本記事は、難波猛氏の著書『ネガティブフィードバック 「言いにくいこと」を相手にきちんと伝える技術』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。

フィードバック
(画像=Jérôme Rommé / stock.adobe.com)

ネガティブフィードバックは貴重なギフト

上司から部下へのネガティブフィードバックということで、フィードバックを「する側」である上司からの視点で解説してきました。ここで、フィードバックを「受ける側」である部下の視点についても話しておきましょう。

フィードバックは「伝える」「聴く」「対話する」という双方向のコミュニケーションです。受ける側の部下も適切なコミュニケーションを理解しておくと、組織内でのコミュニケーションがさらに円滑になります。適切なフィードバックを受けることは、自分自身の成長にもつながります。

とはいえ、ネガティブフィードバックを受ける側に立つのは心理的な負担になります。「自分はきちんと働いている」「良い行動をしている」と思っているのに、「あなたの働きはギャップがある」「その行動は変えて欲しい」と言われるのですから、面白くないと思うのは当然です。

しかし、フィードバックは、受ける側にとっては、ある意味で貴重なギフトです。

なぜなら、伝える側は嫌われるリスクを冒してまで、あなたのことを思ってあえて耳が痛い話をしてくれるからです。

あなたに何の関心も期待もなければ、わざわざ面倒なフィードバックはしないはずです。そして、自分の行動が周囲の期待とズレていることを誰も伝えてくれなければ、そのギャップは解決されず拡大し続けます。それは、長く働く現代社会においてキャリア形成のリスクに直結します。

耳が痛いことを言ってくれる人が身近にいるだけでも、実はありがたいことです。

多くの伝える上司側も「嫌われるかもしれない」「パワハラと思われるかもしれない」とフィードバックには躊躇を感じています。

そんな上司に「そんなこと言ってもらわなくていい」「余計なお世話です」「うるさいな」という反応をしてしまったら、貴重なギフトは二度ともらえなくなります。だから、ちゃんと感謝して受け取る姿勢が大事です。

もちろん、内容は自分の認識と異なる耳が痛い話ですから、すぐに受容や感謝をできないこともあるかもしれません。「どうしてこんなことを言われないといけないんだろう。納得できないな」とモヤモヤするのが普通でしょう。

このモヤモヤは先述した「認知的不協和」で自然な反応です。しかし、落ち着いて「あの人が言っていることは正しいかもしれない」「上司や会社の視点は自分と違うのか」と考えてみることも必要です。

人間には、自分の価値観や意見を肯定する情報を集めたがる「確証バイアス」が存在します。特にネット社会では「フィルターバブル」と呼ばれる、アルゴリズムが自分に都合が良い・興味がある情報を集め続けることで自分の意見が強化されやすい環境もあります。

自分とは違う経験や情報を持っている上司のナラティブを受け入れてみることが、気づきにつながる可能性があります。

自分ではうまくできているつもりでも、傍から見るとうまくできていなかったり、改善点があったりするものです。

自己認知と周囲認知の関係性を表した「ジョハリの窓」というコミュニケーション理論がありますが、自分には見えていないが相手には見えている「盲点の窓」を減らし、相互理解している「開放の窓」を増やしていくとお互いストレスなく働けるようになります。

私も以前の上司に、「難波さんが会議で発言するとき、言っていることは正しいけど言い方が厳しいときがあって、若手が怖がって委縮してしまうことがある」と言われたことがありました。

「そんな弱気な姿勢でプロのコンサルタントが務まるか」と、微妙にイラッとしてその言葉を流そうという思いもありましたが、そうすると自分の行動は変わりませんし、委縮してしまう若手の状況も変わりません。そこで「ちなみに、それはどういう場面で怖さを感じましたか?」と冷静に上司に質問しながら深掘りしてみました。

すると、「異動してきたばかりの若手は、ベテランに短い言葉でズバッと言われると萎縮するものです。そういう若手の発言に意見やアドバイスを出すときは、声のトーンや表情に気をつけてください。そうしないと、難波さんが望むプロ集団に成長していきません」。

丁寧に説明していただいたことで、「なるほど」と知らなかった自分に気づける機会になりました。自分では同じ立ち位置の同僚として忌憚なく意見を交換できると思っていましたが、組織内で上から数えたほうが早いベテランとなり、気づかないうちに威圧感が出ていたのかもしれません。まさに「盲点の窓」でした。

想像していなかった指摘を受けたときは一瞬イラッとしても、「自分は完璧ではない」「自分の正しさは、必ずしも相手の正しさではない」「実は相手の意見が正しいかもしれない」と考え冷静に対話して深掘りしてみる。そうすると、意外な自分の姿が見えてくるものです。

ただし、受け入れるものは受け入れて、受け入れられないものはちゃんと感謝しながら断る姿勢も必要です。

「フィードバックは貴重なギフト」と言いましたが、なかには、伝える側のマウンティングだったり、権威や立場を利用して自分の思い通りにコントロールしたいエゴだったり、ただの重箱の隅をつつく作業だったりするケースもあります。そういう場合は、フィードバックそのものを「断る選択肢」があってもいいと思います。

自分の価値観と照らし合わせて譲れないと思うなら、「お話しいただいたことに感謝しますが、私はこのスタイルを通します」という選択もありです。

言われたことを100%鵜呑みにするのが良いフィードバックではなく、自分の価値観と照らして「合意しないことに」ことも時には必要です。

ただし、「合意しない」選択をする場合、その旨は上司にきちんと伝えて違うゴールで合意できるまで対話しましょう。表面上は合意したふりをして内心では納得しないという「面従腹背」は双方のミスリードにつながり、後々問題になりますし、自身の評価を著しく低下させます。

ネガティブフィードバック
難波猛
マンパワーグループ株式会社シニアコンサルタント

プロティアン・キャリア協会認定アンバサダー/人事実践科学会議事務局長/日本心理的資本協会理事/NPO法人CRファクトリー特別アドバイザー

1974年生まれ。早稲田大学卒業、出版社、求人広告代理店を経て2007年より現職。研修講師、コンサルタントとして3,000名以上のキャリア開発施策、2,000名以上の管理者トレーニング、100社以上の人員施策プロジェクトにおけるコンサルティング・研修等を担当。セミナー講師、大学講師、官公庁事業におけるプロジェクト責任者も歴任。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます。
ZUU online library
※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます。