ブランディングとプロモーションの力

以前、盛岡で毎秋開催される「北のクラフト市」に足を運んだことがある。盛岡城公園のあちこちにテントが立ち並び、竹細工・ガラス細工・レザークラフト・染物などの手作り品が所狭しと並べられ、ものすごい人出だった。

ここで木製のコーヒーカップを売るとしよう。山から木を切り出して一生懸命作ったコーヒーカップです、と言うだけでは商品の価値がよくわからないし、それなら全国どこにでもありますよ、という話になってしまうかもしれない。

かわりに「世界遺産に登録されている白神山地は、本来ならば手をつけてはいけない特別な場所。その白神山地から出た間伐材で作られたコーヒーカップだから、世界中どこを探してもここにしかありません」と説明したらどうだろうか。それならば今ここでしか手に入らないことが買い手に伝わり、購入に至るケースが増えるかもしれない。

また、2022年に石川県漁協がブランド化した最高級の寒ぶり「煌(きらめき)」も好例だ。天然の寒ぶりの中でも胴回りや重量など極めて厳しい条件をクリアしたものだけを「煌」という名で販売しているのだが、基準が高くてあまり捕れないそうだ。だからこそ、煌の認定が取れれば価格が数十万円〜数百万円にまで跳ね上がる(ちなみに、第一号は1尾400万円であった)。

煌ブランドの立ち上げには、最新技術が使われたわけでもないし、大量に資金が投入されたわけでもない。地域の関係者が努力を重ねてアイディアを出し合い、ルール作りをして、地元漁業の「良さ」を具現化したまでだ。ブランド化することで石川県の漁業に活気をもたらしている。

このようなブランディングとプロモーションが不足している企業は本当にもったいない。企業価値の明確化は、まず企業オーナーが自社の持つ技術や強みを深掘りしていき、「良さ」の再認識につなげていくことから始まる。

その「良さ」を具体化し、表現していく作業は、必ずしも企業オーナーでなくとも社員や地域コーディネーター、銀行員、投資家など周囲で事業の成功を導いてくれる支援者に相談すれば、多角的な観点から「良さ」の言語化を探ることが可能になる。また、若手の起業家に相談してみるのも手だ。

起業思考を持つ若手が新事業を生む

実際に、起業思考を持っている若手を既存の中小企業に紹介し、中小企業のリソースを使いながら新規事業を立ち上げてもらう「VENTURE FOR JAPAN」という取り組みがある。

どの地域にも起業したい、あるいは働いて地元に貢献したいと思っている若者はいるはずだ。その際、自分ひとりでやり遂げるモチベーションや自信が備わっていない場合は、まずは地域の企業に入社し、その企業が持っているリソースを駆使しながら新しい事業を立ち上げていくという道があってもいいと思う。また、ビジネスチャンスを広げていくために、地方企業にもこのような取り組みが必要なのではないかと思う。

このような双方のニーズに対応しているのが、東日本大震災で津波による壊滅的な被害を受けた宮城県女川町で復興事業を行なってきた「VENTURE FOR JAPAN」だ。復興事業のためにインターンとして受け入れた首都圏の大学生が、女川町近辺で捕れたフカヒレを台湾や香港に輸出することを思い立ち、もともと海外に売り込めたらと考えていた地元の水産加工業者とタッグを組んだ。学生たちがパッケージを考え、販路を開拓した結果、年商何千万円にもなる事業の新たな柱を立ち上げるに至った。

起業したいけどできない──。こんなモヤモヤを抱えたまま就職を考えていたところに、女川町の水産加工業者と繋がった。その会社には工場があったし、地域の協力者にも恵まれていた。その両者がうまく組み合わさってこそ、新しいビジネスが立ち上がった。

女川町の事例はVENTURE FOR JAPANがうまくコーディネートした結果ではあるが、同じことは日本各地の地域で起こりうるだろう。決して簡単ではないが、うまくいけばいろいろな地域で起業家の夢が叶うと同時に会社としても新事業の柱が立ち、将来に希望が持てるようになる。