この記事は2022年9月5日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「米雇用統計(22年8月)-雇用者数は堅調に増加、労働供給にも回復の兆し」を一部編集し、転載したものです。
目次
結果の概要:雇用者数は市場予想を上回った一方、失業率は横這い予想に反し上昇
9月2日、米国労働統計局(BLS)は8月の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+31.5万人の増加(*1)(前月改定値:+52.6万人)と、+52.8万人から小幅下方修正された前月を下回った一方、市場予想の29.8万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)は上回った(後掲図表2参照)。
失業率は3.7%(前月:3.5%、市場予想:3.5%)と前月からの横這いを見込んだ市場予想に反し、前月から+0.2%ポイント上昇した(後掲図表6参照)。労働参加率(*2)は62.4%(前月:62.1%、市場予想:62.2%)と前月から+0.3%ポイント上昇し、市場予想を上回った(後掲図表5参照)。
*1:季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
*2:労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。
結果の評価:雇用者数の堅調な増加に加え、労働供給の回復を確認
8月の非農業部門雇用者数(前月比)は前月から伸びが鈍化したものの、過去3ヵ月の月間平均増加ペースは37.8万人増、年初からの平均が43.8万人増と、新型コロナ流行前(19年3月~20年2月)の年間平均ペースである19.8万人増を大幅に上回っており、堅調な雇用増加基調の持続を確認した。
また、労働参加率が20年3月(62.7%)以来の水準に上昇しており、8月はこれまで回復がもたついていた労働供給にも回復の兆しがみられる結果となった。
一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.3%(前月:+0.5%、市場予想:+0.4%)と前月、市場予想を下回った。また、前年同月比は+5.2%(前月:+5.2%、市場予想:+5.3%)と、こちらは前月に一致した一方、市場予想を下回った(図表1)。この結果、前月比で伸びが鈍化していることを確認したほか、前年同月比も22年3月の+5.6%をピークに低下基調が持続していることを確認した。
このようにみると、8月はFRBの大幅な利上げが行われている中でも堅調な雇用増加が続いている一方、労働供給の回復や賃金上昇の伸び鈍化など、労働市場が望ましい形で回復していることを確認する結果と言えよう。足元の労働市場は米国経済がソフトランディングする可能性が依然として残っていることを示唆している。
事業所調査の詳細:広範な業種で雇用が堅調に増加
事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+26.3万人(前月:+41.1万人)と前月から雇用の伸びが鈍化した(図表2)。
民間サービス部門の中では、専門・ビジネスサービスが前月比+6.8万人(前月:+8.4万人)、医療・社会扶助サービスが+6.2万人(前月:+9.4万人)、娯楽・宿泊業が+3.1万人(前月:+9.5万人)と前月から鈍化も堅調な伸びを維持した。また、卸売業が+1.5万人(前月:+1.5万人)と前月並みの伸びを維持したほか、金融サービスが+1.7万人(前月:+1.3万人)、小売業が+4.4万人(前月:+2.9万人)と前月から雇用の伸びが加速した。
財生産部門は前月比+4.5万人(前月:+6.6万人)と前月からは伸びが鈍化したものの、堅調な伸びを維持した。製造業が+2.2万人(前月:+3.6万人)、建設業が+1.6万人(前月:+2.4万人)と前月から小幅に伸びが鈍化した。
政府部門は前月比+0.7万人(前月:+4.9万人)と前月から伸びが鈍化した。内訳をみると、連邦政府が▲0.2万人(前月:+0.9万人)と前月から減少に転じたほか、州・地方政府が+0.9万人(前月:+4.0万人)と伸びが鈍化した。
前月(7月)と前々月(6月)の雇用増加数(改定値)は前月が+52.6万人(改定前:+52.8万人)と▲0.2万人下方修正されたほか、前々月が+29.3万人(改定前:+39.8万人)と▲10.5万人下方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲10.7万人の大幅な下方修正となった(図表3)。
BLSの公表に先立ち、推計が見直されて3ヵ月ぶりに発表されたADP社の統計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+13.2万人(前月:+26.8万人、市場予想:30.0万人)と前月、市場予想を大幅に下回った。この結果、雇用統計、ADP統計ともに前月から雇用の伸びが鈍化する傾向は一致したものの、前月からの低下幅はADP統計が雇用統計を大幅に上回った。
8月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が32.36ドル(前月:32.26ドル)となり、前月から+10セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.5時間(前月:34.6時間)とこちらは前月から▲0.1時間減少した。この結果、週当たり賃金は1,116.42ドル(前月:1,116.20ドル)と前月から増加した(図表4)。
家計調査の詳細:労働参加率は3ヵ月ぶりに上昇
家計調査のうち、8月の労働力人口は前月対比で+78.6万人(前月:▲6.3万人)と3ヵ月ぶりに増加に転じた。内訳を見ると、就業者数が+44.2万人(前月:+17.9万人)と前月から伸びが加速したほか、失業者数が+34.4万人(前月:▲24.2万人)と前月から大幅な増加に転じて労働力人口全体を押し上げた。非労働力人口▲61.3万人(前月:+23.9万人)と3ヵ月ぶりに減少に転じた。これらの結果、労働参加率は62.4%と3ヵ月ぶりに上昇に転じたほか、20年3月(62.7%)以来の水準となるなど、労働供給の回復を示した(図表5)。
一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は8月が82.8%(前月:82.4%)とこちらは2ヵ月連続で上昇した。男女の内訳は、男性が88.6%(前月:88.4%)と前月から+0.2%ポイント上昇したほか、女性が77.2%(前月:76.4%)と+0.8%ポイントの大幅な上昇となった。来月以降も上昇基調が持続するか注目される。
失業率は7カ月ぶりに上昇したものの、労働力人口の大幅な増加によるものであり、労働市場の悪化を意味しない。
8月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は113.7万人(前月:106.7万人)と前月から+7.0万人の増加となった。一方、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは18.8%(前月:18.9%)と前月から▲0.1%ポイント小幅ながら低下した(図表7)。平均失業期間は22.3週(前月:22.1週)と前月から+0.2週長期化した。
最後に、周辺労働力人口(143.4万人)(*3)や、経済的理由によるパートタイマー(414.9万人)も考慮した広義の失業率(U-6)(*4)は、8月が7.0%(前月:6.7%)と前月から+0.3%ポイント上昇した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.3%ポイント(前月:+3.2%ポイント)と前月から+0.1%ポイント拡大した。
*3:周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
*4:U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
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窪谷 浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員
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