神戸大学大学院経営学研究科と日本 M&A センターホールディングスは9月27日、神戸大のキャンパスで記者会見を開催し、中小企業のM&Aに関する研究と教育を促進する産学連携協定を締結したと発表した。会見の中で、協定締結調印式も開催している。
日本の多くの中小企業が後継者不在の問題を抱える中、M&Aによる事業承継によってこうした課題を解決できるように、神戸大学が中小企業のM&A研究と教育において、中核的な役割を担えるようにする。
協定により、神戸大が取り組む中小企業や小規模事業者を対象とする研究と、日本M&Aセンターホールディングスの事業を組み合わせ、両者が交流して研究を進める。両者が持つ知識を共有することで、中小M&A分野の教育水準を引き上げるという。具体的には、若手の研究者の育成、研究者の裾野の拡大、教育プログラム通じた日本における課題の認知、経営指導プログラムの充実などを挙げている。
2022年4月に経営学研究科内に設置した中小 M&A 研究教育センターのセンター長を務める忽那憲治氏は、「中小企業のM&A分野に関する研究が遅れている。研究用データや研究するために必要な取材先との接点が少ないことが理由の一つ。この提携によってそれを解決できる」と話す。
既に連携は始まっており、一組100万円を研究助成するプログラムの審査で、39歳までの若手研究者5人を会見前日の9月26日に選出した。二次募集も予定しており、毎年募集していく。
中小M&A研究教育センターの設置後は、トップマネジメント講座「中小企業のM&A」を350人の学生が履修するなど、学生が高い関心を示している。M&Aによる事業の集約やイノベーションによる生産性の向上など、中小M&Aに関わる研究者を支援することで、学術的な知見を生み出す。その研究成果を中小企業に還元することが連携の目的だ。
日本M&Aセンターホールディングス代表取締役社長を務める三宅卓氏は、「アカデミアでの中小M&Aの研究と教育を広げ、アカデミア、行政、業界の三位一体で、中小企業の廃業を救う原動力にしたい」と述べた。
連携の背景には、中小企業の後継者不足による廃業という社会的課題がある。総務省などの調査によると、2025年には中小企業・小規模事業者の経営者約245万人が70歳以上になり、この内の約127万社の後継者が未定になる見込みだという。さらにこの中の半数にあたる約60万社は黒字のまま廃業すると言われている。
また日本の生産年齢人口は、2040年末までに2015年と比較して77%に減少(財務省などのデータから試算)し、2060年の日本のGDPは世界の1.9%へと減少、2010年の8.5%と比較して大幅な衰退を予測するというデータ(出典は内閣府エコノミスト・インテリジェンス・ユニット)があるなど、環境の見通しは悪い。
このような社会課題に対して、行政やM&A仲介業界などによる中小M&Aは広がりを見せているものの、学術研究が追いついていなかった。もともと中小M&A分野の研究者が少ないため、興味を持つ学生が多いにもかかわらず教育の機会がないという状態が続いていた。
そこで三宅社長と忽那教授は、25年ほど前にさかのぼるつながりを頼りに、今回の産学連携の動きを進めた。経営分野において、神戸大学が日本を代表する学術機関の1つであることも、選定の理由として挙げている。今後同様の連携を、他大学とも進める考えだ。
今回の取り組みについて、神戸大学大学院経営学研究科長の國部克彦教授は、「責任の重さを感じているが、産学連携でさらに中小M&Aを本学部の柱としたい」とコメント。
日本M&Aセンターホールディングスは、データや資金の提供によって中小M&A研究の裾野を広げ、自社のビジネスに生かす狙いがある。寄附講座、研究助成、優秀活動の表彰、データセットの提供、実践的インターンシップなどが提供プログラムであり、中小M&A研究・教育の成果を社会に還元することを目指している。
三宅社長は、「中小M&A分野における即戦力の育成というよりも、この分野の裾野を広げたいという思いが強い。客観的な視点やシナジー効果の研究などは企業側では難しい。アカデミアで研究することで、業界全体の学術の裾野が広がる」と話した。