本記事は、田口和寿氏の著書『非常識 社長業〜一万回断られても10,001回目に成功させる〜』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています

なぜ社員の失敗を社長が謝りに行くのか?

目次

  1. なぜ社員の失敗を社長が謝りに行くのか?
  2. 3万件の〝買わない理由〟が集まった
  3. 人気商品は領域を変えて再度売る
  4. 「新商品開発」と同時に「撤退基準」も決める
謝る
(画像=Ameashi/stock.adobe.com)

企業経営において「クレーム対応(クレーム処理)」は、絶対に避けて通れないものの1つです。

ある程度の規模の企業になってくると、クレームは「クレーム係」のような部署を設けて専門的に取り扱うのが普通でしょう。

そうでない場合であっても、一般的には担当者が謝罪をし、それでも解決できない場合はその上司が謝ります。事が大きくなれば、部長クラスが出て行って謝罪し、解決しようとします。

このような部署や担当者がいることによって経営者は経営のことに専念でき、細々としたことを考えなくてよくなります。

しかしクレームが出たときは自分が謝りに行きます。

新杵堂が1000億円企業で安泰な組織であればわざわざ私が出ていくこともないのかもしれません。

ですが売上15億円レベルで、これからどんどん新しいことをしていかないといけない以上、失敗も多く、その失敗の1つひとつをすべて社員に責任を取らせたり謝罪させたりしていると、会社へのロイヤリティが失われたり、社員たちが意見を上げてきてくれなくなります。

さらに、クレームが出た際に経営者がわざわざ謝りに行くことは、単に許してもらえる度合いを高めるだけではない、別の意味でのいい部分が存在します。

まず、相手方はトップが謝りに来るとは思っていません。来るとしても担当者や主任クラスだと思っています。そこに私が行って謝罪して、「名刺交換だけでも」と頭を下げると「え! 会長さんがわざわざ?」となります。

これは相手を驚かせたいわけではなく、このような対応を取ることで向こうから仲良くなる姿勢を示してもらえるからです。クレームを言う人は基本的にその企業を好きでいてくれている人がほとんどです。だからこちらが誠意を見せることで、相手も前向きな姿勢になってくれるのです。

それに、思わぬアイデアや希望を教えていただけることが多々あります。

経営者が行くと「おたくのお菓子はおいしいんだけど、パッケージがちょっとねぇ……」というすごく正直な意見をもらえたりもします。

「クレームは宝」という言葉がありますが、まさにその通りで、私からすればクレーム対応も無料でご指導をいただける宝の山なのです。だから行かない手はありません。

実際にお客様からのクレームは具体性が高いので、改善すべきポイントも明確で改善しやすいのです。ですから社員には、クレームがあったら絶対に私に回すよう言っています。

担当者が謝りに行くと単なるお詫びになってしまいますが、経営者が謝りに行くことでたくさんの宝が生まれます。

相手との関係性づくりの場、次のアイデアや改善案を具体的に教えてもらえる場、そして、トップが一緒に来てくれることで社員にとっても会社が安全な場にもなるのです。

つまり経営者は、「社員のすべての責任を、自分でとる必要がある」と考えて言動していれば、社員は必ずやってくれるようになります。

3万件の〝買わない理由〟が集まった

「クレームは宝」と言われるのは声を上げてくださるのは基本的には少数派のお客様だからです。つまり、10人のお客様が同じような不満を抱えているのに、実際に声を上げるのは1~2人しかいない、ということです。

残りの8~9人は「サイレント・マジョリティ」と言って、不満があっても声を上げることなく、静かにそっと、その商品を買うのをやめてしまう方々です。

企業にとってクレームも宝ではありますが、同時に「多数派のお客様が買わない理由」もまた、モノを売るためのとても大事な要素になります。

このようなとき、一般的にはリサーチ会社に頼んでアンケートやヒアリングをしたり、ミステリーショッパー(覆面調査)を行うなどしてお客様目線で情報を集め、検証し、仮説を立てていくと思います。

ここで実際に店に来て買わなかったお客様に「どうしてこの商品を買わないのですか?」などとは誰も聞きません。買わない選択をしたお客様は早々に売り場を立ち去りたいわけですから、そんなときに質問をしたら嫌な顔をされて「あの店に行ったら変なことを聞かれる」という逆ブランディングになってしまいかねません。

ですが、私はむしろ、お客様に「買わない理由」をストレートに聞いてしまいます。

これは私が優秀な経営者ではないと考えているからできる方法です。自分が優秀だと考えていたら、そんなことはプライドが許すはずがありません。

そして、クレーム対応と同じく、お客様に「買わない理由」を聞くことにも、とてもいい改善案や新しいアイデアのヒントが満載なのです。

私が事業を受け継いだ当時、新杵堂では赤字覚悟で百貨店の催事に出店していたことがありました。その目的は2つ。「売上を作ること」「お客様の声を直接聞くこと」でした。

その際に、三越や大丸、阪急といった百貨店で、お客様が新杵堂のお菓子を買わなかった際に声をかけ、質問をしました。

すると「パッケージがダサいから」「新杵堂を知らないから」「歴史がないから」「(無名な割に)値段が高いから」など、さまざまな声をいただきました。そして、それを持ち帰って社内で検討したのです。

売上15億円になり、少しずつ所帯が大きくなってきた現在でも、形は変えていますが新杵堂ではこのやり方を踏襲しています。

一般のお客様や法人のお客様に対して「何かお声がありましたら、私に直接メールください」と、代表に直接メールできる仕組みを取り入れているのです。

もちろん、この取り組みを考えたときには社内からは大反対。「何を考えてるんですか」という声が多数上がりました。

実際にやってみると毎日10通前後のメールが私のもとへ届きます。

そこには「おたくの社員の態度はこうだ」「味はおいしいけど値段が高すぎる」など、普段では知り得ない情報が書かれていたりします。

メールの9割が苦情や要望ですが、20年近くやっているので約3万通の「買わない理由」が集まりました。

そして、私はこれらのメールに対し次の日の朝までに返信することにしています。徹夜になることもあれば、内容を伝えて秘書に返信作業を任せるなどの対処はしています。そして、これらをすべて社員にも公開しています。

昔とは違って、今は情報を公開するソーシャルな時代です。

調査会社などを通して秘密の情報を知るよりも、直接質問することで気軽に答えてもらえやすい時代になっています。それだけでもコストダウンにつながりますし、フィルターを通さない生の情報を得られます。

メールだけでなくSNSやYouTubeのコメント欄を活用することで、これらはさらに加速していくでしょう。このように窓口を広げながら、無料で改善情報を手に入れることをおすすめします。

人気商品は領域を変えて再度売る

「一発屋芸人」という言葉があります。

過去には小島よしおやヒロシ、アキラ100%、レイザーラモンHGやブルゾンちえみ、スギちゃん、など数々の一発屋芸人が登場しました。

一見すると、1年で名前が消えてしまっては意味がないように思えるかもしれません。ですが、芸人の感覚からすれば一発でも当てることが至難な業界なので、どんな形であっての顔と名前が売れることはとても重要なことなのです。

同様に企業でも、人気商品を作り出すことは至難の業です。

ですから普通であれば、生活用品でも嗜好品でも、売れ筋商品が出たらそこに広告を入れてどんどん売り伸ばし、価格破壊が起きるまでずっと拡販し続けます。出版業界でも本が売れたら、出版社は広告や営業をかけてさらに売り伸ばそうとします。新しく何かを売るより、売れているものを売り伸ばすほうが労力も少なくて済みますし、効果も高いからです。

ただ、フォーカスシフト思考ではヒット商品があってもそこに依存はしません。こう書くと「売れる商品を捨てるのか」と思われるかもしれませんが、そうではなく、大切にしつつも領域や目的を変えて売り直すのです。

例えば、新杵堂では「ロールケーキ」はとても大事な主力商品ですが、種類は120種類くらいあります。同じように栗きんとんも主力商品として、世界情勢に合わせて形・味・サイズ・フレーバーなどをアレンジし、さまざまな地域で売れるようにするのです。

すでに書きましたが、ムスリムの人に売るのであればアルコールや動物性の乳製品を使っていないものに変えたり、ということです。

他にも、シンガポールで売るのであれば日本のものより砂糖を30%控えたものに変えたり、韓国であればチョコレートとバナナが人気なのでそのようなロールケーキを作ったり、アメリカではパッケージを派手にしたり、香港だと赤い包装と金の文字にしたり、というアレンジを現地から情報収集して愚直に行っていくのです。

そうすることで、同じ商品でも、日本では100円でしか売れないものが海外では300円で売れることがあったりします。それだけで売上は3倍になります。

現在、新杵堂では日本と海外の売上比率が日本4:世界6くらいですが、これも日本だけで単一商品を売る体制に依存するのではなく、領域や目的を変えてアレンジしながら売上を伸ばす策の1つです。

そして、そのような海外の情報を敏感にとらえるために現地へ度々行ったり、海外に住んだり、外国人を積極的に採用したり、情報収集のための策も行っているのです。

「新商品開発」と同時に「撤退基準」も決める

先程「たった1つのヒット商品を作るのも至難の業」ということをお伝えしましたが、企業にとっての商品とは「我が子」と同じようなものです。

仮にあまり販売数が振るわない場合であっても、「シンボリックな商品」は赤字覚悟で売っていくことがあります。

ですが、売れない商品を抱えることは、経営にとっては足を引っ張る行為ですから、時には切り捨てる勇気が必要です。

そして、「やめたいのにやめられない」という事態になってしまうのは、最初に新商品を開発した際に「撤退する基準」を明確にしていないことが原因です。

新杵堂の場合、毎月のように新商品が企画されたり販売されていますが、経理部門責任者の社員の判断でそれぞれの商品に撤退基準を設け、毎月それをチェックしながら然るべきタイミングが来たら感情論を切り捨てて撤退するようにしています。

撤退基準には「売上比率」「原価」「社内へのインパクト」「物流と倉庫に対する影響」など15項目があり、その数字を毎月管理部で集計して、赤字であれば即中止。なかには発売から1ヶ月で消えた商品もあります。

そして、この撤退基準は〝絶対〟です。

トップである私が考えた商品であろうと、社員たちが年単位でがんばって作ったものであろうと、基準を満たさないものは即終了。時には社員から泣かれることもありますが、それでも決行します。

お客様から「どうして急になくなったのですか?」という問い合わせをいただくこともあります。そんな場合でも「社内で熟考した結果もそうなりまして、申し訳ありません。ただ、新しい商品がどんどん生まれてきますのでご期待ください」という言い方で説明しています。

ここまで徹底しているのは、そうしないと仮に私のアイデアの商品が基準に満たない場合に、社員が忖度なく「中止です」と言えなくなるからです。

この判断には社長や役員や一般の社員などの垣根はありません。

基準を決めて、それに満たないものは生産中止。その姿勢を貫くことで会社としては強くなっていきますし、一体感も強まります。

どんな企業でも「売れ筋商品」だけでラインナップを揃えられればいいですが、必ずしもそうとは限らないのが現実です。

そんな中で売上の足を引っ張る商品を勇気を持って生産中止にする。その撤退基準を持ち、その実行を徹底することを始めてみてください。

非常識 社長業〜一万回断られても10,001回目に成功させる〜
田口和寿(たぐち・かずひさ)
株式会社新杵堂代表取締役会長兼新杵堂グループ代表岐阜県の和菓子屋「新杵堂」2代目の父と母の間に生まれる。高校を卒業し、和菓子専門学校に入学。その後、上京し宮内庁御用達の赤坂・塩野で職人として修業する。1995年に塩野5年目で退社し、お菓子修行のために単身ニューヨークに渡る。当初、家がなくセントラルパークに住み、公園で知り合ったお金持ち夫婦に超高級レストラン(職場)を紹介してもらう。その後、世界中からパティシエが集まる人気店でスイーツを学ぶ。その後、パリにも渡る。帰国後、有限会社新杵堂(岐阜県中津川市)として組織変更し、代表取締役に就任。親を含めた数人でスタート。資金調達のために岐阜県内の長者番付上位100人に電話し、99人に断られ数回警察に通報されるも、非常識な作戦の数々でピンチをチャンスに替えていく。その後、楽天でニューヨークチーズケーキをモチーフにしたお菓子「栗ふわふわ」を大ヒットさせ、2021年世界13か国でお菓子を売る年商15億円(世界従業員140人)の会社にまで成長させる。※夢は「お菓子で人々を幸せにする」。一歩として、ママのための保育園設立、そして夢支援のための財団。また、受刑者などを受ける団体への加盟と、受け入れ開始している。https://www.shinkinedo.com/

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