◉ビッグデータで株価を予測出来る理由と残された課題

では、ビッグデータを用いて株価を予測出来るのは何故でしょうか。

そもそも株価は、基本的に先に言及した「経済に関係する数値(ファンダメンタル)」と「人々の行動」によって決まると考えられます。雇用統計が良ければ株価が上がる事が比較的多いし、曇りの日は株価が下がる事が比較的多いというように、数値を重視して投資を行ったり、その日の気分が投資行動に影響が出たり、その影響が出た投資行動を予測して投資したりと「数値と感情」のせめぎ合いの中で株価が生まれます。

社会の動きと株価は完全に一致しないまでも、社会の動きが経済の動きでもある以上、社会の動きは株価と大きく関係します。社会の動きで大部分を占めるのが人々の行動であり、それらを表したものの一つがtwitterのツイートであるわけです。

そこに現れるツイートは、単純に「悪天候に影響された暗い感情」もあれば、「営業成績の上昇で嬉しい気分」や「雇用統計を見て喜んでいる投資家の気分」も入っています。最初にビッグデータを用いた株価推定は行動ファイナンスの領域だと言いましたが、データ自体には、ファンダメンタル以外の要因だけでなく、ファンダメンタルな要因やそれに対する反応も含まれているのです。

一方で、実際に株価を動かすのはツイートしている人のごく一部であり、感情値が株価と相関しているからと言って、感情値と株価に厳密な因果関係がある事が証明されたわけではない事には注意が必要です。

また、前述の研究においても、「突発的な株価上昇や下落」についての説明力は低いという限界もあります。大規模な自然災害などは、人々の普段の行動や感情とは無関係に発生する突発的な事象であり、現在の科学技術で予測が困難な事象が起こった場合には対応出来ないのです。

◉一般投資家は株価推定研究をどう活かせるか

では、一般投資家はこうした株価推定研究を投資にどう活かせるでしょうか。勿論、こうした論文を元に投資ツールを作る事も可能ですが、そうでなくとも、その理論的背景から示唆される「数値と感情」の重要性を理解し、投資に役立たせる事が可能でしょう。

例えば、ある企業について「業績が伸びるだろうという予測」が大勢を占めた後、その株価が上がる事が多いですが、実際に業績の発表があって「現に業績が良かった」場合、業績発表の結果には何の驚きが無い筈なのに更に株価が上がる事が多いです。

裁定取引という言葉があります。確実に儲かる情報が誰かが知った場合、理論的にはすぐに株価に反映されて裁定取引機会が失われてしまうわけですが、上記の場合はどうでしょうか。多くのアナリストが「確実に業績発表は良い」と言う予測が確実だとすれば、業績発表後にこれ以上株価は上がらない筈ですが、実際にはそうなっていません。

これはつまり、ある同じ情報が出た中でもそれを信じて投資行動をする人と、それを信じない又は懐疑的な人がいるという証拠になっています。理論的には、業績発表前の株価は、「業績上昇を信じる人」と「業績上昇に懐疑的な人」がつける価格の確率加重平均です。

Twitterを元にした株価予測の精度が高いのは、社会の動きとそれに対する様々な反応がうまく確率加重平均になっているからであり、実際に投資をする場合も、多くの人が言っている事をそのまま信頼するのではなく、プレーンな情報を読み取り、それに対して人々がどのように反応するかという様々な可能性を想定する事が重要だと言えるのではないでしょうか。

BY T.T