本記事は、『相続と遺言のことならこの1冊』(自由国民社)の中から一部を抜粋・編集しています

相続と遺言のことならこの1冊
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指定相続分 遺言により相続分や相続財産が指定されたら

法定相続分と性質は変わらず相続人と同じ権利義務を持つ

■自分の所有する財産を、自分が死んだ後に思いどおりに処分する遺贈(遺言による贈与)の方法として、個別具体的に財産を贈与する方法と相続分を指定する方法とがあります。

当然、法定相続分とは異なる指定がなされるわけですが、特定の相続人の持つ遺留分を侵害したときに、問題となります。

自分の死後に遺産を分ける方法は

わが国の相続制度は、遺言による相続と法定相続による相続との2本立てを取っていることは前述した通りです。そして被相続人の死後に遺言書が発見されれば、法定相続に優先して遺言書に書かれた内容に従って相続が行われます。

遺言によって、財産を相続人あるいは相続人以外の者に与えることを「遺贈」と呼んでいます。そして遺贈を受ける者を「受遺者」と言いますが、遺贈では受遺者の承諾を必要としません。もちろん、受遺者が遺贈を拒否することは自由です。

それに対して、自分の死後に財産を贈与する旨を生前に契約をすることもできます。これを「死因贈与」といい、この場合には受贈者の承諾が必要です。

死因贈与は、自分の死後に財産を贈与する点で遺贈に類似していますので、死因贈与の効力に関しては、遺贈に関する規定(964条以下)が適用されます。

遺贈の場合にも、死因贈与の場合にも、相続人にかかる税金は贈与税ではなく、相続税です。

遺贈の場合には限界がある

遺言によって相続財産を与える方法に、○○株式会社の株券1万株を何某に与えるというように個別的に財産を指定する方法を「特定遺贈」と言い、相続財産の全部または何分の1を誰それに相続させるというように割合を決めて与える方法を「包括遺贈」と言っています。このように、どのような方法でも自分の財産は自由に死後であっても処分できるのが原則ですが、例外もあるのです。

たとえば、遺産全部を○○養老院に遺贈してしまったら、残された妻子の生活はどうなるでしょうか。また、3人いる相続人のうちの1人に全財産を遺贈したら、後の2人は1円ももらえず不公平になります。

そこで、相続人の生活保障や共同相続人間の公平な財産相続を図るために、相続財産の一部を相続人に残しておく必要があります。すなわち、私有財産制度に基づく財産の自由処分の原則と相続人の保護という2つの要請の調和を図る必要があります。

これを満たすために設けられた制度が「遺留分」の制度です。

遺留分というのは、一定の相続人に必ず残しておくべき一定の相続財産の割合のことです。

相続人のために残しておくべき遺留分は、以下のとおりです。

(1)相続人が配偶者と子の場合は、被相続人の財産の2分の1

(2)配偶者と父母などの直系尊属の場合は、被相続人の財産の2分の1

(3)父母などの直系尊属のみの場合は、被相続人の財産の3分の1相続人が兄弟姉妹の場合は、遺留分はありません(民法1042条)。

このように法定相続分に優先する遺言ですが、遺留分という大きな壁があるのです。

遺留分を侵害した遺言がされると

遺留分を持つ推定相続人の遺留分を侵害して遺言が行われた場合には、遺留分を侵害された者は、遺留分を侵害する遺贈を受けた者に対して、遺留分侵害額に相当する金銭を払えと請求することができます(遺留分侵害額請求権。民法1046条1項)この規定は令和元年7月1日以降に開始する相続に適用されます(改正前は遺留分減殺請求権と言い、侵害された相続分の返還を請求するものでしたが、法改正で金銭請求となりました。令和元年6月末日までに開始した相続には、この遺留分減殺請求権の規定が適用されます)。

遺留分の基礎となる財産額は、「被相続人が相続開始の時に有した財産の価額に、その贈与した財産の価額を加えた額から、債務の全額を控除して」算定します。この贈与とは「相続開始前1年間になした贈与」のことですが、当事者が遺留分侵害の事実を知って贈与した場合は1年以上前の贈与額も加えることになります(1044条)。この他、特別受益分があれば、これも加えて遺留分額を計算します。

遺留分侵害額請求権の行使は、相手方が応じなければ最終的には訴えを起こすしかありませんが、まずは当事者間の話合いで解決すべきです。ただし、後日請求の証拠が残るよう、通常は、内容証明郵便で「遺留分を侵害しているので、侵害額を支払え」と通知するといいでしょう。

しかし、侵害した者が、話合いや侵害額の支払いにすんなり応じないという場合には、通常の民事訴訟や遺産分割の審判・調停を申し立てることになります(遺留分減殺請求の場合も請求手続きは同じです)。

なお、遺留分侵害額請求は従来の遺留分減殺請求のように権利関係の変動はもたらしませんが、いつまでも請求権行使を認めるのは、やはり適当ではありません。そこで、遺留分侵害額の請求権についても、減殺請求権同様、「遺留分権利者が、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは時効によって消滅する。相続開始から10年を経過したときも、同様とする」と定めています(1048条)。

ここでいう「知った時」とは、単に贈与または遺贈があったことを知っただけでなく、侵害額の請求ができることを知った時と考えればいいでしょう。

なお、遺留分の侵害者に、贈与を受けた者と遺贈を受けた者とがいる場には、民法ではまず遺贈を受けた者が侵害額の支払いを負担することになっていますが(1047条1項1号)、法改正前の減殺請求では、「贈与は、遺贈を減殺した後でなければ減殺できない」とされていました。

相続と遺言のことならこの1冊
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相続と遺言のことならこの1冊
●監修・執筆代表者紹介
石原 豊昭(いしはら・とよあき)
昭和3年、山口県に生まれる。中央大学卒業。元弁護士(東京弁護士会所属)。相続問題に造詣が深く、多くの難事件も処理している。日本および世界の相続制度は研究テーマの一つ。著書に『財産相続トラブル解決なんでも事典』「みんなが安心遺書の正しい書き方・活かし方」『遺産分割と紛争解決法』『訴訟は本人で出来る(共著)』(以上、自由国民社)など多数。平成27年逝去。

▷第8版から監修
國部 徹(くにべ・とおる)
昭和35年生。東京大学法学部卒業。平成4年弁護士登録、平成10 年國部法律事務所開設。
一般民事・家事事件をはじめ、労働事件や倒産事件、刑事事件など日常の出来事全般、また主に中小企業向けの法務を扱う。著書に『労働法のしくみ』『労働審判・示談・あっせん・調停・訴訟の手続きがわかる』(共著)「戸籍のことならこの1冊』(共著)<いずれも自由国民社>などがある。
●執筆者紹介
飯野 たから(いいの・たから)
昭和27年、山梨県生まれ。慶応義塾大学法学部卒業。フリーライター。著書に『男の離婚読本(共著)』『戸籍のことならこの1冊(共著)』 『非正規六法』(以上、自由国民社)などがある。
内海 徹(うつみ・とおる)
昭和16年、宮崎県生まれ。早稲田大学法学部卒業。法律ジャーナリスト。著書に『債権回収のことならこの1冊(共著)』『「遺言」の書き方と文例集(共著)』『(以上、自由国民社)等がある。
真田 親義(さなだ・ちかよし)
昭和24年、熊本県生まれ。熊本大学法学部卒業。 (有)生活と法律研究所所長。著書に『自己破産借金完全整理なんでも事典(共著)』『交 通事故の示談交渉手続マニュアル』『示談・調停・和解による解決事典(共著)』など がある。
矢島 和義(やじま・かずよし)
昭和26年生まれ。鹿児島県出身。税理士(東京税理士会所属)。著書に『有限会社経理事務』(西東社)などがある。
和田 恵千子(わだ・えつこ)
島根県出身。税理士( 東京税理士会所属)。

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