本記事は、犬塚壮志氏の著書『頭のいい人の対人関係 誰とでも対等な関係を築く交渉術』(サンクチュアリ・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています。

褒める
(画像=Andrey Popov/stock.adobe.com)

頭のいい交渉は 「特別扱い」してほめる

─ホーソン効果で相手の生産性を高める─

【こんなときに】相手のやる気を引き出したいとき
  • 部下や後輩に仕事を任せたいとき
    →「この案件は、キミにしか任せられないと思ってるんだ」
  • やる気を失っている部下をマネジメントするとき
    →「キミはチームに欠かせない存在だから、いつも期待しているよ」
  • プライベートなことを相談したいとき
    →「こんなこと〇〇さんにしか話せないんです」
頭のいい人の対人関係
頭のいい人の対人関係
(画像=頭のいい人の対人関係)

概要

人は「特別扱い」に感情を揺さぶられる生き物です。自分が特別扱いをされるとうれしいし、自分でない他の誰かが特別扱いされているところを見ると、「いいなぁ」「ずるい」「うらやましい」「なんであの人だけ……」といった感情が湧いてきます。場合によっては、怒りの感情が湧くこともあるかもしれません。

このような「特別扱い」をうまく利用して相手を動かしやすくすることができます。

「この案件は、あなただからこそお願いしたいものなんです!」
「このプロジェクトのリーダーを任せられるのは、キミしかいないと思っている」

こう伝えることで、いちいち細かく指示出しをしなくても相手が自ら動いてくれたり、相手が率先して請け負ったりしてくれるようになります。自分でやったほうが早いと思うような仕事でも、相手が引き取ってくれたらうれしいですよね。

用いている理論・原理 ホーソン効果

人は一般的に注目されることを好んでおり、特別な扱いをされると、さらに能力を発揮しようとする傾向があることがわかっています。注目(観察)されているという意識が、パフォーマンスや生産性の向上につながることはさまざまな研究から明らかになっているのです。

これを「ホーソン効果」(French, 1953)といいます。

習得のコツ

関係が浅い相手にこそ、率先して特別扱いをしましょう。なぜなら、なじみの薄い人からの賞賛や評価は、身近な人や親しい人からの賞賛よりも強く感じられるためです。これを「アロンソンの不貞の法則」といいます。

特別扱いは相手との関係性が薄ければ薄いほどより効果的なのです。

用いる際の注意事項

最近の若者の中には「人前でほめられたくない」「人のいるところで特別扱いされたくない」というような意識が働く人もいると聞きます。

話題となった『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』という書籍でも、最近の若者は注目されることを嫌がり、大勢の人前でほめられることを拒む傾向にあることが指摘されています。

こういった性格や考え方、価値観もあることを知り、多くの人の前で特別扱いをする前に、相手を見極めましょう。リスクがあると感じたら、特別扱いするのは1対1になったときが無難です。

頭のいい人の対人関係
頭のいい人の対人関係
(画像=頭のいい人の対人関係)

身を守るために

相手が自分のことを特別扱いしてくれたとしても、そのまま鵜呑みにしないこと。なぜなら、他の人にも同じように話している可能性があるからです。特に、相手と1対1のシチュエーションでは相手は自分と同じように他の人にも特別扱いするセリフを使っている可能性があります。

私は学生の頃、クラスメイトの女子の「こんなこと、犬塚君だけにしか相談できないんだよね」というセリフで何度舞い上がってしまったことか。その女子にいわれたことを同じクラスの男友達に自慢げに話したところ、「あっ、それ、オレも同じこといわれたわ」と聞き、大変ショックを受けたのを今でも覚えています。

それ以来、1対1で特別扱いされたときの相手のセリフは、話半分に聞くようにしています。なぜなら、1対1の会話はブラックボックスになりやすく、裏づけをとるのが大変だからです。

本当に自分だけを特別扱いしているのか、その真偽を確かめたいのであれば、「一応、確認なんだけど、その話はボク以外には誰にも話していないことなんだよね?」と念押ししながら、相手のリアクションを見るのも1つの手です。

まとめ

  • 人は特別扱いをされ、注目(観察)されているという意識を持つと、パフォーマンスや生産性が向上する(ホーソン効果)

頭のいい交渉は ほめるときは第三者に言わせる

─ウィンザー効果でほめ言葉の力を最大限に引き出す─

【こんなときに】相手のモチベーションを上げ、指示なしでも動いてもらいたいとき
  • 部下や後輩にやる気を出してもらいたい
    →「○○さんがキミ(部下や後輩)のことを、仕事が丁寧で安心できるとほめてたよ」
  • 商談前など交渉相手に気分よく参加してもらいたいとき
    →「□□さん(取引先の人など)、弊社の××が大絶賛していましたよ」
  • 子どもに自発的に勉強してもらいたい
    →「○○先生が□□(自分の子どもの名前)のことを“勉強を一生懸命がんばる子です”っていってて、すごくうれしかったよ」
頭のいい人の対人関係
頭のいい人の対人関係
(画像=頭のいい人の対人関係)

概要

あなたは目の前にいる相手を素直にほめるのが得意でしょうか?

ほめるという行為は相手の「承認欲求」を満たし、モチベーションを高め、相手を動きやすい状態にすることができます。つまり、素直にほめることで、交渉そのものがスムーズに進みやすくなるのです。

そこで、ほめることが苦手な人にも役立つ2つの伝え方を紹介します。

(1)自分が後輩や部下をほめた言葉を第三者を介して本人たちに伝える

あなた(店長)「Aさん、仕事の覚えがすごく早くて、教えやすいよね。きっと地頭がいいんだろうね。Bさん(第三者)からも、店長がほめていたと伝えておいて」

Bさん「Aさん、飲み込みが早いよね。店長もAさんの仕事の覚えが早くて助かる。地頭がいいんだろうなーっていっていたよ」

Aさん「本当ですか!(うれしい!)」

(2)ある人がほめていたと目の前の相手に伝える

あなた「B先輩が、『Aさんがいると場の雰囲気が明るくなっていいよね。気遣いも細やかだし』って大絶賛だったよ」

Aさん「そんなことないですよ(やったー!)」

いずれの場合も、第三者を介してほめることがポイントです。人を経由してほめられることで、相手はそのほめ言葉を信用しやすくなるのです。

用いている理論・原理 ウィンザー効果

「ウィンザー効果」とは「ある事柄について当事者が自ら発信する情報よりも、他者を介して発信された情報のほうが、信頼性を獲得しやすいとする心理効果」です(『経営心理学用語集』より)。マーケティングの世界では、「口コミ効果」とも呼ばれています。

交渉の場ではこちらと相手との間に必ずなんらかの利害が生じます。そのとき、利害関係のない第三者のほめ言葉が相手に伝わると、交渉に有利に働きます。また、ほめ言葉以外にも、なんらかのエピソードや誰かしらの感情などを伝えることでも、信用度や信憑性は高まります。

習得のコツ

ほめるときのポイントは、できるだけ具体的に伝えることです。ここでは、相手をほめるときに「誰が」「何を」言っていたか、つまり「人」と「内容」にわけて、具体化していくコツをお伝えします。

「人」については、相手がイメージをできるほどの具体性が必要です。


「うちの会社の……誰だったかな? 誰かがキミのことをほめてたよ」
「うちの役員の○○専務がキミのことをほめていたよ」

ほめている人物が、特に相手の尊敬する人物や好意を寄せている人物であればより効果があります。また、ほめていた人のことを相手が知らない場合、ほめていた人の役職や肩書き、実績などの専門性(秀でた能力)を伝えましょう。その専門性が交渉相手にかかわるものであればベストです。

ほめる内容についてはその人の能力や出した結果よりも、その結果に至るプロセスや能力を身につけた過程をほめたほうが効果的なことが多くの研究でわかっています(Mullerら, 1998 & Nourollahら, 2021)。


「賞を受賞したの、本当にすごいね!」
「○○賞を受賞するために毎日6時間のトレーニングを2年間続けたの、本当にすごいね!」

用いる際の注意事項

ほめる際に注意したいのは、やりすぎないことです。内容を多少盛って伝えるのはいいのですが、捏造ねつぞうはしないようにしましょう。

たとえば、「AさんがB(交渉相手)さんのことを好きだといっていましたよ」とAさんのほめ言葉を伝えたとします。もしこれが事実無根だった場合、BさんはAさんの気持ちをそのように受け取ってしまい、そのあとなんらかのトラブルが起こらないという保証はありません。

また、相手をほめるシチュエーションですが、多くの人の前でほめると喜ぶ人がいる一方、最近では、みんなの前でほめないでほしいという若者も増えているようです。そのため、ほめるシチュエーションは相手の人間性も考慮に入れましょう。

一度、他の人もいる場所で軽くほめてみて、相手が戸惑う表情や迷惑そうな雰囲気を出すようなら、次回以降は1対1のシチュエーションを選ぶことをおすすめします。

身を守るために

ウィンザー効果は強力ゆえ、相手が使ってきた場合は要注意です。

本来、交渉内容とほめられている内容は無関係です。ほめられたことによる感情の高揚で、ついつい相手の提示する条件を飲んでしまわないよう、交渉内容とほめてもらった内容は切り離して考えましょう。

まとめ

  • 第三者を経由したほめ言葉は信用されやすい(ウィンザー効果)
  • 結果よりもプロセスをほめることで、より効果的に相手のパフォーマンスは上がる
頭のいい人の対人関係
犬塚壮志
教育コンテンツ・プロデューサー/株式会社士教育代表取締役
福岡県久留米市生まれ。元駿台予備学校化学科講師。東京大学大学院学際情報学府博士前期課程修了(学際情報学修士)。
大学在学中から受験指導に従事。業界最難関といわれている駿台予備学校の採用試験に当時最年少の25才で合格。年間1,500時間以上の講義を行う中で、難易度の高い内容を理解・納得させるだけでなく、やる気の出ない生徒らを言葉だけで勉強にのめり込ませる話し方のスキルに磨きをかける。受講アンケートでは満足度1位を獲得し、季節講習会の化学受講者数は予備校業界で日本一となる(映像講義除く)。
「教える仕事をしている人がもっと活躍できるビジネスを創る!」を理念に掲げ、2017年に駿台予備学校を退職。しかし独立後は、安く買い叩かれることは日常茶飯事で、謝礼金の未払いや不当な契約解除、金融商品詐欺などを経験する。貯金もすべて尽き、華やかなカリスマ予備校講師時代から一転、仕事だけでなく、お金や人間関係に悩む日々を送るようになる。ストレスで体重は10kg以上増加し健康を害すまでに。妻の献身的な支えもあり、「このままではいけない…!」と一念発起。わずか4ヵ月間の独学で東京大学に入学し、アカデミックな視点からコミュニケーション力を高める決意をする。
認知科学や心理学などを専門に学びながら、交渉学で世界最高権威であるハーバード大学のロースクールで実際に行っている交渉学のプログラムを受講・修了(最高評価を取得)。すべての対人関係を自力でコントロールできるコミュニケーション術を身につけ、それまで抱えていた悩みを一掃する。これまで閲読した交渉をはじめとするコミュニケーションや認知科学、心理学に関する文献は1,000本超。
現在は、講座開発コンサルティング・教材作成サポート・講師養成・営業代行をワンオペで請け負う(株)士教育を拡大中。企業向け研修講師としての登壇実績も豊富で、交渉スキルを含む「説明力」をテーマにした研修プログラムは、大企業から中小企業まで登壇オファーが殺到。受講アンケートにおいては、「満足度」・「活用期待度」はいずれも95%超。
その傍ら、企業と協同した教育事業の新規立ち上げプロジェクト3件の中心メンバーとしても活躍。「人生の悩みは対人関係から生まれ、それらはすべて交渉力で解決できる」が信条。
主な著書に、累計5万部越えのベストセラーとなった『頭のいい説明は型で決まる』、発売1ヵ月で1.5万部を突破した『感動する説明「すぐできる」型』(共にPHP研究所)、電子書籍を含め4.6万部を突破した『説明組み立て図鑑』(SBクリエイティブ)がある。

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