◉全部取得条項付き種類株式


次に、後継者が発行済株式の役70%(議決権を行使することができる株主の議決権の3分の2以上)を保有する場合に、企業の事業承継に利用することができる制度として全部取得条項付き種類株式というものがあります。
全部取得条項付き種類株式とは、株主総会の決議によって株主が保有している株式の全てを取り上げることができるという株式をいいます。この場合、株式を取り上げられた株主には対価が交付されることとなります。

この制度を利用した企業の事業承継手続の概要としては、次の3つの決議を1つの株主総会で可決させることになります。
まず、第一段階として、定款変更手続きにより全部取得条項付き種類株式と議決権制限株式を発行する会社(種類株式発行会社)となり、発行済み株式はすべて全部取得条項付き種類株式に変更します。
次に、第二段階として、第三者割当増資の形で後継者に普通株式(議決権が制限されていない株式)の割り当てをします。
最後に、第三段階として、全部取得条項付き種類株式の取得決議を行い、対価として議決権制限株式を交付します。

この一連の手続きにより、株主総会における議決権を持つのは後継者だけにすることが可能ですので、実質的に後継者に経営権が集中することとなります。
なお、議決権制限株式の利用との違いですが、議決権制限株式の導入の場合には、株主の同意を得る必要がある(少なくともトラブルを避け、登記申請が受理されるためには同意が必要です)のに対して、全部取得条項付き種類株式は約70%まで株式を後継者が取得すれば決議を通すことが可能となるという点です。

ただ、この方法の場合には、反対する株主の買取請求制度があることから(会社法第116条第1項第2号・第172条)買取費用を用意しなければならないことや、少数株主の「締め出し」策とも取られてしまうことからトラブルとなるおそれがあることがデメリットとしてあります。


◉まとめと専門家の助力


このように企業の事業承継にとって新会社法における株式の制度は、使い方によっては大変便利に利用することができます(他にも拒否権付き株式と呼ばれる株式を利用した方法もありますが、分量の関係から割愛させていただきます)。
ただ、説明の中で感じられたかもしれませんが、会社法の株式制度を利用した手続きは大変複雑になります。また、制度的に様々なメリット・デメリットを抱えています。
そのため、株式制度を利用した事業承継を企図される場合には専門家の助力を受けることが必要となります。

株式制度は登記と深い関係があるので第一時的な専門家は、司法書士となります。そこで、まずは役員変更登記などで付き合いのある司法書士に気軽に相談されることから始められることがおすすめできます。
このように会社法を利用して企業の事業承継手続きを進めることが可能であることを、これから事業承継手続きを検討される経営者様には是非ともお知りおきいただければと存じます。

BY S.K(行政書士)

photo credit: iwillbehomesoon via photopin cc