本記事は、田口和寿氏の著書『非常識 社長業〜一万回断られても10,001回目に成功させる〜』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています
「あえて作戦を立てずに失敗する」理由とは?
日本には「失敗は成功のもと」という言葉があります。
語源はいろいろとあるようですが、私はフォーカスシフト思考においても、この言葉はとても重要だと考えています。
もちろん失敗はしたくないものです。企業経営で言えば損失が出たり、借金が増えたり、会社の評価が下がったり、悪い噂まで流れたり……よいことは思い浮かびません。
みんなそれが嫌なので、作戦を立て、段取りを重視し、マーケティングや戦略・戦術を考え、過去の事象をもとに理論武装して臨みます。
しかし、むしろあえて作戦を立てずに失敗することで得られること、失敗してみないとわからなかったことがたくさんあると考えています。
多くの書籍では「成功法則」は教えてくれますが「失敗法則」は教えてくれません。ですが本当は、失敗によって得られる「金の卵」はたくさんあるのです。
私はこれまでに多くの?いや数えられないくらいの失敗をしてきました。何度も死ななければならない寸前までいきました。それこそ失敗談だけで1冊の本を書けるくらいです。その中でも最も思い出深いエピソードを1つご紹介します。
中国圏のネットショップで新杵堂商品が売れはじめた頃のことです。「日本から輸入するのではなく中国現地に製造工場を作らないか?」という打診を現地中国企業から受け、5,000万円ずつの出資で工場を新設しました。
中国国内でお菓子を作れるようになると、売上はさらに上がっていきました。現地の中国人経営者(出資者)とも「これからもどんどん売って行こうと!」肩をたたきあっていました。
しかし2年ほどが経ったある日、いきなり現地法人の会社を乗っ取られてしまったのです。具体的には現地銀行口座を凍結され、日本の新杵堂側からお金を引き出せないようになってしまいました。
中国側の大義名分はこうでした。
「商品の開発はうちで全部やったから、もう新杵堂はいらないです、パートナー契約は解消です」
しかも、中国側は「新杵堂」の商標登録を製造業で取得していて、乗っ取ったあとも新杵堂ブランドを自分たちが使えるようにしていました。
恐ろしい手腕だと思いました。契約違反も甚だしいですが、海外に出ると日本の常識では考えられないこのようなことが起こり得るのです。
今回のケースは私の勉強不足と準備不足によるもの、つまり世界を知らないまま挑戦した私の怠慢が原因でした。当然ながら融資してくれている日本国内銀行は大激怒。「リスクを考えずに中国でビジネスをするなんて、田口さんはバカですか?」そんな意味合いのことまで言われました。反論の余地無しです。
弁護士に相談しても「こちらが被害者なので訴えることはできるが、おそらく勝てない」という返事で、結局はこの件は泣き寝入りするしかありませんでした。
本社社員には『中国事業で失敗して倒産』の噂が広がり55名いた従業員のうち25名が去る事態となったのです。
しかしこれが後にプラスに転換します。
現在、新杵堂では新たに中国での販売をしていますが「新杵堂」で検索をすると中国国内で本家である我々のホームページが上位にヒットします。つまり、今回の事件で、中国サイドで新杵堂の名前が広がり、こちらは何もせずにSEO対策ができた、ということです。
中国でSEO対策をしようと思ったら年間数億円かかりますから、それが丸々浮いた計算になります。そう考えると、5,000万円を出資して工場を作ったこともペイできたと考えることができます。
普通の企業であれば、このような事件を避けるために事前に現地のことを調べ上げて理論武装し、弁護士をつけたり、万が一のための保険をかけたり、とさまざまな準備をすると思います。
私はあえてそれらを何もせずに行って失敗しました。ですが、もしも私が事前に準備をしていたら、中国サイドとの取引は成立しなかったと思います。
つまり、あえて準備しなかったからビジネスがスタートできた、ということです。
銀行からお叱りを受けたときに「3年以内に、中国での特別損失分を経常利益で5,000万円出しカバーしてください」と言われ、実際に2年で達成できましたが、それもこの失敗があったからだと考えています。
失敗を恐れず失敗から仮説を立てる
前項の中国のケースは今思い出しても、かなり危ない橋だったと私自身思います。
今では過去の失敗からあらゆる再発防止策を講じ、中国圏に強い社員が活躍しています。
普通の感覚であれば、そもそも失敗する可能性が高いとわかった時点で取りやめにしたり、やるにしても時間をかけたり、石橋を叩いて渡るように慎重に物事を進めていくものだと思います。
ただ、失敗を恐れていては挑戦できませんし、何かを始めたら大なり小なり何かしらの失敗はつきものです。大切なのは、失敗から学ぶ、ということです。
新しいビジネススキームや新しいマーケットに飛び込む際に「今この瞬間に失敗しておけば今後数年間は失敗しない」と考えるようにしています。私はこれを「失敗の前倒し」と呼んでいます。
前倒しで失敗しておくことで、次は失敗しないようにできる。大きく失敗したくない人には、このやり方がおすすめです。
私の場合ですと「A」というパターンの作戦があって、それで失敗したらそこから派生するブラッシュアップ案の「A'作戦」を考える。そこからどのように新しいものを生み出すかが勝負だと思います。
例えば、私が通販番組に初めて出演したときのケースですと、最初はまったく売れませんでした。逆にクレームが入って、その内容が「田口(私)が毛深すぎて不快だ」というものでした。つまり、毛深い人間がテレビ通販で売っていたから、新杵堂のお菓子が売れなかったわけです。
テレビショッピングの場合、お客様の8割が女性で、それも35~55歳の女性が多いです。そのターゲットに響くためには女性を採用してテレビに出すか、清潔感のある男性をテレビに出すかがポイントでした。
そこで私は、私自身が脱毛をして引き続き私がTVで販売することにしました。「Aの作戦」を「A'作戦」にしたわけです。結果、現在ではテレビ通販での販売は、新杵堂の5つの主力事業のうちの1つになっています。
他にも、新杵堂の営業戦術として「赤ちゃんから80歳のおばあちゃんまで新杵堂のお菓子を食べていただきたい」というこだわりがあります。
高校生以上に関してはSNSや自社サイトやテレビ通販を通して販売ができますが、赤ちゃんや小学生にチラシを配ってもお金を払ってくれるわけではないので、リーチができません。
そこで「赤ちゃんにはお菓子の選択肢はないので、お母さんから評価していただけるようになる。そのためにはおいしくて健康に良いものがいい」という仮説を立て、食品安全基準の「FSSC22000(ISO22000をベースにした、より確実な食品安全管理を実践するための世界マネジメントシステム規格)」を取得して再チャレンジしたのです。
今では、赤ちゃんへの販売トップ企業に、情報雑誌とインターネット販売の両方を展開していただいています。
「最初に旗を立てること」に意味がある
1969年7月20日にアポロ11号が人類で初めて月に着陸し、船長のニール・アームストロングと操縦士エドウィン・オルドリンは人類で初めて月に降り立ち、アメリカ合衆国の旗を月面に立てました。ちなみにアームストロング船長についてはデイミアン・チャゼル監督によって『ファースト・マン』という映画にまでなっています。
新規事業をスタートさせ、それを成功させることも、言い換えるなら「パイオニア(先駆者)になること」「最初に旗を立てること」になります。私はこの「最初に旗を立てる」ということが経営者にはとても大事だと考えています。
ただ、多くの人はすぐには行動せず失敗しないためのリサーチをきちんと行おうとします。
誰だって失敗はしたくないです。
事業部長だったら首が飛びますし、例えば経営者だったら1,000万円の赤字を出したら、それを取り戻すために利益率10%の商売であれば1億円の商売を作らなければならなくなります。そのうえでその年度の利益を出して、給料や売掛金も買掛金も払わなければなりません。
ただ、私は業界特有のこともあるのかもしれませんが、自分から行動して最初に旗を立てないと、もう二度と「その場所」へは進出できなくなる=成長機会を永遠に失うのではないか、という恐怖感を持っています。
もちろん、資金力がある会社は、急がなくても、他社のお手並み拝見をしてから、うまくいく算段がついたら大きく資金を投入してやれば良いと思います。
ですが、私たちはそれができないからこそ、チャレンジ精神を持って飛び込んで、お宝を探しに行かなければいけないのです。
そしてさらに、今の時代だからこそ最初に旗を立てることをおすすめする理由は、インターネットやSNSによって世界での商品販売がとても容易になっているからです。
インターネットやSNSを活用した販路拡大スピードは昭和の時代の3倍、4倍。発生した流れを後発の企業はなかなかひっくり返せないということです。
実店舗であれば、人気店の隣に店を出すことは物理的に可能です。それによって人気店の顧客を自店に導くこともできるでしょう。
ところが、ネットではそうはいきません。一度どこかの企業がネットショップを出してしまうと、後発は永遠の二番手になってしまうのです。つまり、早い者勝ち、行動した者勝ちなのです。
インターネットである程度の認知を得ることができれば、企業としてのブランド性も高めることができます。
このような結果を得るためにも、最初に旗を立てることがすごく重要だと私は考えています。
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