2024年から始まる新NISAでは、年間360万円の非課税投資枠が設けられる予定です。現行制度より投資枠が拡大されますが、最大限に活用する場合はどのような点に注意すればよいのでしょうか。

新NISAの投資枠360万円の内訳

新NISAで年間360万円投資する場合の注意点4選
(画像=78art/stock.adobe.com)

新NISAには、積立投資を対象にした「つみたて投資枠」と、一括購入もできる「成長投資枠」があります。これらの投資枠は併用できますが、以下のように年間投資枠や保有限度額の制限が異なります。

 つみたて投資枠成長投資枠
非課税投資枠年間120万円年間240万円
非課税保有限度額2つの投資枠で1,800万円まで
(※成長投資枠は1,200万円まで)
(※成長投資枠は1,200万円まで)

合計では年間360万円の枠を使えますが、一方の投資枠だけで使い切ることはできません。2つの投資枠を合わせて1,800万円が保有限度額となるため、毎年360万円ずつ投資をすると5年間(1,800万円÷360万円)で保有上限に達します。

なお、新NISAの投資枠を活用して保有している金融商品を売却すると、その分の投資枠を再利用できます。

ボーナス払いを使うと年間約360万円まで一括投資できる

特定月の積立金額を増やせる「ボーナス払い」を利用すると、つみたて投資枠でも一括投資に近い手法を実践できます。たとえば、毎月1万円を積みたてている人が年末にボーナス払いを利用する場合は、非課税投資枠を超えない109万円分(120万円-11万円)までの金融商品を12月分として購入できます。

以下では毎月の積立金額を100円として、1年間に一括投資できる金額を計算してみます。

<新NISAで一括投資できる金額の計算>
年間の非課税投資枠-(毎月の積立金額×11ヵ月分)=つみたて投資枠の一括投資額
120万円-(100円×11ヵ月分)=119万8,900円

成長投資枠の一括投資額+つみたて投資枠の一括投資額=新NISAで一括投資できる上限額
240万円+119万8,900円=359万8.900円

なお、ボーナス払いの仕組みは金融機関によって異なるため、NISA口座を開設する前に情報収集をしておきましょう。

新NISAで年間約360万円を一括投資する効果

少額の積立投資に比べると、一括投資は相場が上昇基調のときにリターンを増やせる可能性があります。

わかりやすい例として、1口1万円で購入したファンドが1ヵ月で1万2,000円まで値上がりするケースを考えます。毎月1万円の積立投資では1口しか購入できないため、値上がり後に売却しても2,000円のリターンしか受けとれません。

一方で、成長投資枠の限度額まで一括投資をすると、売却したときに48万円(240口×2,000円)のリターンが生じます。つまり、金融商品の値上がりを前提にした場合は、投資金額を増やすほど大きなリターンを期待できます。

ただし、実際の相場は下落することもあるため、常に一括投資が優れているわけではありません。金融商品が大きく下落すると、短期間で多くの資金を失ってしまう可能性もあります。

年間360万円を一括投資する場合の注意点5選

新NISAで年間360万円を投資する場合は、どのような点に注意すればよいでしょうか。

注意点1.生活に支障がでない範囲で投資する

投資は損失がでることもあるので、生活に支障がでない範囲の金額(余剰資金)だけを使う必要があります。

具体的な余剰資金の金額が分からない場合は、あらかじめ計算しておきましょう。余剰資金は、現在の資産から「当面の生活費」「万が一に備えるためのお金」を差し引いたものなので、以下の式で大まかな金額を計算できます。

<余剰資金の計算方法>
「現在の資産額」-「当面の生活費(※)」-「万が一に備えるお金」=余剰資金
(※)家族の人数や年齢などによって、必要な生活費は変動する。

余剰資金の範囲内に収めておけば、仮にほとんどの資金を失っても日常生活への影響を抑えられます。

注意点2.リターンを追い求めすぎない

新NISAでは全ての運用益が非課税(所得税や住民税)になるので、大きなリターンを期待する人もいるでしょう。しかし、一般的な金融商品ではリターンとリスクが比例するため、期待するリターンが大きいほど下落時の損失幅も拡大します。

たとえば、1年間で期待するリターンが数%の場合と、数十%の場合とでは、リスクの大きさが異なります。無理に資産を増やそうとすると、短期間で大きな損失がでることもあるので、リターンを追い求めすぎないように注意しましょう。

注意点3.積立投資に比べて損失のリスクが膨らみやすい

毎月一定額を購入する積立投資に比べると、一括投資は損失のリスクが膨らみやすい傾向にあります。

たとえば、購入金額と購入頻度を一定に保つ積立投資では、金融商品の価格が下がったときに多くの数量を購入し、価格が上がったときには少ない数量を購入します。結果として平均購入単価が平準化されるため、相場状況によっては損失のリスクを抑えやすくなります。

一方で、一括投資では購入時の価格が固定されます。もし相場が高いときに購入すると、下落によって大きな損失を抱えるかもしれません。

注意点4.投資資金全額の一括投資は避ける

投資資金の全額を一括投資すると、下落時の損失幅が大きくなるだけではなく、非課税投資枠の大部分を消費してしまう可能性があります。もし非課税投資枠を使い切ると、資金に余裕があっても翌年まではNISA口座からの購入ができません。

下落時のリスクを下げるには、ご自身が許容できる損失幅に抑えたり、非課税投資枠に余裕を持たせたりすることが重要です。相場状況によっては資産の大半を失うこともあるので、購入のタイミングを分散させることも考えましょう。

注意点5.ポートフォリオが特定の資産に偏らない

ポートフォリオとは、投資商品の組み合わせのことです。投資先をひとつの資産に絞ると、その資産が下落したときに大きな損失となるため、ポートフォリオが偏るほど投資のリスクは高まります。

そもそも、新NISAではどのような金融商品を取引できるのか、各投資枠の対象商品を見てみましょう。

<つみたて投資枠の対象商品>
・投資信託
・ETF(上場投資信託)

<成長投資枠の対象商品>
・上場株式
・投資信託
・ETF

上記は、いずれも2023年4月時点での対象商品です。制度の見直しによって、対象商品が変更となる可能性もあります。

たとえば、成長投資枠で米国株式のみを保有し、つみたて投資枠でも米国株式で構成される銘柄を選ぶと、米国市場の影響を大きく受けることになります。リスクを分散させたい場合は、以下のように投資する資産や地域、業界などを分けるといった分散投資を検討してみましょう。

<リスクを抑える分散投資の例>
・国内株式や米国株式、新興国株式など、複数の地域の株式に投資する
・株式や債券など、様々な種類の資産に投資する
・製造業や飲食業、IT業のように、投資する業界を分散させる

このほかにもリスクを分散させるための投資先の組み合わせ方はあるので、ご自身の状況や投資の目的に適したポートフォリオを考えてみるといいかもしれません。

新NISAで約360万円を一括投資・積立投資した場合のシミュレーション

新NISAで約360万円を一括投資すると、積立投資とはどれくらいの差が生じるでしょうか。ここからは以下の条件で、一括投資と積立投資の資産額をシミュレーションしました。積立投資との違いを分かりやすくするために、一括投資の購入金額についても360万円に設定しています。

<シミュレーションの前提条件>
一括投資の方法:360万円分の金融商品を一括で購入(追加での購入はなし)
積立投資の方法:1年間のみ、毎月30万円分(年間360万円)の金融商品を購入
銘柄数:1本
利回り:2.33%(※)
(※)プライム市場における2024年8月末時点での単純平均利回り。

なお、積立投資の資産額は計算が複雑になるため、金融庁が公開するシミュレーターを用いてシミュレーションを行います。

参考:金融庁「つみたてシミュレーター

年間360万円を一括投資した場合

年間360万円を一括投資すると、2.33%の利回りでは以下のように資産額が変動します。

運用年数資産額
1年376万9,714円
5年413万3,523円
10年463万8,048円
15年520万4,153円
20年583万9,356円
25年655万2,090円
30年735万1,817円
(※上記の資産額は、手数料や税金を含めない金額。小数点以下は切り捨て。)

利回りが変動しないケースを想定すると、30年後の資産額は735万1,817円になりました。

年間360万円を積立投資した場合

次に、毎月30万円ずつを積立投資した場合のシミュレーション結果をご紹介します。

運用年数資産額
1年364万円
5年399万1,290円
10年447万8,454円
15年502万5,080円
20年563万8,426円
25年632万6,635円
30年709万8,844円
(※上記の資産額は、手数料や税金を含めない金額。小数点以下は切り捨て。)

一括投資と比べると、1年目の資産額は12万円ほど少なくなっています。2年目以降の増加幅(資産額に対して2.33%)は同じですが、30年後には約25万円の差が生じる結果になりました。

今回は1年間のみの購入を想定しましたが、新NISAの非課税投資枠を毎年使い切る場合は、資産額の差はさらに広がることになります。ただし、実際の利回りは運用中に変動するため、上記のシミュレーション結果はあくまで参考程度に留めてください。

新NISAを最大限に活用しよう

新NISAには年間360万円、総額で1,800万円までの非課税投資枠があります。この範囲内であれば、運用益が全て非課税になるため、投資家なら活用しないともったいない制度といえます。無理な投資はしないように心がけ、着実な資産形成ができるように新NISAを活用していきましょう。

※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、投資を推奨するものではありません。

※本記事は、2024年9月12日現在のものです。今後制度が変更になる場合もあります。

(提供:Wealth Road