この記事は2022年8月3日に「The Finance」で公開された「ステーブルコインとは?初心者向けに解説」を一部編集し、転載したものです。
昨今注目が集まっているステーブルコインについて、基礎的な内容から現状の動向まで網羅して解説します。
目次
ステーブルコインとは
定義
ステーブルコインとは、取引価格が安定することを目的に、米ドルや金などの資産と連動するように設計された仮想通貨の一種です。
従来の仮想通貨は価格の変動が大きく、高騰や暴落を繰り返してきました。そのため投機的な意味合いで保有する人が多く、決済手段や資産保有としての安定性は欠いているのが大きな課題でした。こうしたデメリットをなくすことを目的に作られたのが、法定通貨に価格をペッグ(紐付け)し、価値を安定させるステーブルコインです。
ビットコインなどとの違い
仮想通貨の市場規模は、年々拡大傾向となっており、2021年11月には暗号資産市場の時価総額が3兆ドル(約340兆円)を超えてきています。
こうした市場において、ビットコインに代表される仮想通貨は、ボラティリティが大きい(価格変動が大きい)ことや法定通貨と異なり、中央管理者が存在しないことが特徴です。ビットコインなどは裏付けされる資産がないため、日々のボラティリティが非常に大きくなります。そのため価格の安定が難しく、実用性に乏しいという課題があります。
一方でステーブルコインは、前述したように法定通貨にペッグ(紐付け)されているため、価格が安定することが特徴です。法定通貨に紐付けされているため、為替の暴落などのリスクヘッジにもなります。またビットコインなどの仮想通貨よりも、価格の安定性があるため、日々の決済手段としても利用しやすいと考えられています。
ステーブルコインが注目される背景
これまでの仮想通貨はボラティリティが大きいため、決済手段などに適していないとされていました。ステーブルコインでは、価格の安定性があるため、より一般に広く普及するのではないかという観点から注目を集めています。
また昨今では暗号資産を国家の法定通貨として採用する国も出てきました。マネーロンダリングなどの不正利用の防止や、貧困層の人々が金融サービスへアクセスしやすくなるなどのメリットがあるためです。加えて世界的にデジタル化が急速に進んでいることや、メタバースなどの仮想空間の活用も広まっています。こうした仮想空間内の活用は、法整備や企業の参入などによって、今後さらに広がっていくと予想されています。仮想空間内でも現実世界と同様にコミュニティが出現し、そこで利用できる通貨として、ステーブルコインが注目を集めています。
つまり現実世界の決済手段としても、仮想空間内の決済手段としても一般的な普及ができるのではないかと考えられています。
金融庁の金融審議会によれば、日本では今後「電子的支払手段」として進めていくことが示されています。日本でステーブルコインを発行、運用するには銀行業の免許等が必要のため、一般に普及するのはまだ先だと考えられています。
ステーブルコインの種類
法定通貨担保型
法定通貨担保型とは、その名の通り米ドルや円など現実で利用されている法定通貨を担保とするステーブルコインです。
法定通貨担保型は、一定の交換比率を設定することで、ステーブルコインの変動率を抑制させることが可能です。変動率が抑制できるため、ステーブルコイン年の安定性や信頼感を高めることにつながります。多くのステーブルコインが法定通貨担保型で発行されており、普及が広がっています。
また発行元は担保となる法定通貨を保有していなければ、ステーブルコインの発行には至りません。
仮想通貨担保型
仮想通貨担保型とは、ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨を担保として発行するステーブルコインです。
ステーブルコインの担保として、ボラティリティが大きい仮想通貨が適切なのかと考えられているため、ステーブルコインの保証力は弱くなってしまいます。仮想通貨担保型で発行する場合は、発行元がステーブルコインよりも多くの担保とする仮想通貨を保有している必要があります。
商品担保型
商品担保型とは、金などの商品の価値を担保に発行するステーブルコインです。金は安定資産の1つと言われており、経済の影響を受けにくいとされています。そのため金の価格や価値は大きな変動をせずに安定しています。
商品担保型は金などの商品と価格を連動させ、ステーブルコインの価値の安定性に務めているものです。そのため商品担保型として発行する場合は、金などを相応数保有している必要があります。
無担保型(シニョレッジ・シェア型)
無担保型(シニョレッジ・シェア型)とは、アルゴリズムによって成立させるステーブルコインです。市場の需要と共有を発行元がアルゴリズムによって把握し、需要が多ければコインを売るなど、発行量を調整することで価格を安定させる方法です。
担保とする法定通貨や商品がないため、保有や購入を行う前には、発行元の信用度を確認する、知識をきちんと備えている人に聞くなどが大切です。
代表的なステーブルコイン
Tether(USDT)
Tether(USDT)は法定通貨型のステーブルコインで、米ドルと連動して価格が安定しているのが特徴です。単位はUSDTで、1ドル=1USDTとなるように調整されています。
運営元はTether Limited社となっており、2015年2月から発行を開始しています。ステーブルコインとしては歴史が長く、時価総額や取引量が最も多くなっています。
TrueUSD(TUSD)
TrueUSD(TUSD)も法定通貨型のステーブルコインで、米ドルと連動しています。
運営元はTrustToken社となっており、同社ではTrueUSDを「米ドルによって完全にバックされた最初の規制されたステーブルコインである」と説明しています。
単位はTUSDで、1ドル=1TUSDで固定されています。複数の信託銀行が運営しているためカウンターパーティリスクを軽減できる点がメリットとしてあげられますが、時価総額はUSDTと比較すると大きく下回っています。
ダイ(DAI)
DAIは仮想通貨担保型のステーブルコインで、イーサリアムなどを担保に発行されています。
DAIを開発したのは、自律分散型組織「DAO」によって運営されている「MakerDAO」という非営利団体です。
元来はイーサリアムのみを担保としていましたが、2019年11月にベーシック・アテンション・トークン(BAT)が加えられたため、複数の仮想通貨による担保が実現しました。そのため特定の仮想通貨の価格変動を受けづらくなり、価格の安定を実現させています。
価格の安定性が難しいと言われる仮想通貨担保型のステーブルコインの代表例と言えます。
Tether Gold(XAUT)
Tether Gold(XAUT)は商品担保型のステーブルコインで、金を担保に発行されています。
現物の金の価格に連動する仕組みとなっており、スイスの銀行に保管されている金と交換が可能となるデジタル資産として注目を集めています。
なお担保としている金がなければ、Tether Goldの価値はなくなってしまいます。2020年2月21日時点、Tether社は、実際に担保としている金の延べ棒を40本保管していると公式SNSに公開しました。
USDコイン(USDC)
USDコインは(USDC)法定通貨担保型のステーブルコインで、米ドルと連動した値動きを見せます。
発行元はCentre社となっており、この会社はフィンテック企業Circle社と仮想通貨取引所Coinbase社が、合同で立ち上げた会社となっています。
USDコインの特徴はイーサリアムで発行されたステーブルコインであるという点です。イーサリアムはDAIなども利用しているブロックチェーンで、統一ルールであるERC20に準拠しています。
また他のステーブルコインと同様に1ドル=1USDCとなるように調整されています。時価総額はTether(USDT)に次いで第2位の規模を誇ります。
Binance USD(BUSD)
Binance USD(BUSD)は、法定通貨担保型のステーブルコインで、米ドルと連動しています。
発行元は暗号資産インフラ企業であるパクソス社で、Binance USDの信頼性を担保するために、世界トップクラスの監査会社であるWithumの監査を受けています。監査結果として、積立金に関するレポートを毎月発行しており、資産の裏付けとしています。
Binance USD(BUSD)は、裏付け資産を公開しているため、信頼度が高いとされており、時価総額でもTether(USDT)、USDコインに続いて3番目の規模を誇ります。
JPYC(JPY Coin)
JPYC(JPY Coin)は、法定通貨担保型のステーブルコインで、日本円と連動しています。発行元はJPYC株式会社で、2021年1月に発行が開始されており、発行額が10億円を超えてきています。
単位はJPYCで、1円=1JPYCとして取り扱いが可能です。大きな特徴としては、国内の決済手段として浸透させるために、前払式支払手段を取り入れていることです。前払式支払手段とは商品券やギフト券のように、利用者から前払いされた対価を元に発行されるものです。
AMPL
AMPLとは、アルゴリズムを介して価格を決定する無担保型のステーブルコインです。
大きな特徴は「リベース」と呼ばれる、ステーブルコインの供給量を調整するシステムを用いていることです。需要と供給のバランスをアルゴリズムによって捉えるため、他の仮想通貨等の価格の影響を受けにくいとされています。
ステーブルコインのメリット
ステーブルコインのメリットは、ほかの仮想通貨よりも「価格が安定している」という点です。
繰り返しになりますが、米ドルなどの法定通貨と連動しているものが多いからです。他にも安定資産と呼ばれている金を担保にしているなど、一定の信頼性が高いのが大きな理由です。
他にも投資家などの「資産の避難先に利用できる」ことも挙げられます。米ドルや日本円に限らず、自身が所有している資産は分散していた方が、暴落などのリスクヘッジになります。法定通貨と連動しているステーブルコインを活用すれば、資産の避難先としてリスクに備えることにつながります。
また関連して「法定通貨の代替機能」としてもメリットがあります。例えば現金を持って海外へ行った場合、日本円から米ドルへの両替の必要があります。しかし米ドルと連動しているステーブルコインであれば、両替をせずに米ドルを持っていることと同じになります。そのためこれまでの法定通貨のデメリットを解消することにつながります。
加えて価格の安定性も高いため、仮想通貨などの取引を行うブロックチェーン技術がさらに進化していけば、「将来的な決済手段」としても用いられることも期待できるかもしれません。
ステーブルコインの購入方法
結論から言えば、ステーブルコインは国内の取引所で購入することはできません。
そのため海外取引所を経由して、購入する必要があります。具体的な手順は下記の通りです。
- 国内取引所でビットコイン等の仮想通貨を購入する
- 購入したコインをステーブルコインの購入できる海外取引所に送金する
- 送金した海外取引所でステーブルコインを購入する
海外取引所は日本語対応をしていないものも多いため、1つ1つ確認しながら進めることが大切です。
また国内取引所はCoincheckやbitFlyer、GMOコインなど、実績のある取引所の活用がおすすめです。
ステーブルコインを規制する法律
日本では世界に先駆けて「改正資金決済法」が2022年6月3日に可決されました。
ドルと連動していたステーブルコインである「テラUSD」が暴落したことを背景に、世界的なステーブルコイン規制の動きが背景にあります。
「改正資金決済法」の目的はステーブルコインの規制はもちろんのこと、ステーブルコインをマネーロンダリングに使われないための対策強化です。
具体的にはステーブルコインを取り扱うのは「発行者」と「仲介者」に明確に分けられました。発行者とは、ステーブルコインの発行や管理を行う者です。これらの発行者は銀行や信託会社が限定で行えることに規制が強化されました。
一方で仲介者は登録制とされ、マネーロンダリングへの対策も厳しい基準が設けられています。また疑いのある事業者には金融庁の立ち入り検査が行え、違反が発覚した場合には、行政処分も行われます。
ステーブルコインの課題
ステーブルコインの大きな課題は「実用化に向けた動き」であると言えます。
暗号資産は広く知られるようになってきたとは言え、決済手段として用いられているケースはまだまだ少ないのが実情です。またステーブルコインは価格の安定性が高いのがメリットだが、ドルと連動していた「テラUSD」が暴落した事実もあります。そのためステーブルコインが実用化され広く普及されるためには、法定通貨と同様の安定性はもちろんのこと、決済手段としての実用性やそれに伴う法整備などが必要です。
2019年10月に開催されたG7ではステーブルコインについて、以下の9つの課題があると指摘されました。
- 法的な確実性
- 健全なガバナンス
- マネーロンダリング、テロ資金供与、その他の形態の不法な金融
- 決済システムの安全性、効率性、および完全性
- サイバー・セキュリティおよびオペレーション上の頑健性
- 市場の完全性
- データのプライバシー、保護およびポータビリティ
- 消費者/投資家保護
- 課税上のコンプライアンス
G7ではこれらの課題が解決されなければ、ステーブルコインの運営を行うべきではないと発表しています。そのためこれらの課題を解決していくことが、ステーブルコインの実用化に向けた課題と言えます。
まとめ
市場では、2022年5月のステーブルコイン・テラUSDの急落を機に信用収縮の方向に向かっており、ステーブルコインのリスクに注目が集まっています。暗号資産市場の安定回復に向け、ステーブルコインの改革や規制の整備が求められそうです。