財政に対する過度な不安感が二つの誤解からきていることを引き続き解説する。

一つ目は、国債の60年償還ルールによる債務の返済負担感についての誤解であった。二つ目は、年金基金の取り崩しについての誤解である。

資源輸出国などで、将来世代に資産を残すため、巨額な政府の年金基金が存在することがある。日本は、資源輸出国ではないにもかかわらず、国民の貯蓄により巨額な政府の年金基金を持っている。ここ数年、年金財源を補充するため、年金基金の取り崩しが年5兆円程度あれ、財政に対する不安の一つの原因になっている。

年金基金を取り崩すということは、それが社会保障費として支払われ、その支出が現役世代の所得を増加させることになる。

高齢化比率の上昇(年率0.5%程度)による所得の減少が年率1%程度だとすると、年金基金の取り崩しによるGDP対比1%=5兆円程度の所得の増加があれば、現役世代の負担をオフセットすることができる。

これまでは、高齢化比率が上昇しているにもかかわらず、年金基金が積み上げられ続け、過剰貯蓄がデフレ圧力として現役世代の負担を過度にしてきたと考えられる。

年金基金は140兆円程度あり、運用による残高の増加(4%程度のリターンで5兆円程度)も考慮すれば、年金基金の取り崩しが始まったからと言って、急激に財政不安が拡大することはないはずだ。

年金基金が底をつくのは50年以上も先であり、団塊世代と団塊ジュニア世代が亡くなり、そのころには高齢化比率の上昇はほとんどなくなることになる。

本来は年金基金は存在するだけで安心材料になるはずであり、それが取り崩されるということは現役世代の所得を増加させ、デフレ圧力が和らぐことになる。

それが誤解により、取り崩しが始まっただけで、財政に対する過度な不安感につながってしまっている。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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