空飛ぶ車の市場予測と価格

空飛ぶ車の研究開発に携わる組織は世界で100以上あり、激しい開発競争が繰り広げられている。矢野経済研究所の調査では、空飛ぶ車の市場規模は、2050年に約180兆円に達するという。同レポートによると2025年前後には、空飛ぶ車の事業が世界的にスタートしていく見込みで2025年の空飛ぶクルマ世界市場規模(メーカー販売金額ベース)は約608億円になると予測している。

2040年時点での最大市場は中国。世界の自動車業界の業界規模は、2020~2021年で57兆22億円だった。

自動車業界と比較してもかなり大きな市場規模になることが予測されている。空飛ぶ車の車体価格は、まだ開発途上という状況もあり高価だ。例えば2021年10月26日、日本のスタートアップ企業「株式会社A.L.I.Technologies」が空飛ぶホバーバイク「XTURISMO」を7,770万円(税込み)で2022年に売り出すと発表した。

XTURISMOは、エンジンと電動モーターの両方を搭載し、1回の充電で航続時間は最大40分だという。一般向けモデルは2025年に発売予定だが手が届く価格となるには、技術向上や量産化による低価格化を待つ必要がある。

空飛ぶ車実用化への課題

空飛ぶ車を実用化するにあたっては、技術的課題や法整備など、解決するべきいくつかの課題も多い。現在多く言及されている空飛ぶ車実用化への5つの課題を解説する。

技術的課題

空飛ぶ車の技術的課題は、安全性とエネルギーの2つだ。空飛ぶ車は、ドローンや自動運転車よりもさらに高い安全性が求められる。電動化が前提となるため、バッテリー切れの場合でも安全に着陸する機能なども必要だ。エネルギー面では、より少ない電力で多く稼働できるようにバッテリーの高容量化・軽量化が求められる。もちろん本体のさらなる軽量化も必要だ。

法整備

2022年現在の法体系で空飛ぶ車は、航空法の管轄となる可能性が高い。航空法では、機体に対し安全性や信頼性を確保するため、耐空証明が求められる。しかし現在の航空法が対象とする航空機やヘリコプターは、非常に高いレベルの安全性の確保が必要だ。そのため空飛ぶ車にも航空機やヘリコプターと同じレベルで耐空証明が求められると空飛ぶ車の研究開発に大きな重しとなりかねない。

例えば安全性を確保しつつ規制を適正レベルに調整するなどの法整備が必要となるだろう。さらに空飛ぶ車は、飛行機よりも低空飛行となるため、地上権の問題が発生するなど現行の航空法ではカバーしきれない問題が出てくる可能性もある。他国の動向を常にウォッチしつつ日本で快適・安全に空飛ぶ車を運用できる法律を整えていくことが必要だ。

インフラ整備

空飛ぶ車には、従来の乗り物と異なるタイプのインフラ整備が必要だ。例えば離発着時に必要となる離発着場やバッテリーを充電するための設備は、最低限整備が求められる。特に充電設備は、1回の飛行ごとに必要となるため、多くの設置が求められる設備だ。現状では、航空機の安全性を確保する航空管制塔が運用されている。

しかし空飛ぶ車は、従来の航空機などに比べて数が多いため、管制塔の運用では間に合わない。そのため空飛ぶ車には、管制塔に代わる自律的な制御による安全性確保のシステムが必要となる。空飛ぶ車用の安全性確保システムとしては、各機体に障害物や地上の情報を送受信するセンサーを搭載し、AIなどを使って自律制御するITシステムなどが考えられる。

研究開発支援

新しい技術の集合体となる空飛ぶ車の開発には、数百億円規模の研究開発費が必要だ。研究開発を支援するためにさまざまな形で資金調達する手段を用意しなければ開発はなかなか進まないだろう。民間での投資・出資だけでなく公的な研究開発支援の制度を整えるなど、よりスピーディな研究開発が進められるよう、国を挙げての支援体制が求められる。

社会的受容性

世間では、従来見られない新しい技術が導入されると反発する人も少なくない。そのため空飛ぶ車に対しても「バッテリーが切れると落下しないのか」「空中で衝突しないのか」といった心配をする人もいるだろう。

こういった不安を解消するためにも実証実験を通じて安全性をどのように高めているかを周知することは大切だ。どういう面でメリットがあるかを丁寧に何度も発信していく必要がある。