こんにちは、企業の事業承継に取り組む行政書士のS.Kです。
毎週木曜日にオーナー企業のための事業承継を連載しております。
今回は会社法の制度を利用した企業の事業承継の進め方についてご紹介いたします。
【参考 オーナー企業のための事業承継】
オーナー企業のための事業承継vol1「事業承継の必要性と円滑化のための法制度とは?」
オーナー企業のための事業承継vol2「後継者選びのポイントとは?」
オーナー企業のための事業承継vol3「後継者選びのポイントは?その2」
オーナー企業のための事業承継vol4「建設業界に学ぶ許認可事業の事業承継って?」
オーナー企業のための事業承継vol5「会社の現状を把握するポイントとは?」
オーナー企業のための事業承継vol6「企業の事業承継の際の法律上の問題点とは?
オーナー企業のための事業承継vol7「家族の絆を守る後継者以外への配慮とは?」
オーナー企業のための事業承継vol8「後継者の適性・選定のポイント」
◉会社法の特徴
まず、前提として会社法という法律の特徴についてお話させていただきます。
会社法は平成18年5月1日から施行された新しい法律です。会社法はその名のとおり会社に関する事項を定めた基本法典です。かつては商法という法律の中に会社に関する規定が設けられていたのですが、社会の素早い変化の中で会社に関する法律を独立して作る必要性が高まったことから、新しい独立の法典として会社法が制定されました。
会社法の制定はそれまでの会社に関する規制に関してとても大きな変化をもたらしました。最低資本金制度の撤廃、有限会社制度の廃止、株券の原則不発行など以前の商法では違法とされていたことが適法とされたり、その逆があったりと非常に大きな改正で、会社法実務にとても大きな影響を与えました。
そして、こうした様々な改正の中で企業の事業承継にとって便利に利用できる制度を作り出されました。
具体的には株式に関する制度が企業の事業承継にとって便利に利用できる制度となっています。
◉議決権制限株式
企業の事業承継のために便利に利用できる株式の制度として、議決権制限株式があります。
議決権制限株式は会社の株主総会の席における議決権(発言権)を制限する制度です。この議決権制限株式は、以下のような形で企業の事業承継に利用することができます。
企業の事業承継を実施するにあたっては、企業の後継者に株式を集中させ、経営に対する発言権を後継者が持つようにすることが重要となります。しかし、すべての株式を後継者一人に集中させるためには、株式の買取資金をどのように調達するかという調達資金の問題が生じます。また株式の買取や贈与にあたっては、所得税、贈与税という税負担の問題が生じてきます。
つまり、企業の事業承継の実施のためには、株式を後継者に一極集中させたいものの、全株式を後継者に集中させるためには金銭的な問題が立ちふさがってしまう可能性があるのです。
そこで、この場合、後継者以外の株主が保有する株式の内容を議決権制限株式と変更することで株主総会における発言権を喪失させ、結果として、後継者のみが経営に関する発言権を持つという結果を引き出すことができます。これが企業の事業承継手続きにおける議決権制限株式の利用方法となります。
なお、この場合の登記手続きについては、学説上やや疑義があり(昭和50年4月30日登記先例/民四2249号。また松井信憲氏著・「商業登記ハンドブック」243頁)ますが、定款変更・その事実を証明する株主総会議事録・株主の同意書があれば受理される扱いです。
このように議決権制限株式を利用することで他の株主の発言権を封じて、結果的に後継者が100%株式を保有しているのと同じ状況を作り出すことが可能となります。