また、観光地の山頂で販売しているミネラルウォーターの価格が地上の数倍でも売れるのは、そこで購入して飲む水がその時点で喉の渇きを癒すという目的に最もタイミングが合っているからだ。たとえ高価格でも、高い満足感で受け入れられるのである。ほかにも、ファッションにおけるブランドは、そのブランドを所有していることを他者から全く評価されなければ自己の満足感を満たしてはくれない。それにより、そのブランドにはほとんど価値がなくなり、顧客は減少することになる。

このように、付加価値の核となるベネフィットの価値を上げるだけでは、顧客満足という心理価値全体は簡単には上がらないし、高価格による購入障壁を崩せる力までは持てない。逆に、ベネフィットの基本価値をそのままにしておいて、 CI(コーポレート・アイデンティティ)を変えたりブランドイメージを上げたりするなどその他の満足度をいくら上げても、全体の満足度は上がらず、顧客の増加にもつながらないだろう。

また一方で、CIは高顧客満足度商品の旗印、標識でもあり、情報を伝播する広告塔でもあり、イメージでもある。それらは高価格障壁の強烈な破壊ツールとなり、商品の販促効果を担うのである。


『牛すき鍋膳』はターゲットを絞ることで成功した

しかしながら、高価格・高付加価値戦略の背景にある高顧客満足度戦略には、もう一つの重要な戦略的視点が隠されている。それは、顧客を絞り込むターゲットセグメンテーション戦略である。たとえば、牛丼の吉野屋を展開する吉野家ホールディングス <9861> の『牛すき鍋膳』のヒットがある。

牛丼業界といえば、若者を中心顧客にボリュームと安さで激しい戦いを続けてきており、「値上げなどとんでもない」という世界であった。その業界のなかで高価格、高品質戦略の導入が成功したのは、増加する高齢者という新たなターゲットをうまく取り込むことに成功したからである。それはつまり、ターゲット戦略の変更と新ニーズの発見である。

また、同社の店舗が居酒屋メニューを提供する『吉呑み(よしのみ)』戦略は、高価格戦略ではない。ちょい呑みニーズのある女性も含めた居酒屋顧客を、新たなオケージョン(機会)ターゲットとするセグメンテーション戦略だ。その戦略が功を奏し、新しいターゲットのニーズにぴったり対応する新商品を提供することによって、完全な取り込みに成功している。

ただ単に価格の上げ下げをするだけではなく、緻密なセグメンテーション戦略によってターゲットニーズを把握し、その顧客満足を確保しているというのが成功の理由である。いわば、統合的・多面的な戦略マーケティングによる総合的な顧客満足の獲得こそが成功の要因だったと言えるだろう。(ZUU online 編集部)

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