この記事は2022年5月20日に「第一生命経済研究所」で公開された「朝食価格指数は5.2%まで上昇」を一部編集し、転載したものです。


目次

  1. 値上がりは朝食に集中
  2. 食料費全体の負担増
  3. 食料品価格の今後

値上がりは朝食に集中

ウクライナ侵攻によって、朝食価格を中心にした食料費がどう変化するのかに筆者は注目している。2022年3月18日に発行した「朝食価格指数の上昇」というレポートのデータ更新をしてほしいという要望があるので、本稿をもって2022年4月の新しいデータを載せることにした。前回レポートは2022年2月までのデータであった。

時系列で示すと、朝食価格は2022年1月の前年比が2.4%、2022年2月同3.8%、2022年3月同4.6%、2022年4月同5.2%と駆け足で上昇幅を高めている(図表1)。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

これは小麦など輸入穀物の上昇が寄与していることが大きい。2022年4月は、小麦の政府売渡価格が半年前に比べて17.3%も引き上げられた効果が反映されている。筆者の見方では、政府が決めた17.3%の価格は、実勢よりもかなり抑えられていると考えているので、2022年10月の次回改定はさらに上昇することはほぼ間違いないとみる。

朝食価格を構成する10品目をみると、小麦製品であるパン(前年比7.7%)だけではなく、コーヒー・ココア(同12.1%)、マーガリン(同8.6%)と上昇幅が大きい(図表2)。シリアル、ジャム、砂糖も値上がりしている。これらは、国際商品市況が上がり、さらに相乗効果として円安が効いていることがある。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

年間の費用負担で換算すると、1世帯当たり約5,000円の負担増になる計算だ。これは、世帯収入が賃金上昇で潤っていなければ、非常に痛い打撃になる。

食料費全体の負担増

2022年4月の消費者物価指数は、総合の前年比が2.5%も上昇し、除く生鮮食品では前年比2.1%になっている。そうした上昇を牽引するのは、食料品である。同じく2022年1月からの前年比は2.1%→2.8%→3.4%→4%とこちらも駆け足の上昇である。

2021年の家計消費支出のうち、食料費(含む外食)は、2人以上世帯(世帯人数2.98人)で95万円(95万2,812円)である。それが対前年で4%増加しているとすれば、実額で3.8万円(3万8,112円、毎月約3,200円)の増加になる計算だ。朝食費の増加は、その部分集合になる。このまま行けば、2022年のエンゲル係数は、物価要因だけで過去最高になりそうだ。

食料品価格の今後

前述した小麦価格は、2022年4月にどう反映していたのだろうか。消費者物価の中の小麦価格は、前年比15.1%の上昇であった。2022年2月は同9.2%、2022年3月は同12.9%だから、段階的に上がっていることが確認できる。

その効果は、今後は小麦粉を加工した麺類やパンにさらに上昇圧力を及ぼすだろう。2022年4月時点であっても、朝食価格指数に入っていない麺類は、ゆでうどんが前年比6.4%、スパゲッティが同11.3%、中華麺が同9.8%の上昇率であった。その影響は、今後、外食産業の価格上昇へと波及していくだろう。

食料品の値上がりの背景には、生鮮食品の上昇もある。生鮮食品は、それを原材料とした加工食品の価格上昇へ波及するからだ。2022年2~4月まで2桁の上昇率である(2022年4月前年比12.2%)。それも、川上から川下へと仕入コスト増を引き起こして加工された食料品の上昇へと寄与するだろう。時間が経過すると、生鮮食品の上昇は、それ以外の食料品にも波及していく。

また、輸入食材についても、世界的な物流の逼迫によって、価格上昇が起こりそうだ。ウクライナ侵攻の影響は、米欧の禁輸措置を通じて、物流を停滞させている。禁輸品目をチェックしたり、航路を変更したりする影響が荷動きを停滞させて、コスト増の圧力に寄与している。

日本の自給率は低く、輸入食料が多い分、こうした物流コストは食料品価格に上乗せされる。ウクライナ侵攻が収まらなくては、国際物流は正常化していかないだろう。従って、日本の食料費はまだ価格上昇していく可能性が高い。

第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト・熊野 英生