ESG(環境・社会・ガバナンス)は、投資家にとっても大手企業にとっても、投資先や取引先を選択するため、企業の持続的成長を見る重要視点になってきている。各企業のESG部門担当者に、エネルギー・マネジメントを手がける株式会社アクシス・坂本哲代表が質問を投げかけるスタイルでインタビューを実施した。ESGに積極的に取り組み、未来を拓こうとする企業の活動や目標、現状の課題などを紹介する。

藻類の一種であるユーグレナ(和名:ミドリムシ)を含んだ健康食品や飲料、ビューティケア商品などを展開する株式会社ユーグレナ。廃食油とユーグレナなどを原料に使用したバイオ燃料「サステオ」を製造開発するなど、多岐にわたる事業を展開している。同社は「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」をフィロソフィーとして掲げ、持続可能な社会の実現を目指している。ESGを含む経営課題に取り組む、同社の若原智広氏(=写真)から、株式会社ユーグレナが見据える環境戦略などについて聞いた。

(取材・執筆・構成=大正谷成晴)

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(画像=株式会社ユーグレナ)
若原 智広(わかはら ともひろ)
――株式会社ユーグレナ 執行役員 CFiO(最高財務責任者)

1977年生まれ。東京大学卒業。新卒で外資系証券会社へ入社し、投資銀行部門でM&A、IPO、資金調達、IRなどの案件獲得営業と案件執行を担当。2013年に株式会社ユーグレナへ入社し、様々なM&A案件や資金調達を手掛けたほか、経営企画、経営管理、IR、ESG、新規事業の立ち上げなど、経営全般の執行に携わる。2016年に経営戦略部長(現任)、2018年に執行役員経営戦略担当に就任。2021年より現職。

株式会社ユーグレナ

藻類の一種であるユーグレナ(和名:ミドリムシ)を中心にした研究、製品開発を行なっているバイオベンチャー企業。本社は東京都港区。事業内容は、健康食品や化粧品の製造・販売、バイオ燃料の製造開発など。第5回ジャパンSDGsアワードにて「SDGs推進本部長(内閣総理大臣)賞」を受賞。
坂本 哲(さかもと さとる)
―― 株式会社アクシス代表取締役

1975年6月21日生まれ。埼玉県出身。東京都にて就職し、24歳で独立。情報通信設備構築事業の株式会社アクシスエンジニアリングを設立。その後、37歳で人材派遣会社である株式会社アフェクトを設立。38歳の時、株式会社アクシスの事業継承のため家族と共に東京から鳥取にIターン。

株式会社アクシス

エネルギーを通して未来を拓くリーディングカンパニー。1993年9月設立、本社は鳥取県鳥取市。事業内容は、システム開発、ITコンサルティング、インフラ設計構築・運用、超地域密着型生活プラットフォームサービス「Bird」運営など多岐にわたる。

目次

  1. 株式会社ユーグレナが取り組むESGについて
  2. バイオ燃料の可能性について
  3. エネルギー消費とCO2排出量の「見える化」について
  4. 脱炭素社会の実現に向けた今後の取り組み
  5. 投資家に向けて。株式会社ユーグレナの抱負

株式会社ユーグレナが取り組むESGについて

アクシス 坂本氏(以下、社名、敬称略):会社設立のきっかけと、これまでの取り組みについてお聞かせください。

ユーグレナ 若原氏(以下、社名、敬称略):当社は、代表の出雲(代表取締役社長・出雲 光氏)が2005年8月に設立しました。設立のきっかけは、出雲が大学生のころ、アジア最貧国の1つであったバングラデシュ人民共和国を訪れたとき、子どもたちの栄養失調問題に衝撃を受け、「何とか解決したい」と考えたことです。

目を付けたのが、栄養豊富な微細藻類ユーグレナで、2005年12月に世界で初めて食用屋外大量培養に成功し、これを使用した健康食品の製造・販売をスタートしました。以後は、化粧品などの製造にも応用しています。

2010年からユーグレナを原料の一部に使用したバイオ燃料の開発に着手しました。2018年には日本初のバイオジェット・ディーゼル燃料製造実証プラントを竣工し、2020年に次世代バイオディーゼル燃料、2021年にはバイオジェット燃料の供給を始めました。

▽微細藻類ユーグレナ

株式会社ユーグレナ ―― サステナビリティ経営を軸に事業を展開する企業の取り組みに迫る
(画像=株式会社ユーグレナ)

坂本:ユーグレナ社の「サステナビリティ」に対する考え方や、重視している点をお聞かせください。

若原:私たちは、自社をサステナブルな会社と位置付けています。創業15周年を迎えた2020年にユーグレナ・フィロソフィーとして「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」を掲げました。「人と地球を健康にする」というパーパスをもとに事業を展開していて、ユーグレナは手段の1つです。大切ではありますが、サステナビリティを軸に、それだけに限らない事業展開を進めています。

最も重視しているのは、当社の事業成長を社会問題の縮小につなげる、という点です。環境負荷を減らすことは大切ですが、私たちが提供する商品・サービスが売れれば売れるほど社会がよくなるのがハッピーですし、ビジネスの力でインパクトを大きくできると考えています。活動を通じて、社会的価値としてサステナビリティやSDGsの推進に貢献し、経済的価値としては、今期の売上高予想480億円に対して、2026年には1,000億円相当を目指しています。

坂本:2020年9月期の売上高133億円から、2021年12月期(変則決算期により15カ月決算)は344億円と、順調に業績を伸ばしていますが、さらなる成長を目指すわけですね。現在、展開しているのはどのような事業でしょうか?

若原:大きく分けて3つの事業を展開しています。1つめは気候変動への取り組みです。グローバルで急成長が期待されるバイオ燃料事業で、「サステオ」を開発しました。「サステオ」は「サステナブルオイル」の略です。日本では、商業規模でバイオ燃料の製造プレイヤーがいない中、2010年から飛行機を飛ばすことを目標に掲げ、2021年には「サステオ」を使用した初フライトを実現しました。バイオ燃料が当たり前の社会を作り、それにより気候変動を減らし、ビジネスを拡大するといったサイクルの構築を目指しています。

2つめはヘルスケア事業です。健康は「人のサステナビリティ」であり、日本で問題になっている健康寿命と平均寿命のギャップを縮小するための食品やビューティケア商品を展開しています。

3つめは新規サステナビリティ領域で、肥料などのアグリテック(農業「Agriculture」と技術「Technology」を組み合わせた造語)、遺伝子検査などのバイオインフォマティクス(生命科学と情報科学の融合分野)、ソーシャルビジネスを展開しています。

坂本:ESGの「E」の部分であるバイオ燃料事業ですが、原料は全てユーグレナとなる日がくるのでしょうか?

若原:グローバルでは使用済みの食用油をはじめとした産業廃棄物が使われており、当社でも、実証プラントや2025年に完成予定の商業プラントでは、産業廃棄物を使ってバイオ燃料を作る方針です。

当社では、ユーグレナをバイオ燃料の原料として大量生産するための研究開発を続けており、将来的にはユーグレナだけでバイオ燃料を製造する考えはありますが、今はまだコストや製造量の点で課題があります。その実現を待って商業化が遅れるくらいなら、産業廃棄物を使ってバイオ燃料を商業的に生産するプラントを最速で立ち上げる方が、気候変動への貢献になると考えています。

▽バイオ燃料生産の流れ

*STバイオ燃料(図4)ユーグレナバイオ燃料.jpg
(画像=株式会社ユーグレナ)

坂本:バイオ燃料の製造や販売に関して、現在の状況はいかがでしょうか?

若原:2018年に完成した、神奈川県横浜市鶴見区の実証プラントで製造をしています。2021年4月にはガソリンスタンドで一般消費者向けに期間限定でバイオディーゼルとバイオハイオクを販売しました。

陸上ではバスや消防車などに、海ではタグボートやフェリーなど船舶向けに供給しました。飛行機に対しては、新型コロナウイルス感染症拡大の影響があり、当初の予定通りにはいかなかったものの、2021年6月に第1弾として国土交通省が所有する飛行検査機に当社のバイオジェット燃料(SAF)を供給できました。同月には、ホンダジェットを使ったプライベートジェット、2022年3月にはフジドリームエアラインズのジェット機にSAFを供給しました。陸海空の領域において供給実績が拡大しています。

▽ユーグレナ社のバイオ燃料

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(画像=株式会社ユーグレナ)

坂本:バイオ燃料の供給先が広がる中で、浮き彫りになった課題はありますか?

若原:最大の課題は製造量です。実証プラントの製造量は年間125キロリッターで、燃料市場の観点からは微々たる規模感です。これを解決すべく2025年には商業プラントを稼働させ、年間25万キロリッター以上の製造・供給規模を目指し、皆様に買っていただける価格帯、供給量を実現するつもりです。

坂本:ESGの「S」と「G」に関して、具体的な取り組みをお聞かせください。

若原:S(ソーシャル)の面では、バングラデシュでの「ユーグレナGENKIプログラム」という取り組みをしています。2012年12月に東証マザーズ市場に上場したときに考えたのは、「創業のきっかけをくれたバングラデシュに恩返しをしたい」ということです。2014年からバングラデシュのスラム街の子どもなどを中心にユーグレナクッキーを配る事業を実施しています。現在では、一日で約1万人の子どもたちに配布していて、累計1200万食を突破しました。他にも、もやしの原料である緑豆の農業指導などを行う「緑豆プロジェクト」、隣国のミャンマーから避難してきた「ロヒンギャ難民」の支援などを手掛けています。

▽ユーグレナクッキーを食べる子どもたち

株式会社ユーグレナ ―― サステナビリティ経営を軸に事業を展開する企業の取り組みに迫る
(画像=株式会社ユーグレナ)

G(ガバナンス)の面では、社外取締役の女性比率が3割、社外または非常勤の取締役が7割です。しっかりガバナンスが効いた組織体制になっています。

バイオ燃料の可能性について

坂本:現在、世界が脱炭素社会の実現に向かって動き出しています。この大きな流れは、ユーグレナ社のバイオ燃料のビジネスにどのような影響を与えましたか。

若原:バイオ燃料の開発に着手したばかりのころは、「本当に作ることができるのか?」「ニーズはあるのか?」という不安がありました。しかし、ここ数年の急速なトレンドの変化は追い風になっていて、関心を寄せてもらうことが増えており、すでに40社以上の企業と取引をしています。他社がバイオ燃料の実現に半信半疑のころから挑戦し始めたことが、いい結果になりました。

坂本:今後、バイオ燃料はどのように使われていくと考えていますか?

若原:EV(電気自動車)のような新たなモビリティや、風力発電や太陽光発電といった代替エネルギーなど、新たな電力が注目を集めています。しかし、電力だけでは解決できない領域があります。たとえば、船舶や長距離トラック、ディーゼル機関車、飛行機などを電力だけで動かすのは、技術面やインフラ面でとても高いハードルが存在します。脱炭素社会を目指す手段として、既存の燃料と代替可能な次世代バイオディーゼル燃料やバイオジェット燃料のニーズはあると予想しています。

エネルギー消費とCO2排出量の「見える化」について

坂本:消費するエネルギーの「見える化」についてお聞かせください。脱炭素を進めるには、今、使っている電力やガスといったエネルギーがどのように製造され、どれくらい使っているのか、具体的に見えるようにすることが重要ではないでしょうか。

アクシスでは、再生可能エネルギーの作られた経路と、使う側がどの発電所から、どのくらいの電気を使っているのかを「見える化」したトレーサビリティシステム「ecoln」を開発・販売しています。ユーグレナ社は「見える化」について、どのように取り組まれていますか。

若原:ユーグレナの生産工場では、電力やCO2排出量を測定しています。しかし、ecolnのような「見える化」まではいかず、データを集めてエクセルで集計している状況です。

坂本:CO2排出量の「見える化」についてはどうでしょうか。

若原:工場で燃料を燃やした際の排出量である「スコープ1.」、使った電力に対する排出量の「スコープ2.」は、自社で使うエネルギーなので計測は難しくありません。ただし、「スコープ3.」に関しては、原材料の製造や輸出入、できた商品の配送など、私たちだけで把握できないCO2排出量を計測する必要があり、対応を迫られています。

スコープ1.:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
スコープ2.:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
スコープ3.:スコープ1.、2.以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)

坂本:ユーグレナ社は、エネルギー消費やCO2排出量の「見える化」について、どのような点で重要性を感じていらっしゃいますか。

若原:私たちはサステナブルな会社だと対外的にアピールしていますが、本当にESGやサステナブルなことができているかどうかについての評価体制についてはまだまだ改善の余地があります。真にサステナブルな経営に向けて改善を継続するためにも「見える化」による数字の設定は重要です。

「『見える化』すると悪い点が露わになってしまい都合が悪い」と考えるのではなく、あえて可視化した上で、問題点を社内で共有し、改善していくことが大切だと考えます。

若原:逆に、アクシス様に伺いたいのですが、電力だけではなくバイオ燃料におけるCO2排出量をトラッキングすることは可能だと思われますか? 「サステオ」を使用すればこれだけCO2排出量が削減できる、といった「見える化」もできればいいなと思うのですが……。

▽株式会社ユーグレナ・若原氏

株式会社ユーグレナ ―― サステナビリティ経営を軸に事業を展開する企業の取り組みに迫る
(画像=株式会社ユーグレナ)

坂本:バイオ燃料のCO2排出量の計測は、技術的に可能だと思います。アクシスとしても前向きに考えてみたいですね。

若原:先ほど私が「対応を迫られている」とお話しした、「スコープ3.」の計測についても可能とお考えでしょうか。

坂本:アクシスのトレーサビリティシステムは、欧州で実証されたものを日本向けにローカライズしています。欧州ではピアツーピア、すなわち個人対個人での電力売買が可能で、「ecoln」にはそのシステムが組み込まれています。また、再生可能エネルギーの活用状況の「見える化」にも対応していて、それらの技術を応用すれば「スコープ3.」の計測も不可能ではないと考えます。

脱炭素社会の実現に向けた今後の取り組み

坂本:脱炭素社会を含めて持続可能な社会を実現するために、今後、企業はどのように事業に取り組んでいくべきでしょうか。

若原:電力が注目されることが多いですが、脱炭素への取り組み方法は多種多様です。何ができるのか、考えていくことが肝心でしょう。日本には「もったいない文化」が根付いていて、日本らしいやり方があると思います。新しい技術や設備を導入するだけでなく、既存のものを使いながら脱炭素を実現することにも、ニーズやチャンスがあると思います。

坂本:脱炭素への取り組みは、企業にとってコストになるという課題があり、どうビジネスに結びつけていいか悩んでいる企業が多いと思います。どのように考えればいいでしょうか。

若原:売り上げ増加が脱炭素につながれば理想です。自社の商品が、他社に比べて脱炭素に貢献しているという理由からよく売れて、リピートされれば、社会全体のCO2排出量が減っていきます。

自社の事業を拡大するほど脱炭素やサステナビリティに貢献できる、という観点で事業を見直したり、ブラッシュアップしたりする発想があるといいですね。

坂本:脱炭素や環境負荷軽減に向けて、ユーグレナ様は今後、どのような事業を進めていくのでしょうか。

▽株式会社アクシス・坂本氏

株式会社ユーグレナ ―― サステナビリティ経営を軸に事業を展開する企業の取り組みに迫る
(画像=株式会社アクシス)

若原:現在、飼料・肥料の開発に取り組んでいます。牛や羊といった家畜がげっぷをするときに出すメタンガスは、CO2よりはるかに温暖化効果が高いと問題になっています。このメタンガスをユーグレナ入りのエサで減らせないかという研究に取り組んできました。

さらに、大豆など、家畜のエサを栽培するためには広大な畑と水が必要です。開墾による森林伐採などの問題が生じていますが、一般的な食物に比べて面積あたりの生産性が高いユーグレナを大量生産すれば、この問題は解決できます。

また、バイオ燃料の生産工程において、ユーグレナの100%が原料になるわけではありません。20%~30%がバイオ燃料の原料になりますが、バイオ燃料製造に使われない残りはタンパク質です。これを捨てるのではなく、エサとして活用できないか研究しています。実現すれば、バイオ燃料事業が拡大すればするほど、大豆などの農産物の代替品を増やすことが可能になります。魚のエサとしても研究開発をしているので、海洋資源の保持にも寄与するかもしれません。

化学肥料が与える環境負荷に対しても取り組んでいます。化学肥料から有機肥料への転換の流れは国が掲げる目標の1つで、これにユーグレナの肥料活用による貢献ができると考えています。

投資家に向けて。株式会社ユーグレナの抱負

坂本:ESG投資の観点でユーグレナ社を応援したい投資家もいるはずです。そういった方へのメッセージをお願いします。

若原:私たちがここまで成長できたのは、バイオ燃料の製造開発への挑戦を応援したい個人投資家の方々の支えがあったからでした。私たちはバイオ燃料事業で2025年の商業化を目指していますが、実現するにはまだまだ多くの方々の応援や支援を必要としています。

バイオ燃料の商業プラントが稼働した暁には売上高500億円を見込んでいます。これが現在の売上の中心を占めるヘルスケア事業にアドオンされれば、当社が目標とする売上高1,000億円相当になります。10年前は売上高10億円だった会社が、売上高1,000億円規模を目指しているのです。

商業プラントは、1つではなく、中長期的に増やしていきたいと考えています。取り組みを応援いただき、期待に応えられるようなバイオ燃料や商品の提供をしていきたいと考えています。商業プラントが増えて、安定したバイオ燃料供給ができる状態になれば、あちこちのガソリンスタンドで給油できる社会が実現します。

一般の消費者が環境負荷の低い商品やサービスを選択できる社会にしていきたいですし、そのための選択肢を提供することに貢献していきたいと思います。