本記事は、田口和寿氏の著書『非常識 社長業〜一万回断られても10,001回目に成功させる〜』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています
価値を伝えれば値段は3倍に上げられる
もうお気づきかと思いますが、ビジネス最前線の皆様に比べて私はプレゼンテーションがうまくありません。
ですから、人に価値を伝えることに人一倍、注力しています。価値が伝わらなければ、ありがたいとは思ってもらえません。その結果商品は低価格となり、社員も家族もみんな困窮してしまいます。
お金が足りないと気持ちを込めた商品もサービスも作れないから、質も下がって悪循環になります。いい商品であればむしろ積極的に価値を伝える方向にフォーカスシフトすることで、実はそれだけでも売上を何倍にもしていくことができるのです。
ノウハウやレシピをYouTube動画で公開している話をしましたが、他にも新杵堂では、材料を作っているところからホームページですべて公開しています。ノウハウやレシピだけでなく、こういったことも通常であれば隠すものですが、新杵堂では公開しているのです。
日本人の職人気質でモノを作っている人の中には価値を伝えることを「品がない」と考える人も少なくありません。日本の会社にいると、企業秘密を公開しないことが「美徳」とされているような気がします。
ですが逆に私としては、むしろ価値を伝えることを推進すべきだと思います。ニューヨークで働いていると「公開しない」という選択肢はありません。ニューヨークはお客様ファーストなので、お客様からの質問に全部答えるスタンスなのです。
ここには「お客様ファースト」の日本と海外の認識の違いがあるとは思います。
ですが、消費者目線からすると「企業秘密なので言えません」と言われるよりは、すべて公開して「このように無添加にしているので安全です」と言われるほうが安心のはずですし、それが求められる社会になりつつあります。
こうして新杵堂では商品単価を10年前と比べて約2倍にすることができていますし、公開することによって安心してモノを買ってもらえる流れを作ることができているのです。
ピンチのときこそ「ブランディング」のチャンス
国内大手商社に私が飛び込み営業をした話をしました。
通常であれば、自社商品を売り込むために、大手企業や一流企業にいきなり飛び込みはしないものです。
特に中小企業のような規模の企業であれば、大手企業には相手にしてもらえないと考えたり、コラボレーションなど、何らかの協力を得て、事業を膨らますことには物怖じするでしょう。
しかし、むしろ中小企業こそ「1+1」が2ではなく「5」や「10」になるような経営戦略にフォーカスシフトし、有名・著名ブランドと自社製品を合わして売ったらどうなるかを考えていくべきです。
新杵堂はこれまで大手商社や大手通販会社の他にも「某高級車オーナーズサロン×新杵堂」「ソニー×新杵堂」「大手航空会社×新杵堂」「大手鉄道会社×新杵堂」といった名だたる大手企業や有名企業としてきました。
航空会社では飛行機の機内食として、鉄道会社との提携では東京駅や名古屋駅、新大阪駅、博多駅の構内で販売しました。
もちろん、このような大手企業や有名企業提携をするためには、こちらの希望を押し付けるだけではダメです。相手に「YES」と言わせるためには相手側のメリットを明確に提示しなければいけません。
一流ブランドは、もうそれだけで事業が成り立ってしまっていますので、社員の人たちは新しいことをやる必要がないと考えています。下手に何か新しいことをすると自社ブランドを傷つけかねないからです。
これは言い換えるなら「あえて冒険をしない」ということです。
だからこそ、「安心材料」をメリットとして提示してあげるのです。
例えば某大手自動車企業ラグジュアリーブランドであれば世界観や、高機能の商品と価格、そして保有者だけが入場できる専用クラブが背後にあります。このようなすべてが完璧な中で新杵堂のような和菓子がなぜ必要かと言えば、西洋的かつハイグレードな世界観に和テイストが入ることによって〝和み〟が出るからです。
そして、これはあくまでも私の想像ですが、今まで自分たちが取り入れたことないお菓子を取り入れることで、〝新しい話題〟を顧客に提示できるようになるのです。
もちろん、これは一例ですが、大手家電創造会社でも大手通販企業でも、そもそも「コラボレーションできるはずがない」という思い込みを壊し「コラボレーションをする」という考えにフォーカスシフトしたことで実現しました。
相手のメリットをこちらから提案してあげることによって、「1+1=10」になるビジネスを実現できるのです。
新商品を顧客と共創する
某高級車のオーナーズサロンでの話をもう少し補足します。
大手商社のときと同じく、いきなり私が某大手自動車企業で新杵堂のお菓子を置いてもらおうと思っても受け入れられるはずがありませんでした。まさに「あなた、誰?」という感じです。
高級車のオーナーズサロンにはトータルで10回は通ったでしょうか。
そこはそもそも、オーナーしか入れません。最初は知り合いのオーナーの紹介で、サロンに入るところからでした。そして、店長と挨拶をする機会をいただき、シンプルに「お菓子屋をやっていますので、置いていただきたいです」と伝えました。
最初は社交辞令で挨拶をしてくれましたが、何度も通っているうちにやがて「またあなたですか」という顔をされるようになりました。本来はオーナーしか来られないところにオーナーではない私が、しかも営業に行っているわけですから煙たがられるのも当然です。
ですが、そこはあきらめの悪い私です。「ご迷惑なのはわかっています、でも来ないと会ってくれませんよね」と返しました。さらに、知り合いのオーナー10人くらいに電話をして「『サロンで新杵堂のロールケーキを食べたい』と言ってください」というお願いも水面下で行いました。そうすることで、サロン内で新杵堂の名前が出るようになる状況を作り上げていったのです。
そして、このようなことを何度も繰り返しているうちに、やがて進展がありました。サロン側から「新杵堂は何ができるの?」と聞かれたので「逆に、何をすればうちのお菓子を置いてもらえますか?」と聞いたのです。
すると「不可能かもしれませんが、ロールケーキの上に文字を入れてくれたら買いますよ」という返事がきました。私はその場で「はい、わかりました。やります!」と返事をしました。
このやり取りはビッグプロジェクトに巻き込んでいくときの鉄則です。
提案は相手様から聞くのです。このやり方で、大手通販企業でも「地産材料を使って、女性のお客様が注文するであろう商品を考えて下さい」という要望を引き出しました。
要望を引き出したら、あとはそれを実現するだけです。
そこから新杵堂ではロールケーキの上に文字を入れる機械を数百万円かけて導入し、結果的に某高級車のオーナーズサロン×新杵堂のロールケーキができ上りました。
高級車を買われたお客様への返礼品として「○○様、この度はご購入ありがとうございます。」という文字をロールケーキの上に印刷して、オリジナルでそのお客様にプレゼントできる仕組みを作ったのです。
通常の提案は、相手のメリットになることを提案する側が必死に考えてトライ&エラーを繰り返すものです。
ですが、私はそこで直接相手に要望を聞き、教えてもらうことにしました。
これは相手と一緒に新商品を創り出す「共創」の考え方です。
このやり方で某高級車オーナーズサロンとの取引が始まり、テレビ、新聞雑誌、ウェブ、フリーペーパーなど多数のメディアに掲載されました。2022年現在、取引はその関連店舗だけでも15店舗にまで取引が広がり、販売が継続しています。
大事なのは熱意と粘りで実現するまで通うことです。そして、独りよがりにならず、相手が求めるものを相手から教えてもらい、教えてもらった以上は実現する責任を取ることだと私は考えています。
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