この記事は2022年10月3日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「米個人所得・消費支出(22年8月)-PCE価格指数は総合、コアともに前月比、前年同月比で市場予想を上回る」を一部編集し、転載したものです。
目次
結果の概要:個人所得は市場予想に一致、個人消費は市場予想を上回る
9月30日、米商務省の経済分析局(BEA)は8月の個人所得・消費支出統計を公表した。個人所得(名目値)は前月比+0.3%(前月改定値:+0.3%)と+0.2%から上方修正された前月、市場予想(Bloomberg集計の中央値、以下同様)の+0.3%に一致した(図表1)。
個人消費支出は前月比+0.4%(前月改定値:▲0.2%)と+0.1%から下方修正された前月からプラスに転じたほか、市場予想の+0.2%も上回った。価格変動の影響を除いた実質個人消費支出(前月比)は+0.1%(前月改定値:▲0.1%)と+0.2%から下方修正された前月からプラスに転じた一方、市場予想の+0.1%に一致した(図表5)。貯蓄率(*1)は3.5%(前月:3.5%)と前月から横這いとなった。
価格指数は、総合指数が前月比+0.3%(前月:▲0.1%)と前月からプラスに転じたほか、市場予想(+0.1%)も上回った。変動の大きい食料品・エネルギーを除いたコア指数は前月比+0.6%(前月改定値:横這い)と+0.1%から下方修正された前月、市場予想(+0.5%)を上回った(図表6)。前年同月比は総合指数が+6.2%(前月改定値:+6.4%)と+6.3%から小幅上方修正された前月を下回った一方、市場予想(+6.0%)は上回った。コア指数は+4.9%(前月改定値:+4.7%)と+4.6%から小幅上方修正された前月、市場予想(+4.7%)を上回った(図表7)。
*1:可処分所得に対する貯蓄(可処分所得-個人支出)の比率。
結果の評価:基調としての物価上昇圧力の加速を確認
個人消費(前月比)は後述するようにガソリン価格の下落を受けてガソリン消費が落ち込むなど、財消費はマイナスとなったものの、堅調なサービス消費によって前月からプラスに転じた(図表1)。また、8月は実質ベースでもプラスを維持しており、インフレ高進でも消費が底堅いことを確認した。
個人所得(前月比)は前月並みの伸びとなったが、内訳をみると賃金・給与が+0.3%と22年1月以来(+0.1%)以来の伸びに鈍化しており、労働需給の逼迫を背景にした賃金上昇圧力が緩和した可能性を示唆した。
一方、FRBが物価指標としているPCE価格指数は総合指数が前年同月比では22年6月(+7.0%)をピークに2ヵ月連続で低下しているものの、前月比では前月のマイナスからプラスに転じた。また、物価の基調を示すコア指数は前月比、前年同月比ともに前月を上回っているため、8月は足元で物価上昇圧力が加速していることを確認する結果と言えよう。このため、当月の結果は、11月以降もFRBによる政策金利の大幅な引上げが継続することを強く示唆している。
所得動向:賃金・給与の伸びが22年1月以来の水準に鈍化
8月の個人所得(前月比)は前月並みの伸びを維持したが、中身をみると自営業者所得が+1.2%(前月:▲0.2%)、移転所得が+0.2%(前月:▲0.4%)と前月からプラスに転じた一方、賃金・給与が+0.3%(前月:+0.8%)と伸びが鈍化したほか、利息配当収入が▲0.1%(前月:▲0.0%)と2ヵ月連続でマイナスとなるなどマチマチの結果となった(図表2)。このうち、賃金・所得の伸びは前述のように22年1月以来の水準に鈍化した。
個人所得から税負担などを除いた可処分所得(前月比)は、8月の名目が+0.4%(前月:+0.3%)と前月から小幅ながら伸びが加速した(図表3)。一方、価格変動の影響を除いた実質ベースは+0.1%(前月:+0.5%)とインフレが加速したこともあって前月から大幅に伸びが鈍化した(図表3)。
消費動向:財消費からサービス消費へのシフトが継続
8月の名目個人消費(前月比)は、財消費が▲0.5%(前月:▲0.7%)と2ヵ月連続のマイナスとなった一方、サービス消費が+0.8%(前月:+0.1%)と前月から大幅に伸びが加速して全体を押し上げた(図表4)。
財消費は、耐久財が+0.1%(前月:+0.3%)と前月から伸びが鈍化したほか、非耐久財が▲0.8%(前月:▲1.3%)と2ヵ月連続の大幅なマイナスとなって財消費全体を押し下げた。
耐久財では、自動車・自動車部品が+1.0%(前月:▲1.3%)と前月からプラスに転じた一方、家具・家電が▲0.3%(前月:+0.8%)、娯楽財・スポーツカーが▲0.1%(前月:+1.6%)といずれも前月からマイナスに転じた。
非耐久財では、食料・飲料が+0.7%(前月:+0.4%)と前月から伸びが加速した一方、衣料・靴が+0.3%(前月:+0.5%)と伸びが鈍化したほか、ガソリン・エネルギーが▲8.1%(前月:▲11.0%)とガソリン価格の下落を反映してマイナス幅は縮小したものの、2ヵ月連続でマイナスとなった。
サービス消費は、娯楽が▲0.1%(前月:▲0.1%)と2ヵ月連続のマイナスとなった一方、輸送サービスが+3.7%(前月:▲0.4%)、外食・宿泊が+0.7%(前月:▲0.6%)、金融サービスが+0.9%(前月:▲1.1%)とプラスに転じたほか、住宅・公共料金が+1.0%(前月+0.8%)、医療サービスが+0.6%(前月:+0.4%)と前月から伸びが加速した。
価格指数:エネルギー(前月比)は2ヵ月連続のマイナス
価格指数(前月比)の内訳をみると、エネルギー価格指数が▲5.5%(前月:▲4.9%)と2ヵ月連続のマイナスとなった(図表6)。一方、食料品価格指数は+0.8%(前月:+1.3%)と、こちらは前月から伸びが鈍化したものの、21ヵ月連続のプラスとなっており、食料品価格の上昇には歯止めがかかっていない。
前年同月比は、エネルギー価格指数が+25.5%(前月:+35.4%)と18ヵ月連続で2桁の上昇となったものの、前月からは大幅に伸びが鈍化した(図表7)。食料品価格指数は+12.4%(前月:+12.0%)と62ヵ月連続のプラスとなったほか、こちらは79年2月(+12.7%)以来の高い伸びとなった。
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窪谷 浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員
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