し引かれることも押さえておきたい。税金(所得税、住民税)にあわせて、これらの保険料も差し引かれることで手取り額はさらに減少する。差し引かれなければ自分で支払う必要があるが、家計管理に影響する可能性もある点は考慮しておこう。
保険料額は、自治体によって異なるため、気になる方は居住地の自治体に確認が必要だ。
年金にかかる税金、本来の計算方法
年金収入が400万円以下かつ他の所得が20万円以下の場合、源泉徴収されたままで特になにもしなければ課税関係は、それで終了する。会社員が給料から天引きされる税額を年末調整で精算する仕組みをイメージするとわかりやすいと思うが、年金から源泉徴収される税額もあくまでも仮の金額だ。
ただ年金受給者の多くは、会社で年末調整を受けることができないため、源泉徴収された税金を精算する必要がある場合は確定申告で行うことになる。ここでは、申告要否を確認するために公的年金に対する本来の課税の仕組みについて解説していく。
公的年金は「雑所得」
公的年金における所得税や住民税を計算する際の所得区分は、雑所得(公的年金等)だ。その金額は、年金の収入金額から「公的年金控除」を差し引いて計算する。
【雑所得(公的年金等)の計算式】
・年金の収入金額-公的年金控除額
「収入金額」は、1~12月までに支払われる1年分の税金などが差し引かれる前のいわゆる額面金額の年金額だ。
公的年金控除は、年金の税負担が大きくなりすぎないように設けられた控除であり、年金を受け取る人が65歳以上かどうか、また雑所得(公的年金等)以外の合計所得の金額によって変わる。具体的には、国税庁が年齢・年金収入額・雑所得(公的年金等)以外の合計所得額に応じた雑所得の速算表を公表しているので、確認しておこう。
参考:令和5年分 所得税の税額表・公的年金等に係る雑所得の速算表・給与所得の速算表・簡易給与所得表・諸控除額等一覧表
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/2023/pdf/058.pdf
以下の表は、雑所得(公的年金)以外の合計所得金額が1,000万円以下の場合の公的年金控除額だ(令和2年分以降)。
年金の収入金額 | 公的年金等控除額 | |
---|---|---|
65歳未満 | 130万円未満 | 60万円 |
130万円~410万円未満 | 収入金額✕25%+27万5,000円 | |
410万円~770万円未満 | 収入金額✕15%+68万5,000円 | |
770万円~1,000万円未満 | 収入金額✕5%+145万5,000円 | |
1,000万円~ | 195万円 | |
65歳以上 | 330万円未満 | 110万円 |
330万円~410万円 | 収入金額✕25%+27万5,000円 | |
410万円~770万円未満 | 収入金額✕15%+68万5,000円 | |
770万円~1,000万円未満 | 収入金額✕5%+145万5,000円 | |
1,000万円~ | 195万円 |
具体例で見てみよう。
例えば、年金240万円、65歳未満の人は公的年金等控除が以下の計算式のとおり、152万5,000円だ。
・240万円-240万円×25%+27万5,000円=152万5,000円
雑所得として課税対象額に含める金額は、87万5,000円となる。
・公的年金等にかかる雑所得の金額=240万円-152万5,000円
65歳以上の場合は、それぞれ以下のとおりだ。
・公的年金等控除:110万円
・公的年金等にかかる雑所得の金額:240万円-110万円=130万円
65歳以上になると公的年金等控除の額が大きくなるよう設定されている。
「雑所得」は他の所得と合わせて税額が決まる
雑所得は、総合課税といって給与所得や事業所得など他の所得と合算したあとに税金額を計算する仕組みが採用されている。そのため算出された雑所得の金額に直接税率を乗じるわけではない。他の所得(があれば)と合計した金額から各種所得控除を差し引き、算出された課税総所得金額に税率を乗じて所得税額を計算する。
年金収入しかない人は、冒頭で説明した源泉徴収される金額と比べてみよう。多く徴収されすぎている場合は、確定申告すれば還付してもらえる。
確定申告をしたほうがいい場合と必要な場合
確定申告が不要な場合
以下のすべてに該当すれば確定申告は不要だが、確定申告してはいけないわけではない。確定申告をすることで税の還付を受けられる場合もあるため、必要に応じて申告をするといいだろう。
- 公的年金等の受給額が400万円以下
- 受給している公的年金等の全部が源泉徴収の対象となっている
- 公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下
確定申告をしたほうがいい場合
以下に該当する場合は、確定申告をしたほうがいい。
- 年金事務所から送られてきた扶養親族等申告書を提出していない
- 医療費控除や住宅ローン控除など他にも適用できる所得控除がある
確定申告が必要な場合
以下に該当する人は、確定申告をしなければならない。
- 2ヵ所以上から年金を受けている
- 年金のほかに給与所得や配当所得など年間20万円を超える所得がある
65歳以降も働く人が増えている昨今、確定申告が必要となる人も多いのではないだろうか。該当する人は忘れず確定申告を行おう。
年金から源泉徴収されている内容をチェックしよう
受給できる老齢年金が一定額以上ある場合、所得税や住民税、介護保険料等が天引きされる。現役時代は、給料から税金や社会保険料を天引きされてもあまり気にしない人も少なくない。しかし年金が主な収入源となる老後生活においては、しっかりと確認し必要に応じて確定申告をすることが重要だ。年金受給者には、源泉徴収票が送付されるため、徴収される項目や金額をじっくりとチェックして欲しい。
(提供:大和ネクスト銀行)
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