特許では得られない「生産技術」の難しさ
今回も小林製薬の紅麹からシトリニンは検出されていない。そうなると紅麹製法の問題ではなく、製造過程で青カビ由来の強毒性プベルル酸などの異物が混入した疑いが残されている。問題となったサプリを製造していた大阪工場は老朽化が進んだため、2023年12月に閉鎖されている。
小林製薬は3月29日の記者会見で、グンゼから事業を譲受するまで麹製造の経験がなく「(グンゼから)技術者も入社してもらい、(製造法を)手順書に落として引き継いだ」としている。知的財産で文書化されている製法と違い、生産技術は現場のノウハウを積み上げだ。異物混入も、生産ラインの老朽化や安全管理の不徹底といった生産技術上のトラブルである可能性が排除されていない。
生産技術が問題を引き起こすリスクは、M&Aで新規事業の垂直立ち上げ(新製品販売のタイミングで量産をスタートし、売上を最大化させる戦略)を目指す「時間を買うM&A 」の落とし穴になり得る。企業や事業の取得がM&Aの「ゴール」ではない。とりわけ既存事業との関連性が薄い新規事業でのM&Aでは、完璧な対応が求められる。
文:M&A Online