スイス中銀の不意打ちで中央銀行の信頼失墜~気になる日銀政策との共通性

中央銀行の政策は、市場との対話により形成されていくべきものではあるが、大きな政策変更はサプライズ的に行われることも多い。ただ、今回の声明発表は市場にとってはまったく寝耳に水の状態で、たった20分のうちに対ユーロで4000PIPSのスイスフラン高騰という動きを見ても市場の想定外の規模が伺い知れるネガティブサプライズであったことは間違いない。

過去30年の為替市場の動きでもこれだけ短時間に相場が変動したケースはまったくないとも言える状況で、イングランド銀行とジョージ・ソロスの対決でも、アジア通貨危機の時でもここまで短時間の変動は見当たらない。発表後ジョーダンスイス国立銀行総裁は市場とのコミュニケーションをとる余裕がなかったことをしきりに強調しているが、市場関係者からの反応はきわめて冷ややかで、すでに中央銀行としての信頼を完全に失墜したとの見方も強まっている。


そもそもSNBの為替上限設定は功を奏していたのか?

EU圏と隣接するスイスが2011年のソブリンリスクに巻き込まれ、必要以上の通貨上昇に追い込まれないように対ユーロで上限設定をした背景は容易に理解できる。しかし戦後、永続介入などというレガシーな手法をもってして自国の通貨をコントロール仕切れているケースは、中国のような強引な統制以外にはほとんどない。実際この政策実行以来スイス経済自体はユーロ圏よりも早く経済が拡大してきたものの、インフレ率に関しては依然としてゼロに近いところを推移しており、EU諸国同様デフレリスクには直面したままで回避には至っていない。


今後スイス中銀が直面する問題

今回の上限撤廃で即座にスイス中銀が直面するのは中央銀行としてのバランスシートにおける含み損の拡大である。スイスフランベースでは大幅に減価の恐れのある外貨建て資産を大量保有し計上することになるため、含み損の拡大は免れない。それを考慮してももはや自国通貨の価格を支えることはできないとの判断が働いたものと思われる。


スイス中銀の手法にみる日銀との共通性

気になるのはスイス中銀の設定した対ユーロ1.2上限の無制限介入というスタンスである。1.2というラインが正しいものだったのかどうかの評価はかなり難しいところだが、世界的に目標設定を公表しそれを遵守することを高らかと宣言したものの、最終的に白旗をあげてギブアップをするという方法は、市場とのいかなるコミュニケーションをとったとしても応分の信頼失墜は免れないものである。この事態を見ていると気になるのが日銀の政策目標設定の類似性の問題だ。つまり2%のインフレターゲットを達成するまで金融緩和策のあらゆる手立てを尽くすと高らかに宣言して遂行しているところが酷似しているといえる。