本記事は、御手洗昭治氏の著書『ビジネスエリートが身につけたい 教養としてのダンディズム』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています

非言語メッセージの察し方・伝え方

ビジネスマン
(画像=beeboys/stock.adobe.com)

無意識下のボディ・ランゲージ(身体言語)

これからの時代に求められるものと言えば、目では観察できない「暗黙のルール」として受け入れられており、普段は意識されていない「非言語メッセージ」の解読である。これからは、人を見る眼を養い相手の心理をつかんだり、相手の振る舞いをを分析し、他人の気持ちを知ることが必要だ。

また、相手の気持ちを知るためには、まずは自分を知る必要がある。そうすることにより、相手の隠れた欲求や深層心理が読み取れる。周囲との人間関係をスムーズにするばかりか、自分の人生をより豊かなものにしてくれる。

欧米人と比較した場合、日本人の対人コミュニケーションには、身体表現が少ないと指摘される。彼らは会話をしている最中も口八丁、手八丁ではないが、顔や手非言語メッセージを解読する眼を培うを中心に表情豊かに話す。また、相手の身振りにも敏感に反応しながら、喜怒哀楽を自然体で会話をしているが、自分たちはそのことについては気づいていない。

これに関連し、社会言語学者のエドワード・サピアが興味深いコメントを残している。「われわれは、あたかも精妙な秘密の暗号に従うかのごとく、様ざまな身振りにきわめて敏感に反応する。それについては、どこにも書かれておらず、誰一人知る者もいない非言語の暗号だが、すべての人はそれを理解できる」と説いている。

相手は初対面でこちらの教養・器を判断する

英語圏には「第一印象がすべてで、第二印象はない」(There is no second chance to make a first impression.)という格言がある。

見た目の清潔感も含む外観、人となりや第一印象が重要だということだ。初対面の際、世界のビジネスパーソンや女性秘書の中には相手を数秒で観察し、その人の収入や教養・趣味、職業などを99パーセントの確率で判断できる人が存在する。その人は相手を観察し、一気に結論に達する脳の働きである「適応性無意識レベル」が高く、人を瞬時に判断できる行動科学者のような見識を持っている。読者には行動科学者のごとく、自己の無意識をきたえ、たくみに操り、最初の数秒で判断する非言語メッセージ解読力を高めて頂きたい。

ちなみに、できる人が実践している着こなしのベースは、その業界で最も受け入られている「服装」にあるようだ。

奇抜な恰好をする人は、自分が個性的であることを服装で表現し仕事もできることを伝えようと試みている。しかし、アメリカの社会・文化などでは逆効果となる。個性的なスーツは仕事の邪魔になると見なされている。言い換えれば、スーツには個性は不要という「暗黙の文化価値」に基づくルールが存在する。

つまり、印象操作においての成功の鍵は、自分が相手に与えるイメージによるインパクトを、そこで得たい狙いに合わせることだ。そのためには、自分の置かれている状況と相手の自負心に細心の注意を払うことが求められる。

言動の「裏メッセージ」を知ることができる

行動科学者は、ヒューマン・ウォッチャーであり、人びとの仕草、動作、コミュニケーション行動のパターンを野外観察する。

ヒューマン・ウォッチャーにとっての野外とは、電車やバスの停留所、スーパー・マーケット、街角、野球などの競技場といったありとあらゆるところのことであり、人が何かアクションを起こしたり、行動したり、コミュニケーションをしている所ならば、どこにおいても、人間や自分について何かを観察し学んでいる。

つまり、人間の特定の行動パターンや非言語のメッセージを読み取ることができれば、人と出会い、交際する時に、相手の仕草や動作、振る舞いの裏に隠された意味を知ることができる。人間は動物であるが、サルをはじめ他の動物が行わない交渉(取引き)という唯一の行動を、ノン・バーバルなジェスチャーやメッセージを使用したりして行うことができる。

強調したい点は、非言語のノン・バーバルなメッセージの多くは、自分では気づいていない意識下でやりとりされている。それらの自分では気づかないメッセージは、潜在意識に作用したり影響されたりして、わたしたちの考え方や感じ方や行動パターンを大きく左右する。

しかし、当の本人は、なぜそのような反応が引き起こされたのか気づいていないケースが多い。これは、コミュニケーションは理性より感性によって大きく左右されるからである。

見た目のメッセージ=服装はその人なり

英語圏には「服装はその人なり」(You are what you wear.)という格言がある。前述したが、人は時折相手の身なりや身だしなみ、身のこなし、また、仕草等によって、その人物、人柄それに能力などを判断される。

米国ペンシルバニア大学の教授であるポール・ファッセルは、『階級』という書の中で、鈍感でない人ならば、たいてい一目で階級が分かってしまうのはなぜか? また、その時人は、どんな特徴をさがすのか? といった問題について以下の回答をしている。

「まず最初が『顏の良さ』であり、どの階級にもそれ相当の美男美女はいるものの、顔つきの美しさは上位の階級のしるしとなることが多い」

人は、まず目を通して相手の身なりや身だしなみに注目する。そして5秒の間に、相手の評価とこちらの心構えと相手に対する対応を決めてしまう。人は服装を通して自己主張する傾向があることから、英語には、「服装はその人なり」(You are what you wear.)という格言が存在するのかもしれない。

「スタイル」はその人のバロメーター

時折、男性でベストの一番下のボタンを外している人がいる。これは、英国の男性ファッション文化の基礎を築いたボウ・ブランメルが考案した習慣である。

彼は、フランス革命で流行した長ズボンを男性の服装ファッションとして定着させた人物でもある。フランス革命以前に貴族たちが着ていたのはキュロットであり、それを改良し、ズボンにしたのがブランメルである。そのためフランスには「キュロット党」も存在したことがある。若い女性の間では、今でもスカート風のキュロットが人気のファッションの一つになっている。

彼はまた、シャツのカラーのノリづけや、革のブーツをピカピカに磨き上げることも定着させた。加えて彼は、服装の中でも最も上質な素材であるウール、麻、それらにマッチする靴の材料も吟味して使うことを習慣化させた人物でもある。

紳士の本場である英国では、黒と白とグレーが紳士のファッションの基本となっている。これもブランメルが「英国人の心は、地味な色によって、最もよく表現される」と提唱した時以来の文化伝統となっている。

ただし、「階級」という言葉には、不快な連想がつきまとう。特にアメリカ文化においては、「階級」というコンセプトを持ちだすのは、恥ずかしい作業になってしまう。

社会学者のポール・ブランバーグは、階級は「アメリカのタブー」と『Inequality in an Age of Decline』の中で述べている。多くのアメリカ人は、階級があるということを口にするのは嫌がる。

しかし、人間は、似たような生活環境やライフスタイルに対しての均等な価値観を持っている人と一緒にいる時の方が、気が楽なことは確かである。例として大工さんなら大工さん同士でいる方が打ち解けたコミュニケーションが取りやすい。

どのような「生活環境」「ライフスタイル」に身を置くかは、科学的には明確ではないが、階級を特定するにあたって、一つの尺度やバロメーターとなる。

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(画像=『ビジネスエリートが身につけたい 教養としてのダンディズム』より)
ビジネスエリートが身につけたい 教養としてのダンディズム
御手洗昭治(みたらい・しょうじ)
兵庫県生まれ。札幌大学英語学科・米国ポートランド州立大学卒業。オレゴン州立大学院博士課程修了(Ph.D.)。ハーバード大学・文部省研究プロジェクト客員研究員(1992~1993年)。ハーバード・ロースクールにて交渉学上級講座&ミディエーション講座修了。エドウィン・O・ライシャワー博士(元駐日米国大使・ハーバード大学名誉教授)が、ハル夫人と来道の際、講演の公式通訳として各地を随行(1989年9月)。日本交渉学会元会長、札幌大学名誉教授、北海道日米協会副会長・専務理事兼任。主な著書・編著に『サムライ異文化交渉史』(ゆまに書房)、『ハーバード流交渉術 世界基準の考え方・伝え方』(総合法令出版)、『ケネディの言葉 名言に学ぶ指導者の条件』(東洋経済新報社)などがある。

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