本記事は、林恭弘氏の著書『自分の気持ちを伝えるコツ50』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています
どうして相手が離れていくの?
特に身近な人に行ってしまう、さきほどの対応の7つのタイプ「診断・提案」「同情・はげまし」「質問・尋問」「ごまかし・冗談」「命令・脅迫」「説教・講義」「非難・侮辱」。
あなたは、どのタイプに当てはまりましたか?
これらの7つの対応は、相手のためによかれと思ってしていると伝えました。
しかし、この対応に相手は決してよい感情を持ちません。逆に、「言わなければよかった! もう話さないでおこう」という不快感を持ってしまうのです。
ではなぜ、相手は不快になり、心を閉ざしてしまうのでしょうか?
理由(1)言葉の裏で相手の感情や考え方を否定している 「あなたはおかしい」「あなたは間違っている」「あなたは未熟だ」「あなたはわかっていない」。7つの対応は、これらの意味を間接的に表現していることになっているのです。
理由(2)自分の「正しさ」を押し付けている 「あなたは間違っている!」。つまり、「私が正しい!」という考えが、対応のベースになっているのです。
理由(3)相手の気持ちを拒否している 悩みを打ち明けるということは、「弱さ」を見せることです。「受け入れてほしい」「聴いてほしい」と勇気を出し、弱みを見せたのに、相手、つまりあなたに拒絶されたことになるのです。
また、他にもあなたが相手の話を聴けない理由がありませんか?
・時間がない ・邪魔くさい ・イライラする ・聴いていて自分まで気持ちが重くなる ・早くこの話題、問題から逃れたい ・長い時間、相手と一緒に悩むのがつらい ・相手の未熟さが許さない
要するに、相手の話を聴いていることが、あなたやあなたの心にとって都合が悪いことなのです。そこで早く「解決してやろう」という考えが出てくるのです。
こういった対応が繰り返されると、相手は、話せば話すほど、受け入れてもらえないつらさや寂しさで、心を閉ざしてしまいます。
「カウンセリングの神様」と言われる、カール・ロジャース博士は次のように言っています。
「まず、正そうとするな。わかろうとせよ」
間違いを見つけ、あなたの正しさで相手を変えるよりも、まずは一歩、相手に歩み寄ることが、温かい人間関係をつくるうえで一番大切なことです。
北風と太陽の寓話を思い出してください。
北風は強烈な風で、旅人のマントを脱がそうとしましたが、旅人はマントを脱ぐどころか、さらに深く襟を閉ざしてしまいました。
一方、太陽はそれとは逆に、暖かく旅人を照らし続け、包み込んであげました。すると、旅人は自らマントを開いていきました。
人は外圧では決して変わりません。
心の扉を外から無理やり開くことはできないのです。
ポイント 人の対応に不快な思いをする人は多い
相手の間違いを指摘したくなるのはなぜ?
では、どうしてあなたが、7つのタイプ(「診断・提案」「同情・はげまし」「質問・尋問」「ごまかし・冗談」「命令・脅迫」「説教・講義」「非難・侮辱」)のような対応をしてしまうのかをみてみましょう。
私たち人には、誰もが「一体感を感じていたいという欲求(一体願望)」を持っています。これを簡単に言うと、「相手にも自分と同じように感じてほしい、感じるべきである」という心理です。
たとえば、5歳くらい男の子が、セミを捕りました。彼にとってはセミを捕れたことはすごいことであり、うれしいし、誇らしいことなのです。この喜び、うれしさを誰に伝えようかというときに、まずはお母さんに見せに行く子どもが多いようです。
そこで家に走って帰り、お母さんを見つけるや「お母さん! セミ捕まえた!」と、押し付けるように見せます。「まあ、すごい! セミを捕まえたのね! やったね!」と、自分と同じようにお母さんが喜んでくれて、ほめてくれることを期待した男の子は、この後のお母さんの反応にショックを受けます。
たいていのお母さんは「うわ、気持ち悪い! なんでセミなんか持ってくるの!虫なんて家の中に入れないで!」と、体を離しながら「あっち行って」とやるでしょう。男の子はショックの後に怒りがこみ上げ、怒りながらセミをお母さんに押し付けます。
これが「一体感(一体願望)」で、「自分と同じように相手も感じるべき」という心理です。まさに人が幼児期に持つ「わがまま」や「甘え」の感情です。
発達心理学でも、このようなわがままや甘えを満たしてもらうことは、幼児期までは大切なことと認めています。それが「僕(私)は、受け入れられて愛されて、みんなから望まれている」という自己肯定感や自己愛の獲得につながるからです。
ただ、この「甘えの感情」は大人になっても残っています。それは、夫婦、恋人、上司と部下など、身近な人間関係において特に現れがちです。あなたの周りにもいらっしゃいませんか? 不機嫌になる人たちが……。
「共感してほしかったのに、全然わかってもらえなかった」と、あなたもショックを受けたことがありませんか?
「わかってもらえなくてショックだった。寂しかったよ」
と言えれば、スッキリするでしょうし、相手にも伝わります。
しかし、多くの人たちは相手に何も伝えず、自分自身も「寂しく感じている自分、みじめに感じている自分を認めたくない」と意地を張ってしまうのです。
このような、
「自分と同じように相手も感じるべき・考えるべき」 「この正しさがスタンダード」
という意識では、相手(特に悩んでいる人)の話を、きちんと聴くことはできないでしょう。
なぜなら、聴いているうちに、心が叫び声を上げ始めるからです。
「違う! おかしい! 間違っている! この人わかっていない!」と……。
でも、少しだけ考えてみてください。
果たして、相手は本当に間違っているのでしょうか?
いえ、そうではありません。
相手は「間違っている」のではなく、あなたとは「違っている」だけなのです。
「自分と相手とは違うんだから、まずはその違いを理解してみよう」という、この「自分と相手との違いを受け入れることができる状態」を「離別感」と言います。
これは違いを認めることができる「大人の心理」とでも呼ぶべき状態です。
いかがでしょうか?
この「違うのが当たり前」からスタートすれば、以前よりも相手の話に耳を傾けることができると思いませんか?
「同じが当たり前」からスタートすれば、違いが見つかるたびに「減点」になります。
しかし、「違って当たり前」からのスタートなら、あとのすべてが「加点」となり、相手の話を聴く意識が違ってくるのではないでしょうか。
ポイント 人はそれぞれ違うのが当たり前。そこからスタートする
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