本記事は、御手洗昭治氏の著書『ビジネスエリートが身につけたい 教養としてのダンディズム』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています

握手で相手の「心をつかむ」方法

握手
(画像=SFIO CRACHO/stock.adobe.com)

タッチングの前提は相手との関係

われわれは、日常生活の中で話し方については話し、見方については観察しようとする。が、どういうわけか、触れ合い方については、めったに取り上げようとはしなかった。

理由は、触れることがあまりにも基本的であるため、あたりまえのこととして見過ごしてきたのである。例えば、動物行動学者のデズモンド・モリスによれば、このような、ありふれたヒトの親密行動に関して、これまで、ほとんど研究が行われなかったという。

不幸なことに、人びとは気づいてはいないが、われわれは次第に触れ合うことが少なくなり、非接触動物化し、だんだんと人どうしで距離を置くようになりつつある。肉体に触れ合えないことは、感情的な孤立をともなう。有名な経営学者のピーター・ドラッカーは、以前『断絶の時代』という書を世に出したが、第二の断絶の時代だけは避けたい。

タッチングは、相手との関係次第であることを最初に述べておきたい。お互いが親しい関係であればあるほど、コンタクト(接触)は、しっかりと力強いものになる。が、相手が初対面の人である場合、特に相手が男性の場合は、触れ方には十分に注意したい。

最も安全なのは、握手をした後に相手への好感情を固定するため、軽く相手の腕に触れるだけにとどめることだ。読者が女性の場合、初対面の相手の性別に関係なく、もう少し気軽に触れてもかまわない。触れる力を強め、時間もやや長めにすることで、より良い印象が伝わる。ただし、この場合も触れる場所は、腕だけにとどめることである。

欧米の「握手文化」と日本の「おじぎ文化」の行動パターン

握手には隠されたパワーがある。握手は古代の人たちが、自分は武器を持っていないことを相手側に示した動作の起源と言われている。

古代ローマ人たちの握手は「忠誠の誓い」であり、「友好の誓い」は、前腕を握り合うことで示された。現代の握手は、産業革命が今から約180年前に起こったイギリスで、握手を交わすことで、「契約を交わし」、「交渉を成立させる」という習慣が生まれた時にさかのぼるができる。今では、社交上の儀礼として握手が交わされる。

握手は「サイレント・ランゲージ」であり、意識下の感情や思考を映し出し、信頼、友情、共鳴、それに自尊心などを伝えるものである。

相手の目を見ながら5秒ほど、しっかり握って、手を上下に振って行う。女性は男性ほど強くは握らない。握手している際の表情、アイ・コンタクトの長さ、空いている左手で触れる相手の体の部分、姿勢などの要素がメッセージを発する際に重要な役割を果たす。

握手は、親指と人差し指の間のくぼみ同士がマッチし嚙み合うのが流儀だ。男性ならしっかりと握り、女性ならばエレガントに握る。そして、対等な関係であり敵対していないことを示すために、握った手をあまり動かさないことがコツのようだ。

握手の順番

握手する際には、相手の目を見ながら強く握手をする。

握手は、人と人との親愛の情を表す行為であり、エチケットとしてビジネスの世界においても重要な要素である。握手を欠くことは、欧米文化においては、非礼と見なされている。したがって、温顔をもって、真心のこもった態度で握手をすることが心得である。

握手の順位は、異性間であれば
(1)女性から男性
同性間であれば
(2)年上から年下
(3)先輩から後輩
(4)既婚者から未婚者

という順で行うのが通例である。

握手の手であるが、原則として右手で行うものである。右手に故障のある場合、この原則によらなくても良いが、多くの文化、例えばインドなどでも、左手は不浄な手と見なされているので、できるだけ避けるべきである。

トランプ元米大統領の「権威を示すための握手」

欧米文化において、首相や大統領を目指す人物がそうなれるかどうか、日本の首相とは違い、何人の有権者と握手をしたか、つまり、握手の回数によって決まるようだ。

例えば、日本びいきで1905年に日露戦争の仲介役を買って出て、日本を勝利に導いたセオドア・ルーズベルト元大統領は、ホワイトハウスに年賀の訪問に来た市民に、何と9,513回もの握手をしている。ちなみに、セオドア・ルーズベルトは、日露戦争を終結させた立役者としてノーベル平和賞を受賞している。

ジョン・F・ケネディ元大統領の後任のリンドン・ジョンソンは、相手を威圧する「手管握手」で知られている。手管握手とは、がっちり握りしめた手を少し内側にひねって、手のひらで相手側の手を押さえつけるようにするスタイルで、それが彼の特技であった。

近年では、元大統領のドナルド・トランプが握手好きの大統領として知られている。思い起こせば、2017年2月10日にホワイトハウスで開催された日米首脳会談に臨んだ安倍晋三元首相が、会談の際、ドナルド・トランプ元米国大統領と交わした握手は、何と19秒という異常な程の長い握手であった。

普段ならば、数秒の長さである。CNNニュースのテレビ画面上で見た映像では、トランプ大統領は、安倍元首相の手をぐっと握りしめ、さらに、握った手を自分側にグイッと引き寄せていた。これはトランプの流儀であり、あえて自分の優位性を示そうとする並外れた握手であった。

トランプは、安倍元首相を自分の方に引き寄せるばかりでなく、左手で相手の右手の甲を叩き兄貴ぶりを披露しようとした。ニューヨーク市立大のムスタファ・バイウミ教授は、ガーディアン紙の記事の中で「トランプ氏の握手は小さめながら、カウボーイのように大胆な男っぽさと自分の力量を示そうとする。彼は、握手が意味するイコールの関係という流儀を恐れているように見える」と述べていた。トランプの異常な握手の犠牲になったのは、当時の副大統領のマイク・ペンスなどトランプの「身内」にまでおよぶようだ。

ビジネスエリートが身につけたい 教養としてのダンディズム
御手洗昭治(みたらい・しょうじ)
兵庫県生まれ。札幌大学英語学科・米国ポートランド州立大学卒業。オレゴン州立大学院博士課程修了(Ph.D.)。ハーバード大学・文部省研究プロジェクト客員研究員(1992~1993年)。ハーバード・ロースクールにて交渉学上級講座&ミディエーション講座修了。エドウィン・O・ライシャワー博士(元駐日米国大使・ハーバード大学名誉教授)が、ハル夫人と来道の際、講演の公式通訳として各地を随行(1989年9月)。日本交渉学会元会長、札幌大学名誉教授、北海道日米協会副会長・専務理事兼任。主な著書・編著に『サムライ異文化交渉史』(ゆまに書房)、『ハーバード流交渉術 世界基準の考え方・伝え方』(総合法令出版)、『ケネディの言葉 名言に学ぶ指導者の条件』(東洋経済新報社)などがある。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)