本記事は、難波猛氏の著書『ネガティブフィードバック 「言いにくいこと」を相手にきちんと伝える技術』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。

VALUE
(画像=Song_about_summer / stock.adobe.com)

ネガティブフィードバックの4つの価値

なぜ、あえて耳が痛いフィードバックを行う必要があるのか。その価値は、大きく4つあると考えられます

1つめは、「組織のため」です。

会社などの組織は、変化し続ける社会や顧客に対して価値を提供できる集団であり続けなければ、存続することはできません。そのためには、全社員に会社の期待を上回る行動や貢献、絶え間ない変化と成長が求められます。

しかし、すべての社員がその期待に応えられている会社は、なかなかないのではないでしょうか。他の社員の頑張りや過去の財産で現状はカバーできていたとしても、期待を下回る状況を放置していると、やがて組織運営の障害になることがあります。

2つめは、「部下本人のため」です。

厳しいことを伝えなくても、期待に応えられていない自分に気づき、自らを奮い立たせてアップデートや改善をくり返せる人もいますが、やはり気づけない人は一定数存在します。

人は一般的に、周囲評価より自己評価の方が高い傾向があり、気づかなければ、変わることもできません。

なかには、応えられていないことに薄々気づきながらも、上司に「それはダメですよ」と言われないことで「何も言ってこないから、これでいいんだ」と解釈して、同じことをくり返している人もいます。上司の沈黙は肯定と同義になります。

いずれにしても、ギャップが生じている場合はフィードバックをしてあげないと、 部下の気づきの機会、そして成長の機会を奪うことになります。

3つめは、「周りのため」です。

上司が会社に貢献していない部下を見て見ぬふりをしていたり、やってもやらなくても何も言わなかったりしていると、周囲にマイナスな影響を与えます。

特に、その対象がベテラン社員の場合、「あの人はあまり仕事してないけど給料だけは高いんだよね」「うちの会社は、やってもやらなくても変わらないから真面目に働くと損をする」という不満が水面下で蔓延するようになります。

厳しいことを伝える姿勢を上司が示さないままでいると、組織のモラルや士気を低下させることにつながり、若手社員がどんどんやる気を失って、最終的には会社を辞める原因にもなります。

特に、将来有望な自律的な若手ほど「この会社にいても成長できない」「目指したい先輩がいない」と感じると退職を選択する可能性が高くなります。

4つめは、「上司自身のため」です。

「言いたいこと」「言ってあげたほうがよいこと」を言わずに我慢すると、上司自身のストレスになります。

たまに、「いろいろ言うと部下の機嫌を損ねるし直させる手間も大変なので、不十分な成果でも自分がプレイヤーとしてカバーしている」という上司を見かけますが、上司のリソースを本来部下に任せる業務に割くのは本末転倒で、上司のためにも組織のためにも本人のためにもなりません。

部下も、上司が思っていることを人づてに聞いたり、噂話で聞いたりするのはとても不愉快です。お互いに健全な状態とは言えません。

また、部下に厳しいことを伝えることは、「部下に求めていることを自分はできているか」「部下が素直に聴いてくれる関係性を構築できているか」など、上司自身の振り返りや成長にもつながります。

相手に厳しいフィードバックをするということは、我が身にブーメランがはね返ってくる可能性があるからです。勇気がいる行為ですが、その先に上司自身と部下の成長が待っています。

適切なフィードバックは組織のため、部下本人のため、周りのため、上司自身のためでもあるのです。

フィードバックの重要性は、世界の著名な経営者も語っています。

たとえば、ビル・ゲイツは、「私たちが進歩するには、フィードバックを与えてくれる人が必要だ(We all need people who will give us feedback. That’s how we improve.)」。

イーロン・マスクは、「自分が何をしたか、そしてどうすればより良くできるかを常に考えるフィードバックループを持つことが非常に重要だ(I think it’s very important to have a feedback loop, where you're constantly thinking about what you've done and how you could be doing it better.)」。

さらに、「私はネガティブフィードバックが大好きだ。なぜなら自分の間違いに気づき、すぐに修正し、同時にそこから学ぶことができるから(I really like negative feedback, because it makes me aware of my mistakes to correct them immediately and learn from them at the same time.)」と語っています。

日本でも、経済産業省の「人生100年時代の社会人基礎力(平成30年2月)」の中で、「仕事の経験を通じたリフレクション(振り返り)と多様なフィードバックの積み重ねが、能力開発やキャリア形成の軸になる」と明記されています。

フィードバックは、世界的な経営者や国の有識者たちも認めるほど重要度が高いということです。

ネガティブフィードバック
難波猛
マンパワーグループ株式会社シニアコンサルタント

プロティアン・キャリア協会認定アンバサダー/人事実践科学会議事務局長/日本心理的資本協会理事/NPO法人CRファクトリー特別アドバイザー

1974年生まれ。早稲田大学卒業、出版社、求人広告代理店を経て2007年より現職。研修講師、コンサルタントとして3,000名以上のキャリア開発施策、2,000名以上の管理者トレーニング、100社以上の人員施策プロジェクトにおけるコンサルティング・研修等を担当。セミナー講師、大学講師、官公庁事業におけるプロジェクト責任者も歴任。

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