本記事は、林恭弘氏の著書『自分の気持ちを伝えるコツ50』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています

あなたの「怒り」の裏にある本当の気持ちとは?

怒り
(画像=Tiko/stock.adobe.com)

相手の言動に不満を感じるときは、その根本には相手に対する「期待」があることは述べました。

不満を感じたあなたは、その相手に腹が立つ、イライラするなどの「怒り」の感情を向けるかもしれません。しかし、何か事が起こったときに、最初から怒りの感情を持っている人はいないのです。

ここで「怒り」の感情について一緒に考えてみましょう。

たとえば、デパートや遊園地で迷子になったわが子を怒っているお母さんを見かけることがありますが、はぐれたときから怒っていたわけではないでしょう。「あれ、どこに行ったんだろう?」と驚いている状態が最初です。そしてしばらくの間捜しても見つからないと、不安や心配がどんどん高まってきます。やがて恐怖にもなってゆくでしょう。

しかし、迷子の呼び出しがかかり、「もしやわが子では!」と思い、迷子預かり所でわが子と出会えた瞬間はほっとして「ああ、よかった!」と感じているはずです。

実はこの、「驚き、不安・心配を感じ、とても怖かったけれど、会えてよかった」という感情が「第1感情」と呼ばれる感情です。

その瞬間はたいてい安堵のため息を漏らしているはずですが、その直後には目がつり上がっています。泣いているわが子に近づき、「どうして一人でちょこまか動くのよ! もうこれからは連れてこないからね。嫌いよそんな子!」と怒りの感情をぶつけてしまいます。

これが「第2感情」です。

2-1
(画像=『自分の気持ちを伝えるコツ50』より)

あなたは、「本心」の第1感情と「怒り」の第2感情のどちらを伝えられたほうが受け入れられますか? 私なら第1感情で伝えられたほうが素直に納得できると思います。なぜなら相手がまず素直に本当の感情を伝えてくれているからです。

ところが先ほどのお母さんに「どうしてお子さんを怒りましたか?」とたずねると、「そりゃあ、わが子だから心配するでしょう、大切だからじゃないですか」とおっしゃると思います。母としてのお子さんを想う気持ちなのでしょう。

でもちょっと待ってください。「どうして一人でちょこまか動くのよ! もうこれからは連れてこないからね。嫌いよそんな子!」という言葉のどこに「心配したわよ。だってあなたが大切だから」という素直な想いが入っているのでしょうか。

私たちは日ごろ、なかなか素直な気持ちを相手に伝えていないようです。

それどころか、第2感情での「怒り」のコミュニケーションは、実は、「制裁を与えてやりたい」という心理から出ているのです。「こんなに私は驚いたし、不安・心配、恐怖すら感じた。だから、そんな思いをさせたあなたに、同じぐらい怖い思いを味わわせてやりたい!」という気持ちです。

本心や本音を伝えずにわかり合えるものがあるでしょうか?

人は誰でもがっかりしたり、落ち込んだり、寂しくなったり、悲しくなったり、不安だったり、心配になったりする生き物です。

そのありのままの、素直な気持ちを伝えずに、「怒り」の感情で相手をやっつけてばかりいると、いつまでたってもわかり合えないかもしれません。

ポイント
私たちは日ごろ、なかなか素直な気持ちを相手に伝えていない

気持ちを素直に伝えれば、うまくいく

素直に「期待」を伝えられると、まったく雰囲気が変わると思いませんか?

そして、叶えてあげられる程度の期待であれば、相手は気持ちよく承諾してくれるかもしれません。

しかし、あなたの期待通りに相手が動いてくれないことも当然あるでしょう。すべてが期待通りに運ぶわけはないからです。

人それぞれ、他人に対して求めるものは違います。

会社でも立場や役割によって求められること、果たさなければならないことが違いますよね。そうすると相手に求めることだって違います。

プライベートでも男女の性差によって、あるいは個人の性格や考え方、価値観によっても求めることは違います。あなたから見ると、相手がときどき「間違っている」ように見えることがあるかもしれません。しかし、それは「間違っている」のではなく、「違っている」だけなのです。

心理的に自立している人は、自分と相手が違うことを認識していて、考え方が異なることを前提として、自分の「期待」を丁寧に相手に伝えます。

それを、相手が納得して叶えてくれれば喜び、相手が叶えられなければ「叶えられない相手を理解しよう」として、相手の言い分をよく聞こうとします。

しかし、心理的に自立していない人は、自分の「期待」を丁寧に伝えようとしません。

「いちいち言わなくても、わかってくれて当然」であり、「その、わかって当然の、私の期待に応えないあなたが悪い」と無意識的に相手にもたれかかり、甘えを押しつけているのです。そして、相手を責める言葉ばかりぶつけることになります。

側にいる時間の長い人ほど、いちいち言わなくても気づいてほしいし、わかってほしいし、思いやってほしいものですよね。そう思うこと自体は決して悪いことではありません。やがては「言わずとも響き合える」そんな関係に近づいていきたいものです。

しかし、そのためには「あなたという人」が何を思い、考え、期待する人なのかを、相手に知らせなければ「打てば響く」関係は実現しないのではないでしょうか。

相手に不満を感じたときには、ぜひあなたの中にある相手に対する「期待」を探ってみてください。

そして、心を開いて素直に気持ちを伝えることのできる人になり、気持ちのいい関係にしましょう。

ポイント
心理的に自立している人は、考え方が異なることを前提として、相手に自分の「期待」を丁寧に伝える

自分の気持ちを伝えるコラム

心理的自立はステキな恋を運ぶ

心理的に自立している人とお付き合いするのは、気持ちのいいものです。言いたいことがあればきっちりと言う。しかし、相手を責めるのではなく、自分の状況や意思を伝え、また相手のことも聞き入れてくれる人だからです。

逆に自立できていない人は、不機嫌になる・すねる・怒る・攻撃することで相手をコントロールしようとします。こういう人たちは、相手に「重さ」を感じさせ、ステキな恋愛や夫婦関係からは遠ざかっていきますね。

男女の関係では、特にこの「心理的自立」が大切になってくるようです。

自分の気持ちを伝えるコツ50
林恭弘(はやし・やすひろ)
ビジネス心理コンサルティング代表。心理コンサルタント。 1964年生まれ。兵庫県宝塚市出身。日本メンタルヘルス協会心理カウンセラー・講師。幼児教育から企業を対象とする人事・教育コンサルタントまでたずさわった後、現日本メンタルヘルス協会代表・衛藤信之氏に師事。カウンセリング活動の他、東京・名古屋・大阪・福岡での同協会主催の心理学ゼミナール講師、企業・学校・各種団体を対象とした講演会・ 研修会講師として活動。「活力ある社会と、優しい家庭を創造する」をテーマに、日常生活に実践的ですぐに役立つ心理学を紹介する。

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