本記事は、犬塚壮志氏の著書『頭のいい人の対人関係 誰とでも対等な関係を築く交渉術』(サンクチュアリ・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています。

コミュニケーション
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頭のいい交渉は 相手に似せて距離を縮める

─類似性の法則で親近感を持ってもらう─

【こんなときに】相手に警戒心を抱かせたくないとき
  • 商談の前後の雑談で
    →「まさか、○○さんと私の□□が同じだとは!」
  • ビジネス系の集まりで
    →「○○さんの□□、私もすごく似たものを持っているんですよ」
  • 婚活パーティや合コンで
    →「○○さんとボク、出身地が一緒だ! 高校は?
頭のいい人の対人関係
頭のいい人の対人関係
(画像=頭のいい人の対人関係)

概要

初対面の人、あまり馴染みがない人と話したときに、自分と共通項が多かったり、自分と似ている部分を見つけたりすると、なんだか親近感を持ってしまうことはありませんか?

私たちは自分と似ているところがあると知ることで、他者に対する警戒心が弱まり、安心感を得ます。親密度も高まっていきます。

これを利用して、交渉相手に自分との共通項や類似性を認識してもらうと親近感が増し、交渉をスムーズに進めることができます。これは仕事でもプライベートでも役立つ方法で、特に初対面の人に対して有効です。

相手との共通点や類似性の項目には、服装や髪型などの外見、性格、態度や言動、思想や哲学、声色や話すリズム、経歴や背景(バックグラウンド)、現在の職業、価値観や道徳、動機や願望、趣味・嗜好、ライフスタイル、出身地や居住地、宗教、人種などさまざまなものがあります。

これらの中でも特に類似性をアピールするうえで、とてつもない威力を発揮するものが4つあるといわれています(McCroskey,1975)。

  • 外見:相手の見た目は自分と同じか
  • 態度:相手は自分と同じ考えか
  • 背景:相手の社会階層は自分と同じか
  • 道徳:相手の道徳心は自分と同じか

親近感を持ってもらいたい人と会った際、この4項目を中心に、相手との類似性をアピールしていきます。見た目ではわかりにくい「背景」や「道徳」などの情報は、「自己開示することで相手に認識してもらうようにしましょう。

なお、相手との共通点や類似性をなかなか見出せない場合は、目の前にいる相手の真似をしてみてください。相手の動作や仕草などを自分もやってみるのです。

これは「ミラーリング」と呼ばれるテクニック(Meltzoff, 2005)で、相手が笑ったら自分も笑う、相手が飲み物を飲んだら自分も飲み物を飲むなどです。すると、相手は無意識のうちに「この人も同じところでおもしろいと思ってくれる人なんだな」と類似性を感じてくれます。

用いている理論・原理 類似性の法則

人は自分と類似している人を好むだけでなく、説得にも応じやすくなることがわかっています(Wetzel & Insko,1982)。これを「類似性の法則」といいます。

相手に自分が異質の存在であると知覚されるよりも、自分と同質であると知覚されたほうが相手の警戒心を解きやすくなります。結果的に、相手に「この人、私と似ている」と思ってもらえたほうが、相手を説得しやすくなるのです。

習得のコツ

類似性の法則を利用するためには、相手に対する事前のリサーチが重要になってきます。リサーチによって相手の情報が得られた場合、類似性をアピールしやすい4項目「外見」「態度」「背景」「道徳」を中心に真似をしていきましょう。

特に「外見」は真似ることが簡単です。相手が持っているアイテムで、真似しやすいものを似せるようにしましょう。

たとえば、相手が常に持っているスマホケース、万年筆、特定のブランドの小物など、まったく同じものでなくても構わないので準備し、持参します。

もちろん、事前に準備できないものもあるため、その場での会話を通して相手から共通項が見つかるような情報をできるだけ引き出したり、観察することで相手の動作を真似たりすることも大切です。

ちなみに、私は相手を観察しながら相手の真似をするというのがかなり苦手でした。生徒の前で講義をすることには慣れていたのですが、1対1での交渉や会議での議論だと、自分が何を話すか、どう説明するかでいっぱいいっぱいになってしまうことが多く、リアルタイムでの相手の情報収集がおざなりになりがちでした。

そのため、私が最初にやったことは、リアルタイムでの即興性や臨機応変さが求められないメールやチャットの文面で相手の真似をすること。具体的には、相手の使っている言葉遣いはもちろんのこと、句読点の使い方や改行のタイミング、「!」マークや「☆」マークなどの記号の使用の有無、「笑」「w」の選択、メールの文章の長さや返信スピードやタイミング(時間帯)などを真似しました。

チャットなどで相手がコメントに「いいねマーク」や「ハートマーク」をつけてリアクションする場合であれば私もそうしますし、相手がスタンプを使ってきたらスタンプを押して返します。

そうすることで、即興性や臨機応変さが乏しかった私でも、文面上でのコミュニケーションのトーンだけは相手に似せることができました。

「それはやりすぎでは……?」と思う方もいるかもしれませんが、もし本気で親近感を持ってもらいたい人や口説きたい人と出会ったのであれば、その人だけに対してはやってみる価値があります。

用いる際の注意事項

類似性の法則を使う際、以下の2つの注意点があります。


注意点(1) 似せすぎる
注意点(2) 欠点が似て見える

注意点(1)について、あまりにも相手に似せすぎると、相手に気づかれてしまう可能性が出てきます。

「この人、自分の真似をしようとしてるんじゃ……?」
「この人、無理やり自分に合わせているんじゃないかな?」

相手にそう感じさせてしまうと、逆に警戒心を強めてしまう可能性があります。つまり、「類似性の法則」を使うときの注意事項は、やりすぎないことです。

相手のファッションを丸ごと真似したり、すべての動作をミラーリングしようとしたり、イエスマンのようにすべての話に賛同したり……。似せすぎることで相手の中に「同族嫌悪」というものが生まれる可能性があります。同族嫌悪とは、自分と似た特性・特徴を持つ人や自分と似たような人に嫌悪感を持つことです。

注意点(2)です。相手との共通項や類似性をアピールする際、あなた自身の欠点や嫌いな点が相手と似てしまっていたら注意が必要です。

相手からすると、自分の見たくない部分をあなたの中に見るわけなので、疎まれる可能性が出てきてしまいます。

これは、自分が普段隠している弱い部分や闇の部分に気づきたくないという本能が働いてしまうから。誰しも自分のダークサイドは直視したくないもの。相手と欠点が似てしまっている場合には、「類似性の法則」は注意しながら使うようにしましょう。

なお、いろいろな人の真似をすること自体、あなた自身も心身ともに疲れてしまう可能性もあります。相手をあまりにも模倣しすぎるとあなた自身のアイデンティティもダメージを負うかもしれません。そのため、この類似性の法則は、心から親近感を持ってもらいたい人や口説きたい人に対してピンポイントで使うようにしましょう。

身を守るために

交渉においては、相手を信用することはとても大事なことです。ただその一方で、特にビジネスシーンにおいては警戒心を解かないようにすることも重要です。

相手が自分と似ていると思っても、あるいは、相手が「私も〇〇さんと同じなんですよ」と話してきたとしても、交渉内容や条件、合意に至るプロセスとは切り離して考えるよう心がけましょう。

似ていることを理由に警戒心を解いて、交渉の手を緩めることのないよう、合意する最後の最後まで気を抜かない姿勢が大切です。

まとめ

  • 人は自分と類似している人を好むだけでなく、説得にも応じやすくなる(類似性の法則)
  • 類似性を感じる項目は多いが、なかでも「外見」「態度」「背景」「道徳」の効果が非常に強い
頭のいい人の対人関係
犬塚壮志
教育コンテンツ・プロデューサー/株式会社士教育代表取締役
福岡県久留米市生まれ。元駿台予備学校化学科講師。東京大学大学院学際情報学府博士前期課程修了(学際情報学修士)。
大学在学中から受験指導に従事。業界最難関といわれている駿台予備学校の採用試験に当時最年少の25才で合格。年間1,500時間以上の講義を行う中で、難易度の高い内容を理解・納得させるだけでなく、やる気の出ない生徒らを言葉だけで勉強にのめり込ませる話し方のスキルに磨きをかける。受講アンケートでは満足度1位を獲得し、季節講習会の化学受講者数は予備校業界で日本一となる(映像講義除く)。
「教える仕事をしている人がもっと活躍できるビジネスを創る!」を理念に掲げ、2017年に駿台予備学校を退職。しかし独立後は、安く買い叩かれることは日常茶飯事で、謝礼金の未払いや不当な契約解除、金融商品詐欺などを経験する。貯金もすべて尽き、華やかなカリスマ予備校講師時代から一転、仕事だけでなく、お金や人間関係に悩む日々を送るようになる。ストレスで体重は10kg以上増加し健康を害すまでに。妻の献身的な支えもあり、「このままではいけない…!」と一念発起。わずか4ヵ月間の独学で東京大学に入学し、アカデミックな視点からコミュニケーション力を高める決意をする。
認知科学や心理学などを専門に学びながら、交渉学で世界最高権威であるハーバード大学のロースクールで実際に行っている交渉学のプログラムを受講・修了(最高評価を取得)。すべての対人関係を自力でコントロールできるコミュニケーション術を身につけ、それまで抱えていた悩みを一掃する。これまで閲読した交渉をはじめとするコミュニケーションや認知科学、心理学に関する文献は1,000本超。
現在は、講座開発コンサルティング・教材作成サポート・講師養成・営業代行をワンオペで請け負う(株)士教育を拡大中。企業向け研修講師としての登壇実績も豊富で、交渉スキルを含む「説明力」をテーマにした研修プログラムは、大企業から中小企業まで登壇オファーが殺到。受講アンケートにおいては、「満足度」・「活用期待度」はいずれも95%超。
その傍ら、企業と協同した教育事業の新規立ち上げプロジェクト3件の中心メンバーとしても活躍。「人生の悩みは対人関係から生まれ、それらはすべて交渉力で解決できる」が信条。
主な著書に、累計5万部越えのベストセラーとなった『頭のいい説明は型で決まる』、発売1ヵ月で1.5万部を突破した『感動する説明「すぐできる」型』(共にPHP研究所)、電子書籍を含め4.6万部を突破した『説明組み立て図鑑』(SBクリエイティブ)がある。

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