新しい資本主義の担い手であるベンチャー企業。政府からユニコーン100社創出が宣言されたこの状況下において、「現在の成長企業・ベンチャー企業の生き様」は、最大の関心事項と言える。ジャンルを問わず、一社のトップである「社長」は何を思い、どこにビジネスチャンスを見出しているのか。その経営戦略について、これまでの変遷を踏まえ、様々な角度からメスを入れる。
これまでの事業変遷について
ー 御社は60年以上の歴史をお持ちですが、これまでの事業の変遷について教えていただけますか?
西村 当社は1962年に創業し、西日本で一番古いITの会社と言われています。創業期、成長期、そして現在の第二創業期と、さまざまな変遷がありました。
創業当時は、各地に電子計算センターがたくさんでき始めた時期で、当社も大きなコンピューターを使って計算結果を提供するサービスを福岡で行っていました。その後の成長期には、汎用機中心の開発をして、しっかり利益を出していたのですが、その汎用機の規模が時代と共に大きくなっていくにつれてついていけなくなり、2020年に前のオーナーが売却を決意しました。
そこで私が事業承継して、シニア層を中心に構成されていた経営陣を、30代半ばの若手人材に入れ替え、マネジメントスタイルを変えることにしました。2021年から現在は、コンサルティングから戦略、実装までを行う会社として第二創業期と位置付けて、付加価値の高いビジネスを展開しています。
ー 西村様が事業承継された際、どのような変化がありましたか?
西村 先代から会社の株式を全て引き受けてオーナーシップを持たせてもらうことで、非常に動きやすい状態からスタートできたと思います。そのおかげで組織や人材の採用など、さまざまな変革をスムーズに行っています。
ー 経営陣の若返りが大きな変化だとおっしゃいましたが、どのような狙いでメンバーを集めてきたのでしょうか?
西村 抜本的に変革を行うために、実際に何かを変えたという経験がある人を集めました。例えば、CXOクラスの経験がある人や、M&Aレベルである程度の規模のある会社を統合した経験がある人などです。このような人たちが大きな意思決定や感情が動くような場に立ち会った経験があることを基準にしました。
ー 現在、事業として一番力を入れて取り組んでいることは何ですか?
西村 中堅・中小企業の経営変革を支援することです。デジタルの要素を強く押し出し、DXという言葉で表現しています。昭和・平成で作られた組織体を、外部環境の変化に合わせて変える必要があると考えています。戦略やマーケティングの専門家が入り、包括的なコンサルティングを行っています。
自社事業の強み
ー 御社の一番の強みを教えていただけますでしょうか?
西村 地方で事業を展開しているところが強みだと思います。我々の事業領域は、戦略コンサルティングや総合系のコンサルティングが日本に広く浸透しているため、差別化がとても難しいです。大手の戦略コンサルティングや総合系のコンサルティング企業ですと、地方のクライアントに向けて綺麗な絵は描けても、なかなかクライアントの中に入り込むことが難しい場合があります。 私たちのアプローチは、まずクライアントの中に入って初期仮説をしっかり立て、お客様のビジネスや考え方について議論します。その上で、全社的な課題を洗い出し、私たちがこれまでに経験してきた中堅企業の事業再生の手法を用いて、変革が進みやすい組織体制や意思決定の場を整えます。
このアプローチは我々自身が地方で事業展開しているからこそできることだと思っています。
ー デジタル化や人材育成についてもソリューション展開されているようですが、どのようにクライアントを支援しているのでしょうか?
西村 まず、トップガバナンスの強化を図り、デジタル化を推進し、それを推進し、それに伴い、人材や組織の考え方に変化をもたらすことを意識しています。そのため、人材育成や行動様式の変革にも力を入れています。私たちがIT業界出身であることから、デジタル分野の支援に強みがあります。
ー デジタル分野の強みは西村様のご経歴があってこそだと思うのですが、具体的にどのような経験があるのでしょうか?
西村 最初はシステムエンジニアをしていたので、ITに関しては一般の「非IT出身の」社長に比べると強みがあります。また、30代から地方の企業に入って立て直しを行い、その経験を繰り返してきました。そのため、これまでの経験を活かし、民間企業でも再現できるように取り組んでいます。
現在一番関心のあるトピック・関心事項とその理由
ー 今後御社が成長していく中で、最も関心がある重点的なテーマは何でしょうか?
西村 マネタイズが難しい領域なので一概には言えませんが、私自身はコンサルティングを行う際にも、戦略や組織の立て直しを重要視しており、それは自社においても同じです。
変化しゆく外部環境に対応するためには優秀な人材の確保・育成が必然で、そのためには企業カルチャーを抜本的に変えることが必要だと考えています。
ー 御社の戦略や展望において、人材の確保や営業活動はどのように位置づけられていますか?
西村 営業よりも人材の確保が重要だと考えています。私たちが行っていることは、企業カルチャーを変えることで、お客様に良いサービスを提供できるようになることです。そのためには、従業員が自分たちの行動様式を変えることが求められます。例えば、コミュニケーションツールを変えたり、企業風土を変えるために人事制度を動かしたりすることが重要です。そういった変革を行うためには、優秀な人材が不可欠です。
ー 御社が成長するためには、どのように人材を確保し、彼らの力を最大限に引き出すことができるのでしょうか?
西村 まず、我々自身が変革をリードする企業であることを示すことが大切です。そのためには、企業風土を変えることが重要です。まだ変革半ばではありますが、バリュー重視の評価体系や、バリューを出してこそですが働く時間・場所の柔軟さ、東京の一流企業にも負けない報酬制度設計など、優秀な人材にとって魅力的な制度・カルチャーを整えて行っています。これにより、優秀な人材が我々の組織に興味を持ち、入社してくれるようになります。また、既存の従業員も新しい価値観に目覚め、バリューを出すようになります。
ー 西村様が社長に就任されたときには、人材面でも課題があったと思いますが、どのように取り組んできましたか?
西村 私が入社したときには、職員たちが比較的ウェルカムな反応を示してくれました。従来のやり方から変えなければならないと考えていた私に、ある程度賛同してくれてみんなで組織風土の変革に取り組んできました。
ただ、中には変化を受け入れがたい人や、変化の方向性が私と違う人もいました。そういった人たちにしっかり理由を説明してコミュニケーションを取ることで、私の本気度が伝わり、会社としても一丸で動けるようになりました。
今後の構想
ー 事業承継されてから現在に至るまで第二創業期だと伺いましたが、変革にはさまざまな課題が出てくると思います。その変革の進捗状況や課題に対するアプローチをお伺いできますでしょうか?
西村 上記図の、第一段階の組織風土刷新と、第二段階のデータマネジメント推進はだいぶ進んだと思います。社内のデータでお客様およびその事業の戦略もオープンになり、情報量が新卒とマネジメントレベルであまり変わらないくらいになってきました。データの蓄積と整備をしっかりし、デジタルデータを使った経営が少しずつできるようになってきました。
最後の顧客接点の変革については、私の前職であるコンサルティングのスタイルで変革を行うと、気合と根性の世界になり、コミットメントの強さが重要になります。しかし、それは非常に属人的であり、変革期だからこそやるやり方です。そのため今後は、クラウドやソフトウェアの開発といったエンジニアリングと、従来のコンサルティングの融合を、意図的に起こして、顧客接点獲得機能とのチームアップを強化していく方針です。
ー 本日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。
- 氏名
- 西村 秀星(にしむら しゅうせい)
- 社名
- 株式会社FCCテクノ
- 役職
- 代表取締役